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家庭菜園物語  作者: コンビニ
121/180

3ー29 おかえりなさい

「ビールは生命の水だな」

「さくらさん、名言みたいに言ってますけど、ただの酒好きのセリフになってますけど。それよりもあの皇子の件は考えあってのことなんですよね」


 下手な口笛を吹きながらビールを煽っている。やっぱり考えなんてなかったパターンか。

 キキョウさんやスイレンさんにはお父さんを紹介したことは口止めしていて、諦めて帰ったと口裏を合わせてもらっている。後でお父さんや杏姉さんに怒ってもらおう、問題は彼女達が無事に到着できるかだけど。


「まぁいいですけど、相談があったんですけど、やることが立て込んでいるので、夏休みを前倒しして移動を開始してもいいですか?」

「好きにしろ。我が校は生徒の自主性を重んじるからな」


 ビールを片手にキリッとした顔しているが、様になっていない。

 自主性とか言っておきながら、最近は面倒くさがって放置気味だ。


「サイラだったか、あの畑仕事しながら研究してる奴」

「生徒の名前なんて1人も覚えてないかと思ってました」

「茶化すな。面白いことをしている連中の名前くらいは覚えている。あいつも家に連れて行くつもりか?」

「はい」

「そうか、悠がどんな顔をするか楽しみだな」


 ただ友人を連れて帰るだけなのに何が楽しみなんだろうか?

 ああ、男だからなかな。お父さんはそんなことで取り乱したりはしないと思うけど。


 さくらさんから許可はもらったので移動の準備をする。まずはスイレンさんに案内をしてもらいダークエルフが集まっている里へ向かう。その間にリリアちゃんとサイラ君はソード家の連中に任せて並行して移動をしてもらう。

 ダークエルフの里での用事を済ましたら、リリアちゃん達を拾って、家に帰って、またソード家に行ってパーティーに参加する。みたいなスケジュールを考えている。


「スケジュール通りにことが進めばいいけど。スイレンさん、お願いします」

「はい、モモ様」


 相変わらず固いままだけど、キキョウさんとスイレンさんは諦めるしかない。

 ピーちゃんに大きくなってもらい、スイレンさんと背中にお邪魔する。


「幻獣種に乗るのは初めてです。流石はモモ様」

「家に来れば神獣にも跨がれますよ」

「恐れ多いです」


 王坂方面に移動を開始する。途中で宿場町に一泊、スイレンさんおすすめの温泉に浸かったけどあれは良いものだ。お父さんが温泉が云々と言っていたのでよい土産話ができた。

 翌日には空を飛んでいる時にヒガシさんという竜族の人と会ったけど、暴言を吐かれたりして煩かったので死なない程度に撃ち落としておいた。


「あの方はカイラさんの兄君だと思いますよ」

「そうなんですか? カイラとは違うベクトルで失礼な人でしたね。嫌いです」


 些細な問題こそあったりはしたけど、無事にダークエルフの人達が住まう町? 村に到着した。

 スイレンさんが先に話を通してくれていたのもあり、ピーちゃん驚かれることもなくすんなり村に入ることができた。


 スイレンさんは巫女様と呼ばれているらしく、さくらさんのメイド役をやっているので位は低くはないとは思ってたけど、予想よりも偉い人らしい。

 村長さんや村の方に簡単に挨拶をした後に、スイレンさんと2人で村の外れにある木こり小屋に案内してもらう。

 黙々と木を割って薪にしている男性がいる。エルフは線が細い人が多い印象だったけど、その人は木こりのためか、筋肉質な体つきをしている。

 スイレンさんは気を使ってくれたの、案内が終わるとその場を後にしてくれた。


「こんにちは」


 私の挨拶に反応してこちらを見てくれるが、直ぐに薪に視線を戻してしまう。

 

「この剣に見覚えはないでしょうか?」

「ない」


 剣を見た瞬間に目が見開いた。明らかに知ってそうだけど、ないと一蹴されてしまう。

 

「私の母の剣だったんです」


 男性が手を止めて、呆然としている。

 私は突然きたわけではない、事前にスイレンさんを通して確認や話は通してもらっている。この人はちゃんとわかっているはずだ。


「母を帰してあげたいんです。遺骨は私の側に置かせて欲しいんですけどせめてこの剣くらいは家に帰したいんです」

「俺に娘なんていない!」

 

 スイレンさんからあらましは聞いた。おじいちゃんは、母が村を出ることを認めず、勝手に飛び出して、人族の男と結婚して孫を連れてきた時も会わなかった。

 自分の親族から人族と結婚してハーフエルフを産むなんてと、もう自分の娘ではないと追い返した。

 冷たい人だと思う。それでもこの人は今、泣いている。


「母もきっと後悔していたと思います。もっと上手に話せたんじゃないかって、貴方に似て意地っ張りな人だったと聞いてます。受け取ってはいただけないでしょうか?」

「娘のことを否定しておいて今更、父親面できるもんか」

「家族って喧嘩するものですから。私もお父さんと喧嘩したりしますし、でも最後にはちゃんと仲直りします。だから今、仲直りしたっていいじゃないですか」


 おじいちゃんが剣を受け取って抱き抱える。今はここまででいい。


「また来ます」


 心の整理がきっとつかないだろうし、また何年後かにこよう。

 落ち着いたらお墓参りに来てもらうのもいいかもしれない。母のお墓はあの場所なので移すつもりは断じてないことは明言しなきゃね。


「ぴー」

「私も泣くかと思ったけど、泣かなかったよ。なんだかね、晴れやかな気分なんだ。これで全部終わった」


 今ではお母さんと旅をしていたこと、辛い記憶もあるけど、寒い日には抱きしめてくれたり、笑いかけてくれた笑顔も、鮮明に思い出せる。

 全部を受け入れて、やっと次に進める気がする。


「モモ様、失礼します。問題が起きました」

「どうしたんですか? 私は今とても晴れやかな気分なんですけど」

「何者かの工作なのか、邪神とも呼べばれる悪魔が近くに召喚されました」


 なんですか、そのご都合主義的な敵の出現は。


「わかりました。サクッと倒してしまいましょう。今の私は誰にも負ける気しないんですよね」


 村に到着する前に黒く大きな蛇を新しく使えるようになった魔法で討伐する。

 イメージする、あの時の雷をより強く。空から落ちる一筋の光。


「神の怒り……」


 あまり表情を変えないスイレンさんが驚いた顔しているのは少し嬉しい。

 なんだか使えるようになったんだよね。さくらさんが随分前に言ってたな、心の問題だって、母の死を受け入れて全部に整理がついたからこそ使えるようになったのかもしれない。


「神の怒りって大袈裟じゃないですか?」


 でもかっこいいからいいかな? 神様は怒っても可愛らしい感じだったけど。

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