3ー19 罪悪感
女性も子供も獣人のハーフのようで、ガンジュさん達のような狼、犬系ではなく、いわゆる猫系の顔立ちをしている。
子供のパチリと開いた目が黄金色で、白い毛並みと相まってとても幻想的で、素敵だ。
口をぱくぱくしていたので、2人には水をそれぞれ流し込む。子供の方は起き上がれたけど、お母さんの方は起き上がることができないくらい衰弱している。
「あ、ありがとうございます」
お母さんの方はなんとか話せてはいるけど、目を開くことはできていない。
話をするにももう少し回復を待たないといけないだろうか? いえ、もしかしたら手遅れの可能性も……。
「話を聞きたくて、手短に聞きます。昔、エルフの女性を埋葬したと聞きましたどこに埋葬したかご存知ですか?」
「はい」
息が荒い、案内とかお願いできそうな雰囲気ではない。
どうしよう。
「貴女は、そのエルフのお知り合いですか?」
「その時に一緒にいた子供なんです。今はモモと名乗っています」
女性の体が少し震え、起きあがろうとしている。
補助して体を抱き上げると、ペタペタと顔を触られる。この人は目が見えないのかなもしれない。
「あの時の……逃げたと噂で聞きましたが」
「そうです。養父に拾ってもらって、母の墓参りができればと」
「ごめんなさない」
女性が謝るとポツリポツリと話してくれた。
外で薪を集めた仕事をしていた時に、大きな落雷があったこと、そこに女の子を抱えた女性がいたこと。
その女性に子供、頼むと懇願されたこと。この人が私を拾ってくれた人だったんだ。
「私が拾い上げたせいで、貴女を不幸にしてしまった」
「そんなことはありません。見つけてもらわなければ私ものたれ死んでいたと思います。お母さんを看取って、埋葬してくれたことも、私を拾ってくれたことも、感謝しています」
女性と一緒にひとしきり泣いた後、何かを探すようにして、呼びかける。
「イール、イールはいる?」
女性が伸ばした手を、少女が握りしめる。イール、この子のことなんだ。
「この方をお花摘みしたとこに連れて行ってあげて、わかる?」
手をブンブンと縦に振っている。まだ喋ることができないのだろうか?
3歳? 4歳くらいだろうか。
「モモさん、私はもう歩くことも難しいですが、この子が埋葬場所を知っています。共同の墓地ではない、花が綺麗なところにせめてと
女性に感謝の気持ちを込めて、手を握りお礼を言うと、力なく握られていた手を両手で突然強く握られた。
「厚かましいお願いです! この子だけでも逃してもらえないでしょうか」
「心配しないでください。貴女は私の恩人です、お子さん含めて助けます」
女性は安心したのか、浅い呼吸ではあるが、また眠りについた。
「イールちゃん、案内お願いできる?」
コクリコクリと何度か顔を縦に振ってくれる。頭を撫でると沢山の汚れが出てきた。綺麗に洗ったら、この白い毛並みは更に幻想的な美しさを出しそうだ。
農奴の人達を捕まえて、食糧を渡す代わりに女性の面倒を見るようにお願いし、イールちゃんと一緒に村の外へ向かう。
話しかけた時に側にいたイールちゃんにもそのお母さんに対しても嫌そうな顔をしていたけど、圧をかけたのと、食糧で懐柔することがなんとかできた。隅に放置されていたのも気になるし、いじめにあっていたのだろうか。
イールちゃんは栄養不足からか、歩く際もふらふらしていたので、おぶりながら案内してもらい、走ること5分程度で綺麗な花が咲いている、開けた場所に出る。
その一角に石が積み上げられ、枯れた花が花が置かれた場所がある。これがお墓かな?
「これがお墓かな」
うん、たぶんそうと言いたげに、首を斜めに縦に振る。可愛いな。
収納魔法からミルクとパン、器を出して、パンを浸してスプーンと一緒に差し出す。お肉とかだと胃がびっくりしてしまうかもしれないし、本当であれば火を起こしてお粥を作ってあげたいがそこまでの時間はない。
何故か、差し出してもジッと見るだけで食べようとしない。
「食べていいんだよ? その間にお墓を掘り起こすから」
ダメだ、一向に手を出してくれない。
もしかしてだけど、食べ残しではないとダメなのかな?
仕方ないと、一口食べて差し出すと、何度か器と私を見た後に、どうぞと進めるとやっと食べ始めてくれた。
さて、私はお墓を掘り起こさないと。スコップを取り出して慎重に掘り返すと、数分ほど麻のような布に巻かれた物が見つかった。腐食しているが、女性であったこと、エルフであったことが確認をできた。
「お母さん、おかえりなさい」
お母さんを新しいシーツに包みなおして収納魔法でしまう。物扱いになってしまうのが少し悲しいけど、収納できないはできないで、不便だからいいんだけど。
ご飯を食べ終えたイールちゃんを背中に乗せて、村に戻る。今後のことをもう一度、村長のとこへ話に行かないとと考えると面倒ではある。
村に戻ってまずはイールちゃんのお母さんの所へと思い、別に用意してもらった小屋に行くと、人だかりができていた。
私が帰ってきたことに気がつくと、お願いしていた樹人の人が怯えた様子で私を見てくる。
「違う、俺は何もしていない」
無言のまま進むと小屋の中で寝かせられた女性は既に息をしていなかった。
外傷はないし、清潔なベットも用意してくれている、お願いしたことはやってくれていたようだ。
イールちゃんをお母さんの側に降ろしてあげると、ペタペタと顔を触って不思議そうにしている。そのままお腹一杯になったせいか、お母さんと同じように横になってしまた。
「イールちゃん、ごめんね」
私のせいでイールちゃんはお母さんと最後の別れをすることができなかった。
罪悪感で押し潰されてしまいそうだ。でも、まだ私にはすることがある。イールちゃんが大きくなって、このことが理解できた時に改め彼女に謝ろう。




