3ー17 夏休み
最北の土地も少し熱くはなってきたけど、まだまだ過ごしやすい。
「モモ様は夏休みは帰る予定なんですか?」
「そうだね、帰る予定だけど、リリアちゃんとサイラ君は?」
「僕は帰らないかな。母も亡くなって、待ってる人もいないし」
「そうなんだ……ごめんね」
「気にしなくてもいいよ。話てなかったしね」
気まずい。しまったなぁ、触れ方も考えないと。
リリアちゃんのとこもまさかだよね?
「私はお金がないので帰りません! 薬草栽培、下着作り、魔道具作成の手伝い! できる限り稼ぎます! お腹を空かせた家族が仕送りを待っていますから」
「そっか、頑張ってね」
リリアちゃんのおかげで少し場が明るくなった。
「来年のお休みには予定を合わせて遊びに来てよ」
「け、賢者様の家に僕がお邪魔してもいいんですか?」
「私はお金がなくて」
「現物支給でよければ野菜とかお土産は出せるよ」
「来年は絶対に予定空けておきます!」
リリアちゃんが現金な子でよかった。
「モモ! さぁさぁ、家に帰るぞ!」
ドラゴンモードのカイラが降り立ってくる。あ、少し薬草を踏んでる。
サイラ君が少し涙目になってる。
「帰るって貴女の家ではないでしょ?」
「細かいことは気にするな!」
「じゃあ、2人共、新学期にまた」
ピーちゃんに大きくなってもらい、背に乗せてもらう。
「モモ、私に乗ればいいのに!」
「途中、寄りたいとこもあるから、カイラは先に家に行っててよ」
「どこに寄るんだ?」
「ちょっと、お母さんに会いに行ってくる」
「んー? わかった!」
本当にわかってるのかな?
カイラにはまた大福様に怒られるといけないので、森の前で降り立ってから入っていくように注意を促しで途中で別れる。
シールド伯爵領の寒村、私がいた村を空から探す。村の名前は大福様に鑑定してもらって教えてもらった。その村の名前からソード家の連中に場所を確認した。
「この辺のはず。あれかな? ピーちゃん」
「ぴー」
村の入り口の前に降り立つと、衛兵というにはボロボロの格好をした村人が槍を前に出して警戒してくる。ここなのかな? もう覚えてないや。
「そ、その魔物は何だ! お前は誰だ」
「あの子はピーちゃん、私はモモです。村長に会いたいので場所を教えてください」
「教えられるか!」
槍を更に前に突き出してくるので、先端切り落として、そのまま村の中にお邪魔する。門番の人は驚いたみたいで尻餅をついていた。
村の中に入ると悪臭が鼻につく。歩くと朧げな記憶が蘇る。村長の家はあっちだったかな?
それにしても活気もないし、村人も家の数の割には少ない気がする。
村長の家、ここだな。そうだ、嫌な記憶が蘇る。
イラッとしたので、扉を蹴破る。
使用人であろうおばさんが何か叫ぶと、おじさんが奥の部屋から出てきた。村人と比べると肥えているなぁ。見たことがある顔のような気がする。
「なんだお前は!」
「モモです。話があってきました」
「モモ? お前、その顔の傷! そうか、あの時のガキが戻ってきたのか! よしよし、運が俺にも回ってきたぞ」
ゲラゲラと笑いながら下卑た視線を向けて、手を取ろうとしてくるので、思わず払って手を折ってしまったみたいで、随分痛がっている。話が進まないので、回復魔法をかける。
「私のことを覚えているのであれば話は早いです。言っておきますが、別ルートでこれまで税金も納めていてもう農奴でもここの村人でもないです。貴方の言うことを聞く義理もないです。言葉を間違えれば怪我では済まないかもしれないですから気をつけてくださいね」
できるだけ穏やかに、笑顔で話はしたが、カクカクと男は頷いて怯えていた。
「私の母の亡骸と、持っていた道具など残ってるかわかりませんか? ああ、嘘をついたらわかってますね。そうだ、話してくれたらこれをあげますよ」
数枚の金貨を出すと、喜んで男が飛びつく。お金も出すのは癪だけど、お金で解決できるなら楽で助かる。正直、皆殺しにしたいとか、顔の傷の恨みとか、もう面倒くさい。
男が家の奥に戻ると、一本の剣を持ってくる。受け取った剣は碌に手入れもされておらず、そこまで価値がある物ではない。でも握った瞬間に思い出した。これはお母さんが持っていた剣だ。
「よかった。他にはないですか?」
「な、ない本当だ!」
「そうですか。それではお母さんの亡骸はどうなっていますか?」
「知らない、これも本当だ!」
「貴女は知っていますか?」
数枚の金貨を追加で出す。男がおばさんに知っていれば答えるように促す。
「えっと、獣人に、農奴に処分するように話していたはずです」
「その獣人を教えてください」
「覚えて……いえ、確かではないですが、白い子供を産んだ女? のはずです」
「わかりました」
お金を追加でテーブルに投げ捨てて、村長の家を後にする。
この人達に流石にお礼を言う気にはなれない。
村人に聞いて農奴いる区画に移動する。村の端、痩せた畑が広がっており、その一角に幾つかの建物がある。畑に出ていた獣人に白い子供を産んだ女性の話を聞くと嫌そうな顔をされたので、干し肉を差し出すと快く教えてくれた。
教えてもらった場所に行くと、悪臭が更に酷くなっているのがわかる。死臭だ。
死体がそこら辺に転がっている。どんな管理をしているのだろうか。これが寒村の現実なのかな。聞いていた話以上に実際は精神的には辛い。
聞いた建物中に半分死にかけた人が多く、会話にならなかった。白い子供を目印にすれば見つかるかな。
道端に子供と母親らしき死体が転がっている。親子揃ってか、可哀想に。
あれって、白い? 薄汚れているけど髪も白くて肌も白い! この子がそうならこの女性がそうなのかな。虫の息だけど、まだ生きている。
回復魔法は多少体力が必要だ。耐えられるかな、でもこのままでは死んでしまうだけだ。
2人に魔法をかけてみると、子供の方はパチリと目が開き、女性も反応が少しあった。
「あの、大丈夫ですか?」




