第6話 私を飼ってくれますか?
第2章(全40話)開幕。
名前:月乃 玲
ギルド:無所属
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』E『鑑定眼』F『交渉術』F『礼儀作法』G『挑発』G
やはりスキルはそう簡単に増えなかった。俺が提供する料理はどれも美味い。皆も口を揃えてそう言った。だが好感度はあくまで料理人である俺ではなく、料理その物に向けられている。
だから例のおっさんを除き、どれも好感度は1か2止まり。料理を作って知名度を上げるという作戦には限界があったのだ。
かれこれ二週間は続けてきたが、この辺りで潮時だろう。
「店長、俺……新しい仕事見つけたいと思います」
「そうか、なんだかんだよく働いてくれたな」
満足顔で手渡されたのは一つの茶封筒。
中には銀貨十五枚と銅貨が四枚程入っていた。
「給料だ。家賃と食費は天引きしてある。好きに使え」
「……あ、ありがとうございます」
「いつでも帰ってこい。部屋は空けておく」
ランドルフ、お前良い奴じゃないか。
だがなんで好感度は4なんだ。
こいつ俺を舐めているのか?
「はあ、ランドルフ。ひとつ聞いてもいいか?」
「ああ、なんだ?」
「俺になにか、隠し事をしてないか?」
「何言ってんだいきなり」
「いや、無いならいいんだ」
好感度上昇の法則にも何かパターンがあるのか。分からないな……こればかりはサンプルが少なすぎる。問題があるなら、ランドルフ自身が抱えた何かだと思ったが。
「あるな。金庫の場所とか」
「はいはい、聞いた俺が悪かった。今のは忘れてくれ」
「そうかい、気を付けてな」
残念、はぐらかされてしまった。
まぁいいさ。奴の事は忘れよう。
異世界生活第二幕。
さあ、攻略を始めようか。
□■□
好感度を増やす事。それが俺のこの世界における強さに直結している。ならば、俺が強くなる為にはどうするか?
簡単だ。ハーレムを作ればいい。
いうなれば、この世界は壮大なギャルゲーである。
次々と好感度をカンストさせ、その度に強くなるシステム。
俺が黙々とバイトをしている間に導き出した解答。
俺がこの世界で生きぬく術!
惚れさせて強くなる。
これこそが俺に課せられたルールなのだ。
資金は銀貨十五枚と少しある。
さあ、何に使うのが正解だ……?
「いやァ、離してッ」
「いいから来い!」
俺の横を薄汚れた少女が歩いていく。
首輪……まるで犬に付けるようなリードを携えて、大柄な男が俺を一瞥しながら歩き去っていく。
「奴隷」
この世界にも……やはりいるのか。
今の女の子、『犬人種』のメスだった。薄灰色の犬耳が寂しそうに垂れている。
「ルナが死んじゃう、あの娘だけはッ」
「うるさい、黙って歩け!」
ふむ……弱肉強食か。俺達を守っていた日本の法律はここには適用されない。弱い者が虐げられるこの世界で、彼女を守る術はない。
俺も、奴隷に落ちるのか?
いいや、上手く立ち回ってみせる。
これは希望じゃない。決定事項だ。
□■□
「いらっしゃい」
怪しげな商店に俺は足を踏み入れた。
そこは獣臭い匂いを、香草を燻して無理やり掻き消したような、何とも言えない空気が漂っていた。
太った横っ腹、目の見えない黒のサングラス。ううむ、なんとも怪しい男が一人立っているではないか。
「すまない、ここで奴隷を売っていると聞いたが」
「ふふふ……ありますよぉ、ありますとも」
「じゃあ、案内してくれ」
俺は奴隷に目をつけた。俺の言いなりとなり、「死ね」と命じれば本当に死ぬであろう従順な子を一人傍に置いておきたかった。獣が闊歩し、龍が空を舞うこの世界で、手駒は早い内から手に入れておきたい。
「ここにいる者は全部商品ですぞ、ふふふ」
檻の中にいる少年少女達。
種族もバラバラ、栄養状態はどれも最悪レベル。BMI指数はどれもぶっちぎりの痩せ型だろう。
俺は次々と『鑑定』で目を向ける。
熟練度Fになったこの目は、相手のスキルを読む。
名前:メリィ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『索敵』G
名前:ラーガ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『奇襲』G
名前:リド
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『麻痺』G
戦闘奴隷。どれもパッとしないな。
「他は?」
「性奴隷も揃えております。どれも、行為に及んでも良いと了承済みの子ばかりでして……」
名前:レイラ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『幻惑』F
名前:サーラマ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『興奮』E
なるほど、確かに凄そうだ。
が、使えんな。俺が求めるのはこれじゃない。
「これだけか」
「いえ、ここにも上玉が」
名前:ユエ
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『暗殺術』B『潜伏』D『見切り』F『毒物耐性』C『闇魔法』B『風魔法』C
「この子は……」
「『黒精種』の奴隷にございますぅ。こいつは一際手先が器用で、武器も難なく使いこなします。夜のテクニックも保証出来ますぞ」
なかなかいいじゃないか。
「素晴らしいこの子にしよう」
「はい、ありがとうございますぅ……!」
この子こそ、俺に相応しい人材。好感度を上げ、スキルを頂いた上に、ボロ雑巾の如く使い果たしてやろう。
「して、いくらだ」
「金貨二十五枚ですぅ」
□■□
無理だった。
俺に奴隷は早すぎたのだ。
俺は清々しく逃げた。
あの『黒精種』は実に可愛く、喉から手が出る程欲しかった。だか如何せん高い。
交渉しても金貨二十枚は固い逸材だ。
そんな子を今の俺がどうして手に入れられようか。
クソっ、完全に計算外だ。
まさか奴隷があんなに高いなんて!
気付けば俺は街の郊外、海の方に足を向けていた。
潮の香りが漂ってくる。ざあざあと激しく波打つ岸辺に身を寄せる。
「ん……」
その足元にあったのは、不気味な代物。
綺麗に揃えられたボロボロの革靴が置かれてある。
夕日が照る。
それを背景に一人佇む『猫人種』の少女。
悲しげな双眸で海を見つめる。
俺に気付いた。
表情に変わりは無い。
救いのない、絶望に満ちた表情。
俺と彼女は、そこで初めて───会話した。
「死ぬのか?」
「なら、私を飼ってくれますか?」
名前:月乃 玲
ギルド:無所属
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』E『鑑定眼』F『交渉術』F『礼儀作法』G『挑発』G