第22話 俺から逃げられると思うのか?
二層に降りるには、まずは装備を整えなければならない。シャルロット達とは一旦別れ、俺はジンエイの鍛冶屋へと向かう。
「本当に良いのですか?」
ルナはおずおずと俺に尋ねた。
「また新しい武器を買ってもらうなんて……」
「ああ。予算は金貨一枚だな」
「!?」
幸いにして金はある。装備を入念に整え、二層に向かった方がより生産的だ。武器は軽量の片手直剣。二本目として使う予定だ。
「マジですか」
「大マジだが?」
ルナは本当に仕方なさそうに俺を睨みつける。
「なんだ?」
「私が逃げるとは思わないのですか?」
「何故だ。新手のジョークか」
「……この人は。主、"普通"の話をしましょう」
どうやらルナの"漫談"が聞けるらしい。
ワクワクしながらルナの言葉を待つ。
「まず、奴隷と共にご飯は食べません」
「ほう」
「それに、一緒に寝ません」
「へぇ」
「それから、高い武器は買い与えません」
「ふーん」
「ちゃんと聞いてますか!!」
ゼーハーと肩で息をしながら怒鳴り散らす。
異世界の常識を語られてもな。俺は日本という国で生まれた極普通の人間だった"はず"だ。俺に関する記憶だけがないのだから、そう断定する事も難しいけれど。
「本当に今更だな」
日本で培った価値観に、奴隷を蔑ろにしていいというルールは無い。全ての国民は法の元に平等なはずだ。
しかし、主従が明確にある以上、会社の上司と部下のような上下関係は少なからず存在する。
だから俺はルナに命令し、ルナは俺に付き従う。
そういうビジネス的付き合いのつもりだったのだが。
会社の利益を考え、部下に食事を与え、部下に快適な睡眠を提供し、良質な道具を使わせる事のどこに疑問を抱く余地があるのか。だから俺はこの程度で自惚れはしない。
「ルナ。"普通"なんてクソだぜ?」
「そういう人ですよね主は」
ああ、そうだとも。
他人になんと言われようと俺は俺だ。
異世界でも俺は自分を曲げたりしない。
「でも、覚えていて欲しいんです」
ルナは胸の前に手を当てて、俺を仰ぎ見る。
「もう私は他の人じゃ満足出来ない身体になったんです」
「おい、言い方。もっと別のにしない?」
ルナは特に冗談を言ったつもりは無いらしい。
ルナは続けてこうも言った。
「主が優しくするせいで、私はこれが"普通"なんだって納得して来ています。主に無礼な事を言っても許されるんだって」
「それは今すぐ悔い改めろ?」
なるほど最近の舐めた口は躾が行き届いていない結果か。畜生、今すぐにでも"理解らせて"やる。
「主。私は……わた、しは、一生、主の元で」
それ以上の言葉は必要ない。
頬を染め、目を潤ませる彼女の肩に手を乗せた。
「おう、一生コキ使ってやる」
「もうっ、真面目な話をしてるのにっ」
ルナはぷいっとそっぽを向いた。
俺はルナの背中に訴えかける。
「(一生って、それもうブロポーズじゃねぇか)」
いじけているルナの身体をグイッと引き寄せる。
ぽすんっと、俺の胸の中に収まったルナは、上目遣いで俺を見つめる。肌は上気して、確実に"何か"を期待している。
「俺から逃げられると思うのか?」
「ぁ……」
僅かに身じろいで抵抗するルナ。本気で逃げれば簡単に離れられるだろうに、ルナはなかなかそうしない。
好感度の指標が31、32……と段階的に上がっていく。まるで心拍の上昇と起因するかのように、ルナの鼓動がドクドクと脈を打って俺に伝わってくるようだ。
「逃げられません。捕まっちゃいました……」
本当に可愛らしい。今言った通り、ルナを手放すつもりはさらさらない。ルナは大切な仲間であり、重要な道具だ。
俺がハーレムを築き、最強へと至らんその第一歩。
記念すべき一人目のパートナーだ。
誰にも譲るつもりは無い。
30→35
───スキル『冷静』を獲得しました。
□■□
「いらっしゃいませっ」
俺の勘違いだろうか。
ジンエイという孤高の鍛冶師はかなり高齢の『鍛冶種』だったはずだが、今聞こえた声は、まだ20代にも至っていない歳若い少女の声だった。
俺が一度ドアを開けると、勢いよく頭を下げる褐色肌の少女が一人。エプロン姿に箒を持った彼女は誰だろうか。
「よく来たの、小僧」
「ああ。ところでこの子は?」
「最近雇った弟子じゃ。名をクレアという」
爺さんに弟子か。
という事は大した実力なのだろう。
「そうだ、爺さん。今日は金貨一枚以内でルナに新しい剣を作ってやって欲しいんだ」
「形状は?」
「二刀流を考えている。だから、なるべく軽量でルナでも扱えそうな物が助かる」
「ふむ……」
ジンエイは暫し考え込んだ。
「何か素材になるものはないか。希少な素材だと尚強い武器ができるんじゃが」
「ああ、階層主の素材は全部ギルドで換金したぜ」
「何をしておるんじゃ……」
「いや、爺さんが前もって言わないから!」
はぁぁ……と頭を抱えて首を振るジンエイ。
「階層主は原則一度しか倒せない。故に希少で、高額に取引される。なるほど、妙に羽振りがいいと思ったらそういう事情じゃったか」
金貨14枚ってもしかして……階層主が相当割合高かったのか。てっきり『幽霊』のおかげだと思っていた。
「仕方あるまい。素材代含めこっちで負担すればよいか。ちょうど最近『一角獣』の角を仕入れたばかりでな。それを素材に作ってやる」
「へぇ、凄そうだな」
「凄そう、ではない。実際に凄いのだ。何せ『一角獣』は五階層の魔物。特に角は、金貨十枚の価値がある」
金貨十枚……しかも一体だけで!?
「魔除け、解毒、浄化。いろんな作用があるんじゃ、当たり前の相場じゃよ。じゃが今回は、とある冒険者の好意で、無償で貰ってな。なんでも有望な冒険者に武器を作ってやれと」
なにそれ、イケメン過ぎるだろう。
絶対俺も後でやろう。
心の中にメモをしておく。
「特別に金貨二枚。どうじゃ?」
「ったく……予算オーバーじゃねぇか」
渋々俺は金貨を手渡す。
ここで出し惜しみするのは勿体なさすぎる。
「良かったな〜ルナ。金貨二枚の剣だぜ?」
「さっきの言葉が無かったら私逃げ出してたかも……」
「おいこら」
ルナは相変わらずの物言いだ。
ちゃんと感謝しているんだろうな。
「いつ頃出来そうだ?」
「ふむ。これだけの素材、2日は見たい」
「分かった。じゃあ3日後またここに来るよ」
それまでは今の剣で我慢だな。
その時俺は、横からの妙な視線に気付いた。
もじもじと身体を捩らせる女性定員。
俺の装備や身なりをジロジロと観察している。
「クレアよ。冒険に行きたいのか?」
「ひゃ、ひゃい!? そんな事はあ、ありませんよ〜! べ、別にクレアはそんな事考えてませんっ」
わっかりやす!
「小僧。儂からの頼みを聞いてくれんか?」
「なんだよ、改まって」
ジンエイは軽くクレアを一瞥する。
まるで手のかかる孫を見るような、そんな視線で。
「彼女を冒険に連れて行ってはくれんか?」
「「はい?」」
俺とルナは同時に首をかしげたのだった。
名前:レイ レベル:7
HP285/285 MP130/130
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』D『鑑定眼』E『交渉術』E『礼儀作法』F『剣術』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『並列思考』G『火魔法』G『逆境』G『蓄積』G『冷静』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G
名前:ルナ レベル:15
HP180/180 MP550/550
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【勇猛果敢】
スキル:『隠密行動』E『剣術』D『体術』E『冷静』E『軽業』E『料理』F『並列思考』F『瞑想』F『敵感知』F『光魔法』G





