第2話 戦闘現場に遭遇!
一人目のヒロイン登場。
二人目は第六話~
異世界探索一時間後。
俺は実に面白そうな現場に立ち会えた。
「おい、あれやばくねぇか……」
「最近街で暴れてる『狼人種』の野郎だぜ」
「戦ってるのは、例の騎士様か?」
エルミナント王国沿岸部にある主要都市の一つ。
城塞都市アルテミシア。人口二十万程度の大都市。
温帯気候で農業や漁業の他、魔法技術の発展に長けた最も有名な都市だという。
オルビス家が統治するその街は、衛生環境も良く多種族に恵まれた理想国家。都市の中核に据える王城にて統べる王家には、王子が一人と王女が三人いるそうだ。
さて、そんな平和を体現した街でもやはり犯罪は存在し、それを統治する者もやはり存在するというもの。
露店を蹴散らし暴れまくるのは、身体能力に長けた狼顔の男、『狼人種』の一族。相対するのは、一振りの細剣を片手に攻撃を捌く女性騎士だった。
「無駄な抵抗は辞めた方がいいわ。罪が増えるだけよ?」
「うるせぇ、ゴタゴタ言ってんじゃねぇ!」
『狼人種』の動きは俊敏だ。
鋭い爪で地面を踏み締め、縦横無尽に駆け巡る。
最高時速は五十キロ、走行車並のスピードと陸上選手並みの加速力を併せ持つ化け物種族。地面を砕き割り、風を切りながら更に更にと加速する。
「全く……これだから盛った男は」
その女性は飽きた表情で片手に魔力を収束させる。反抗期の息子を相手にするような、実力差を感じさせる佇まいだ。
「魔法『衝撃波』」
片手から放たれたそれは、魔法の衝撃弾。
空気を圧縮し放たれた一撃は、奥の木々を軽々吹き飛ばす。
「次は当てるわよ?」
「面白ぇ……」
逆に相手が白い歯を見せて威勢を張る。
逆効果じゃないか。
「最悪。死んだら?」
どこぞの紛争地域のような激戦が始まる。魔法を左右と幾度となくステップを踏んで避け、距離を詰めて反撃する『狼人種』。それを細剣で逸らしながら距離を取る騎士。
驚くべきは魔法の精度と連射力。物理法則を完全に無視した空気弾が手から射出される時点で異世界すげぇと感嘆を漏らしそうになるが、目視不可能の弾を避ける『狼人種』も充分凄い。
視線の動きや風の流れで弾着地点を予測しているか。
「ちっ……」
次第に『狼人種』の動きが適応されていく。肌を撫でるくらいのギリギリな軌道で魔法を避け更に距離を詰めていく。
「スキル『軽業』ァァッ」
そしてスキルを発動。
格段に上昇した機動力で少女の目前に迫った!
「危ない……!」
俺は手を伸ばす。
もう遅いのは百も承知だ。
だが、あのままでは怪我をしてしまう……!
それは無論、杞憂だった。
冷めた表情で手を掲げたその騎士は再び魔法を発動。
「魔法『圧縮波』」
「スキル『凶爪……グァッ」
キィィンンンンン……!
耳鳴りがする。俺は思わず耳を塞ぐ。
頭がクラクラする。なんだ今の攻撃は……。
「な、にぃ……俺様の、耳が」
「ほら、大人しく拘束されなさい?」
フィンガースナップで放たれた高出力の音波攻撃。四肢が麻痺し、三半規管が揺れ、奴の鼓膜が破れた。間違いない、彼女の魔法系統は……『波動』。波動を司る魔剣士だ。
彼女がすっと手を伸ばす。
しかし何たる事か、『狼人種』は未だに抵抗を続け手を振り払う。そして即座に距離を取り、俺達がいる群衆へと突っ込んでいく。
「うわぁああ!? こっちに来るぞ……!」
「に、逃げろ!!?」
勘弁してくれ。なんで俺達の方に……!
『狼人種』は乱暴に人々を薙ぎ倒し、傍観していた女性を羽交い締めにする。その意図を騎士と俺は同じ瞬間に理解に至った。
「俺様を見逃さなきゃ、この女の命はねぇ……」
爪の一本を女性の首筋に当てる。
爪先が肌を食い破り、血が薄らと流れる。
「へへ……いい娘だ」
もう片方の爪で女性の服を破っていく。
下着が露出して、女性は悲鳴をあげた。
「諦めて帰りやがれ、騎士様。それとも……」
ガッと人質の胸を揉みしだく。
「代わりになりてぇか」
「「ゲスが……」」
俺と騎士のセリフが被る。
奴は調子に乗り過ぎた。
非常に不快だ……俺の気分が害された。
これは一種の行事、イベントの範疇を超えた。
ならば報復。それ以外にあるまい。
俺は毛先を弄る。
思考が加速していく。
俺は世界に没頭し、全身に血が駆け巡る。
この状況を打開する方法───。
「卑怯よ……」
「なんとでも言え、この女の命が惜しいならな」
尻にも手を伸ばし、唾液を垂らす。
「いやぁあああ……!」
考えろ。俺が手伝える事。
この状況下で、役に立てる方法!
俺のスキルは役に立たない。
ならば知略と戦術を以て乗り切るまでだ。
「待ちなさい……!」
「おっと、動くなぁ? その時は女の喉元をざくりと」
ブシュ……さらに皮膚が避ける。
もう限界だ、可能性を検討している時間は無い。
俺は『狼人種』の後ろへと身を寄せる。
幸い、他の群衆に紛れて近付くのは容易だった。
そして俺は手に持っていた実を口に頬張る。
甘くて芳醇な味わいが口内に拡がった。
「(ありがとうお婆さん……使わせてもらうぜ)」
俺は"それ"を地面に置く。
この軌道、歩幅、タイミング。
全てを計算に入れ、騎士に合図を送った。
「来いっ」
「───ッ!!」
彼女はダンッと地面を踏み込む。
一瞬反応に遅れた『狼人種』は退いて後ろに。
計画通り。
「ふはは……馬鹿め。足元には気を付けろ?」
「な、なにィ!?」
転倒を起こした『狼人種』は派手に仰け反って後ろに倒れ込む。その隙を見逃す騎士はいない。
「魔法『衝撃波』ッッ!!」
『狼人種』の腕を正確に射抜く。
解放された女性は泣きながら群衆の中へ。
騎士は細剣を『狼人種』の首筋に当てた。
「チェックメイト」
ぶわっ、と彼女の銀髪が風に煽られて靡く。
孤高の騎士。紫紺の双眸が強く奴を貫いた。
綺麗な人だ……俺は初めてそんな感情を抱いた。
そんな、一大イベントを経た後。事後処理を終えた騎士は何やら捜し物があるのかキョロキョロと辺りを見渡す。
そして、俺を見つけるとパッと顔に花を咲かせた。
その瞬間!
0→10へと急激に数値が増えた。
───スキル『洞察眼』を獲得しました。
───スキル『交渉術』を獲得しました。
「いたっ! ちょっと貴方、付いて来なさい!」
「へっ?」
俺は腕を羽交い締めにされ、何故か連行されたのである。
所持スキル『言語理解』『洞察眼』『交渉術』