表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剥製屋事件簿その二十二(人殺しは見れば分かる)  作者: 仙堂ルリコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

鳩の意志

「あの人、弟が殺されたのでは無いかと、疑っているのかな……チキン、美味いな」

 聖は腹が空いていた。


「不運な事故の筈が、葬式で2人の女に再会、ハヤトの服発見の報道や。口封じに殺されたかもしれんと考えるのも無理はないで」

 薫は追加のピザを注文票に書いている。


「口封じ、か。……2人があの服を埋めたとして、辻村さんが見つけるのは想定外だったんだろうね」

「ハヤトの服がどこで見付かろうと、自分に繋がらなければ問題無い、と犯人は考えていたやろ。だが辻村が非常勤講師であの学校に来て、服を埋めた場所に車を停めだした。他の誰が見つけてもただのボロ服やけど、辻村だけは、ハヤトの服と気付くかもしれない」

「辻村さんが色々思い出すのを恐れて……殺した?」


「事故に見せかけた完全犯罪か?」

「落ち葉をフロントガラスに貼り付けたのも計画的だったんじゃない?」


「事故を再検証してみるで」

①掃除の時間に3階工作室に鳩が入り込んだ。

②鳩を出すために普段開けない窓を開けた

③開けた窓から鳩を追い出そうとバタバタ

④窓際で生徒達が暴れ窓辺の棚から石膏像が3体窓から落下

⑤落下地点に立っていた辻村の頭に石膏像が直撃


「もし工作室に居た教師が女2人のどっちかなら、可能じゃない?」

「そうやな。落ち葉を貼り付けられる、職員室で辻村の行動も把握できる。……鳩は?」

「予め捕獲して工作室に隠しておいた」

「ほんで生徒らが掃除を始める、密かに窓の下を確認。鳩を放す、窓を開ける、窓辺の石膏像を落とす」

「教師だったら、石膏像の位置も事前に計算できる」


「可能、やな」

「辻村さんはハヤト君と一緒に居て,

一部始終を見ているんだ。28年前は小さい子に目撃されているのを脅威とは思わなかっただろう。犯人も子供ならば尚更。でも大人になった目撃者が遺留品を見つけて何を思うか、予測できない」


「まあ、この2人を尋問したら両方の事件解決、やろな。被害者の身体も見付かるやろ」

薫はまた、追加のワインを注文。


「飲み過ぎじゃないの(飲めない俺の前で)」

「これで終わり。除夜の鐘渋滞に巻き込まれる前に帰る。さっと飲んでさっと山に帰ろか」 


「えっ?……一緒に帰るの?」

 年越しはマユと、まったりアニメ見る予定、なんだけど。

 マユの推理通り犯人は(事件当時)子供の可能性が出てきたと話したいし。


「仲良し男3人で年越しやで。ユウト誘ってるねん」

 山田動物霊園の桜木悠斗と約束しているらしい。

 

「そっか。彼も1人事務所で年越しより、いいか」

「コントローラ、持ってくるって。あのゲームもこのゲームも対戦で年越しや」


「あ、そうなんだ」

 聖は気分が上がる。

 早く山に、家に帰りたくなってきた。


「ええやろ。ユウトに先に工房で(まだ鍵は無い)待っていて、とラインしたで。薪ストーブ適当に着火しといてと」


「いいの?……なんだか桜木さんに申し訳ない。カオル、甘えすぎなんじゃない?」

「それはセイも同じやで。シロはな、セイが家開ける時はユウトんとこに、行ってるらしいヤン」

 ……そうか。

 シロは今、霊園事務所でユウトとアリスと一緒に居るんだ。

 意外ではない。

 想定範囲。

 ただ、シロが行けば桜木悠斗は自分の犬アリスともう1匹の

 腹具合やら、安全確保やら、

 保護の責任が、なし崩しに生じていると

 今まで、頭に無かった。

 

シロは山で自由に放し飼い。

ずっとそうだった。

 自分以外の誰かが世話してくれるなんて思ってもいなかった。

 今更ながら悠斗に感謝する。


 年越しは

 3人で朝までゲーム。

 悠斗は山田鈴子から届いた<中華おせち>を持参。

 酒は帰り道に大量買いした(薫の奢り)

 暖かい部屋で

 食べて飲んで

 中学生男子みたいに、はしゃいだ。

 

「今宵はな、何もかも忘れて遊ぼ。人様の不幸(陰惨な事件)も、忘れよう、」

 と薫は言った。

 

 聖は、ストーブの側で寄り添って寝ている2匹の犬の、

 茶色い方が、どうしても気になっては居たが、

 ……無防備に寝ている。ああしてたら普通の犬じゃん。

魔犬(化犬か)だけれど、桜木の犬なんだと。

観察を止めた。




年が明けて1週間

聖はハヤトの遺体発見を、ニュースで知った。


遺体はS市共同墓地の敷地内に埋められていた。

失踪場所の県営団地の北、3キロ離れた場所であった。

発見に至った経過の詳細は発表されていない

事件当時11才だったAより情報提供があった、とだけ。


「セイ、やっぱりAだったのね」

「うん。子供がやったコト、だったね」

 マユの推理通りだったのだ。

「子供が歩いて行くには遠すぎる距離ね。自転車で行ったんでしょうね」

「だろうね。2才だろ。小さいよ。柴犬くらいだよ。鞄に入る大きさだ。鞄に入れて自転車に乗せて運んだ。警察犬は臭いを追えなかった」

 

「辻村さんも、Aに殺されたのかしら?」

「事故当時に、近くに居たならば、疑われ調べられるだろうね」


「28年前の殺人は当時子供だった。今更罰せられないでしょう? それなのに犯人は隠蔽のため罪を重ねたのね」

「完全犯罪だったんだよ。カオルが関わらなければ発覚しなかった」

「そうね。ハヤト君の服が掘り出されることは無かった。掘り出されても、ただのボロ布だった。カオルさんの介入は想定外だったでしょうね」

 聖とマユはヒラタジュンコウエダナオミが、小学校の関係者と分かっているので、辻村殺し、やっただろうと半ば決めつけていた。



「セイ、旧姓ヒラタは、PTE副会長。そんで葬式に行った。ウエダは給食スタッフ。2人とも辻村の死とは無関係やで」

  薫は、事後報告に来た。

  

ハヤト遺体発見から1週間後、夜七時に。

 (はあー、しんどー)と、言って、入って来た。

  仕事帰りなのかスーツ姿。


「2人に、石膏像落下の細工は不可能だったの?」

「うん。あんな、2人一緒に出頭してきてん。黄色いカバーオールが見付かったというニュースを見て」

「ソレは……意外だね」


「そうやろ。28年前、何が起こったか、ヒラタの話ではな、」


 ヒラタは辻村の葬式に行くまで、死んだ教師が、

かつて同じ団地に居た子だと知らなかった。

ウエダも、それは同じだった。

 そもそもヒラタとウエダも、思いも寄らぬ再会であったという。

 共に母校である小学校の、1人は保護者、1人は給食スタッフ。

 これは全くの偶然だという。

 2人とも現住所は県営団地ではない。


 辻村が不慮の事故で亡くなり、続いてハヤトの服が発見された。

 2人は相談し警察の再調査を予測し、自ら出頭する道を選んだ。


 あの日、

 2人はハヤトと辻村をヒラタの家に連れて行った。

 ハヤトに女児の服(自分が幼いときの服)を色々着せ替えて

 遊んで居たという。

 ハヤトは、2人が服を選び目を離した間に、(何があったのか分からないが)倒れていた、らしい。

 死んでいた、と言う。


 2人は大人に叱られるのを恐れ、ハヤトの死体を隠すことにした。

ヒラタは、ハヤトを風呂敷で包み、ショッピングバッグに入れ、自転車の荷台に括り付けた。

ウエダは、辻村を乗せた。

(お墓に埋めてあげよう)と思った。

そして自転車で共同墓地に行き、

敷地内の木立の間に埋めた。

ハヤトは赤い浴衣を着たまま埋められた。

家に帰って、脱がせた黄色いカバーオールも置いておけないと気付いた。


「処分しなきゃ、って思ったんだね。……なんで小学校に?」

「あそこはな、子ども達が大人に見付かったら叱られるモノを埋める場所やってん」

「……28年前に?」

「28年前から今も続いてる、いや、もっと前からかもしれん。あの小学校の、生徒なら知っている伝統やったんや」

 点数の低いテスト

 割ったビーカー

 壊したラケット、

 全て大人に見付かれば叱られるモノじゃないか。

  

「て、ことは辻村さん、マズい場所に車停めちゃったのかな」

「おそらく、生徒の悪戯は、聖域を侵したからやで」


「辻村さん卒業生なんでしょ? 聖域を知っていたと思うのに」

「真面目ないい子やったんちゃうか。自分は利用した経験が無ければ忘れてるで。

とにかく辻村が受けた悪戯行為は1人2人の生徒がやった事では無いみたいや」


「あの場所から車を追っ払うために、それぞれが出来るコトをやったのか。罪に問えるの?」

「今のところは憶測に過ぎない。学校で、聞いてみないと分からん。石膏像を落とす目的で鳩を放した。連携プレーであればチームが存在する。事故に見せかけた殺人や」

「そっか。鳩が鳩の都合で教室内を飛翔していたなら事件じゃないね」

「うん」


「で、ハヤト君の死因は?」

「すっかり骨になってた。浅く埋めてたんで、カラスやなんかに半分持っていかれている。遺体から死因割り出しは、困難やろな。焼け死んだのではない、程度はわかるやろうけど」

「気がついたら、死んでいたと、言ってるんだよね。裏付けは取れないの?」


「そこで、<人殺しは見れば分かる>神流聖の出番やんか」

 薫は鞄から1枚の集合写真を取りだした。


「これは卒業アルバムに載せる教職員の集合写真や。前撮りしたのを写真屋に一枚プリントアウトしてもらってん。給食スタッフもPTA副会長も入ってる」

 薫は写真の中、2人の女を差した。

 2人は姉妹のように雰囲気が似ている。

 黒髪ストレートのショート。

 日に焼けた顔はメイクが薄い。

 中肉中背。

 シンプルなモノトーンの服装。

 

 ……人殺しかどうか、見ればわかるだろう、って?

 ……そりゃね、手が見えたらね……見えてるじゃん。

 2人とも違和感のない手。

 殺ったんなら片手は幼児の手。写りが小さくても分かりやすいだろう。

 

 

「セイ、その顔は、違う、やな。2人ともハヤトを殺していない。死因は病気か事故か」

「うん」

 薫は少し嬉しそうだ。

 少女が幼児を殺したなんて恐ろしい。

 少女2人の罪は死体遺棄のみであって欲しかったのだ。


「教頭の横、校長先生は女の人か……」

 写真はまだ聖の手に。

 何気なく全体を眺め、左端に辻村の姿を見つけ……ハッキリ映った手に視線が止まる。


「セイ?……どうした?」


「あ、いや、辻村さん影が薄いなあって。死ぬ前って知っているから、そういう風に見えるんだろうけど。気のせいなんだろうね」

「気のせい、ちゃうで。元々アイツは影が薄い奴やねん。同じ高校と言うけど覚えてない。卒アル見たけど、めちゃ影薄い。だいたい何回も写真見たのに顔が覚えられないやろ。兄貴の顔はよお、覚えてるのにな」

「そだね……」


「あ、兄貴の、店長の顔思い出したらアンチョビピザ、食べたくなった」

 薫は腰を上げた。


「へっ? 今からあの店に行くの?」

「ちゃう。キンナラ(近鉄奈良駅)店や」

「そっか。けどオートバイで行ったらワインは駄目だよ」

「あ、そうやった。ええこと言うてくれた」

(そうや、一旦家に帰って、ほんで、歩いて行こ)

 独り言と共に

 薫は出て行った。



「セイ、カオルさん、今夜は泊まらないで行っちゃったね」

 マユは薫が置いて行った集合写真を見ている。


「泊まる予定じゃ無かったんだろ。酒飲んでないし」


「もしかして……辻村さん?」

 とマユは聞く。


(なにが?)

しらばっくれた表情を返すと


「1人で秘密を抱えるつもり?……カオルさんには言えなかった。だけど分かってる」

「……バレてる?」


「分かるわよ。セイは悲しい目をしたわ。写真の中の辻村さんを見つけて……人殺しの徴があったのよね」

「……まあ、そういう、こと」

 写真に写った辻村の片手は小さい。

 とても小さい。


「彼が、殺したんだよ」

 ハヤトの死因は事故でも病気でもなかった。

 事実を知れば

 ハヤトの遺体を隠した少女達の思いも理解出来る。


「自分たちの為じゃ無いわ。辻村さんを庇ったのね。そして2人は今も真実を語っていない」

「そうだよ。……俺、言えないよ。今更絶対証拠出ないから。辻村さん死んじゃってるし。カオルも困るだけでしょ」

「カオルさん、分かってると思うよ。セイが言えなかった事件の真相も、セイの選択も。全部分かって……この場を終わらせたの。出て行ったの。……セイ? ……泣いてる?」

 聖の目から一筋の涙。


「俺、泣いているのかな……勝手に涙が……誰かの替わりに泣いてるみたいだ」

「皆、可哀想だよね」

 

4才の子は

 お姉ちゃんたちが小さい子にばかり構うのが辛かったのか?

 単純な感情が、単純な暴力に結びついた。

 まだ憎悪も、殺意も、知らない。

 殺してしまったのは弟のような存在だった。

 2才のハヤトは(お兄ちゃん)に殺されたのだ。

 

姉のような2人の少女は

 弟のようなハヤトの死を嘆き

 弟のような辻村を守った。


 死体遺棄の罪を犯してまで守ったのに

 辻村は若くして死んでしまった。

 ハヤトの服を埋めた場所で……。


 辻村は(子供の幽霊を見た)と言った。

 ハヤトを手にかけた記憶はあったのか?

 明確に記憶が残る年ではない。

 特異な体験が全く記憶に残らない年ではない。

 継ぎ接ぎの(人殺しの)記憶はどれだけ恐ろしかったであろう。

  

 

「やっぱハヤトの霊が皆を再集合させたのかな。殺された恨みを晴らしたくて」

 3人が小学校に揃っていた状況が、偶然が恐ろしい。

 と、聖は思う。


「どうかしら。……ハヤト君が成仏していないとしたら呼び寄せたのは愛、でしょうね」

「愛?」

「幼いハヤト君の世界は2人のお姉ちゃんと1人のお兄ちゃんが全てだったの」

「母親じゃなくて?」

「小さい子は子供が好きなの。子供と一緒が楽しいのよ。長時間子供を近所に預ける母親が愛情に満ちた態度で相手していたかも、怪しいしね」


「成る程。辻村さんはハヤトの霊に取り殺されたって事でもないのか」


「ふふふ」

 マユが意味深な笑い。


「やっぱ、取り殺された?……愛、なんでしょ。あ、大好きなお兄ちゃんをあの世に連れてった?」


「大好きなお兄ちゃんに、ずっと取り憑いていたかも。ちゃんと供養されていないから自由霊だし」

「へえーっ」

 ハヤトの霊は28年辻村にくっついていたの?


「あの場所に車を停めるのは危険だと察知して、警告するために姿を現せた可能性もあるかも。辻村さん死んじゃったから、分からないけれどね」

 マユは話を終わらせた。

 霊界の秘密はこれ以上教えてくれないらしい。


 聖は

さっきの不思議な涙は

 誰かの替わり、だとしたら

 それはハヤトだと

 そんな気がしてきた。


 幼くて殺されたことも知らない。

 無垢の魂は辻村と共にあり

 共に完全消滅したのか。


 数日後、カオルから<鳩>の報告があった。

「エアコンの室外機の下に巣を作ってたんやて。

あの日、用務員さんが箒で追い払ったんや」

 

鳩は建物の中に逃げた。

 廊下、階段で複数の生徒達が姿を目撃している。

 結果、工作室に鳩が入り込んだのは何者かの工作ではない、と確定。


「事故だったのね。生徒の悪戯と、何でも無い鳩の動きが、運悪く重なったのね」

「ふっ、ふっ、ふ」

 聖が取って付けたように変な笑い。


「?……誰も殺意は無かった。そうでしょ、セイ?」


「ちょっと鳥類なめてるよね。巣を壊されたんだよ。卵はどうなった? 家を壊され赤ん坊を殺されたんだよ」


「それって鳩は人間に憎悪を抱いて……なんらかの報復のために校舎内に?」

「普通は人間の居る屋内に入っていかないでしょ」


「そうなんだ。……鳩の意志が、辻村さんの死に結びついたの?……とっても怖い結論ね」


「鳩は性質が温厚だからね、飛び回って糞をまき散らす程度で済んだんだ。カラスだったら……仲間連れて襲撃されてるかも。だいたい簡単に巣を壊しちゃいけない、短い間じゃ無いか。雛が巣立つ前の……ツバメの巣は保護するのに、」

 もはや聖の頭には

 巣を壊された可哀想な鳩、しかない。


 くどくどと、鳥がいかに賢いか語る。 


マユはそのうちに眠くなり

 生身のヒトのように

 小さな欠伸。

 

 シロも足下で

 寝転んで「クワン」

 と大欠伸。


最後まで読んで頂き有り難うございました。

 

       仙堂ルリコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 子供の行動っていうのは悪意が無い(っぽい)分だけ残虐になることがありますよね。 子供がうっかり残虐な行為をしてしまった場合、叱ってどうにかなる話でもないですし。 無邪気って怖いですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ