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頭蓋骨

「セイ、これはまさに、ハヤトが着ていた黄色いカバーオールのなれの果て、やで」

「まさか、そんな……いや、有り得なくは無いか」


「地理的に失踪現場と近いやんか」

「同じ服でも偶然かも知れないよ。一点物でなければ」


「一点物かも。写真見た時、そんな感じがしたで」

薫は、黄土色の布を土の中から引っ張り出す。

 変色し、破れている、本来のカタチをとどめてない。 

 が、縫い目のゆがみと裏の始末に手作り感がある。

 そして襟首にタグが無い。


「え、ホントにハヤト君の?」

「そうやとして……辻村はコレを見たんやないか?」

 パンク事件の日に、子供の幽霊を見た。

 タイヤの下に割れたビーカーを発見し

 そこいらを掘ってみて、見つけたのでは?


「大当たりかも。この下には本体が埋まってるかも、しらんでえ」

 薫は嬉々として

 速い動きで、ショベルで掘り出した。


「カオル、死体を埋めるのに、わざわざ衣服を脱がせて、同じ場所に埋めるかな」

 

 カバーオールの残骸は欠損部分は多いが

 それでもカタチになっている。

 着衣していたのが土の中でこんな風に矧がれやしない。

 川の水難事故で裸の遺体が浮かぶことがあるが、

 あれは岩にぶつかり服が裂け矧がれていった結果でしょ?

 

 薫は、

 聖の呟きを聞いていない。

 時間制限があるかのように必死で深く掘っている。

 

 ……そして

「出たで、当たりやで」

 と。


「出たの? まさか」

「そうや。まさかやで。頭蓋骨発見や。見てみ」

 指さす先を見れば

 本当に小さな頭蓋骨らしいのが。


「かわいい」

 聖は右手でつまみ出した。


「あ、なんという事を。素手で触ってどないしますねん。

此処はな、今となっては幼児失踪事件被害者遺体発見現場

指紋付けたらアカンやん。

被害者遺骨、動かしたらアカンやん」


薫はわなわなと両手を震わせて

本気で聖を責める。


「カオル。残念でした。ウサギだよ。(どう見たって)幼児の頭蓋骨ではないよ」


「何や、ウサギさんか。……ほんでも、此処に、ハヤトが埋まってるに違いないんや」

 ムキになってる、掘り続ける気だ。


「応援呼ぼうよ。その方がいいと思うよ。通報される前に」

「通報?」

 聖は上を、校舎の窓を見ろと、目の動きで知らせた。

「なんや?」

 薫は上を見る。


 2階窓に数人の顔

 教頭も居る。

 それぞれが引きつった顔つき。

 

 聖は少し前から彼らの気配に、存在に、気付いていた。

 

 刑事と名乗る男と、拝屋が、

 余りに長く事故現場に留まっている。

 何をしているのかと、覗きに来たのだ。


 せっせと、あちこち掘り起こすのを見られたのだ。

 

 なんと奇っ怪な光景。

 怪しい2人。

 警察手帳、偽物かも。


「○課結月です。緊急です……報告致します、」

 薫は、

 ギャラリーに聞かせるように,

 大きめの声で電話した。



「急展開ね。……まだ謎だらけだけど」

マユは

<幼児行方不明事件衣服発見>のニュース動画を見ている。


「結局、遺体は無かったのね」

「そうだよ。埋まっていたのはガラクタと答案用紙と小動物の骨」


「小動物の骨?。そういえば昨日から、ここにあるね」

 マユはパソコンデスクの上に置いてある

 ウサギの頭蓋骨に触れる。


「可愛いだろ。磨いて綺麗にしたんだ」

「いいの? 勝手に持って来ちゃって」


「誰に、下さいって、言えば良かったの?」

「確かに……言われた方が戸惑うわね」

「飼育動物の墓場だったなんて、先生でも殆ど知らなかったんだ。誰もこの子を知らないよ」

「ハヤト君事件の事も、知らなかったんでしょう?」

「そうだよ。黄色いカバーオールを見ても、誰も事件を連想しなかった」

「何度も掘り返した痕跡があったのね。ガラクタを埋めるために」

「うん。辻村さんはビーカーの欠片が埋まっていたんで、掘り返したんだろうね」


「掘り返して、見つけてしまったのね。……自分が着て、ハヤト君が着た服。記憶の底に残っていた黄色い服」

「すぐには気付かなかったんだよ。夜中に写真で確認したらしいから」


「『子供の幽霊を見た』、と最初に言ったのよね。

 辻村さんの身になって想像してみましょう。

 ボロ服を見て、既視感。同時に、得体の知れない恐怖を感じた?」


「ボロ服が、子供の幽霊に見えたのかな」

「どうかしら。『子供の死体』と言ったなら、分かりやすいんだけど」


「死体?」

「ええ。辻村さんは黄色いカバーオールを見つけ、動揺した。

なんで心が掻き乱されるのか必死で考えた。

記憶を辿りSNSで過去を辿り

ハヤト君失踪事件に行き着いた。

カオルさんが思ったように、ハヤト君の死体も埋まっていると

思い込んだのかも」


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