表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

不運な事故

「セイ、28年前のハヤトちゃん失踪事件、まず、それよね」

 マユは悲しげな瞳で言った。

消えた幼子を哀れんでいるのだろう。


「随分昔の話だからネットで検索しても、情報は少ないよ」

 母親の証言では

最後にハヤトの姿を見たのが県営住宅内公園だ。

公園には、十数人居た

幼児と、その親。

小学生達。


失踪当日の母親の行動を追うと……。

団地内公園でハヤトを遊ばせていたが、

用事ができ

顔見知りの小学生Aに声を掛けて

 団地内の自宅に入り、数分で公園に戻った。

 ハヤトの姿を探した。

しかし、居ない。

 Aも居ない。

 

母親はAがハヤトを自分の家に連れて行ったのだと思った。

この時間が午後2時。


そして母親がAの家に行ったのは午後5時だ。

Aは在宅。しかしハヤトは一緒ではなかった。

 

Aは(知らんけど)と言った。

 

その後母親は団地内の数件の家を回ったらしい。

 ハヤトはどこにも居ない。

 皆、知らないと言う。

 夜になっても帰ってこないので警察に届けた。

 警察犬を出動させ、付近を捜索したが見付からない。

 目撃情報も無い。


「これだと、母親が数分目を離した間に居なくなったのでは、ないのね」

「うん。数時間の間、だよな。なんで母親は夜まで待ったんだ?」

「ハヤト君と遊んでくれる子が団地内に数人いた感じね。

時には移動にも連れて行った。小さい弟を連れて遊びに行くみたいに」

「放置児、だったのか?」

「28年前にはそんな言葉も無かったでしょう。この団地では普通のことだったかも。大きい子が小さい子の面倒を当たり前に見ていた」


「でも、この子がいつ居なくなったのか誰も知らないんだ」

「母親が頼んだAも、子供なんだもの。

自分の遊びに夢中でハヤト君のこと忘れちゃったのね。

そういうことも、以前にもあったと思う。

小学生が遊んでる側で小さい子が遊んでいる。赤ちゃんも、その親も居る。

ハヤト君が泣いたりしたら誰かが世話をする。

ハヤト君だけでは無くて、皆が当たり前のように、共同で子供を見守っていた」


「大勢の目が有る中で居なくなったのか」


「1人で遠くへ行ってしまったか、連れ去られたかどっちかよね」

「警察犬は後を追えなかったんだ」

「車で連れ去られたのかな」


「団地の中に犯人が居るんじゃ無いか?」

「そこは一番に調べたでしょうね。でも見付からなかった」

「やっぱり車で連れ去ったのか」

「誘拐だとして、……目的は一体何かしら?」

「身代金目的じゃないな。犯人からの接触はないんだから」


「女の子だったら、いたずら目的で連れ去られた可能性も考えられるけど。2才の男児でしょ」

「可愛いから連れてって、そのまま育てているとか」

「幼いから、懐くでしょうね(マユは事故で死んだ子の身代わりに誘拐され、犯人を親と信じて育った)」

「遺体は見つかってない。生きている希望はあるんだ」


「そうよ。で? カオルさんの同級生は何で亡くなったの?」


「詳しい話は、明日奥さんに会って聞くんだけど。

カオルが電話で知らせて来たよ。

辻村さんは落下物が頭に当たって死んだ」


「まあ、なんて運が悪い。工事現場の側を歩いていたとか?」

「違うよ。学校の中で。石膏像が窓から落ちてきた。

辻村さんは小学校の先生だったんだ」


「信じられない。そんなことで亡くなるなんて、なんて可哀想な人。

……事故、なのよね」

「誰かが狙って落としたのではないよ。たまたま。なんだ。掃除中のアクシデントで

 窓辺の棚から落ちた。3階の工作室で先生も居たんだって。

誰も窓の下なんか見ていない」

「……工作室の掃除中にアクシデントで窓辺の石膏像が落ち、偶然真下に居た、ってことね。で、アクシデント、って何?」

「鳩、だって。鳩が工作室に入ってきて、飛び回った」

 鳩を部屋から出すために

 普段は開けない窓を開けた。

 工作室内に居合わせた生徒達は

 鳩を追い

 興奮状態でバタバタ。

 結果、石膏像が開けた窓から落ちた。

3個、落ちた。


「丁度、その瞬間に、真下に居たのね」

「結果からいうと、そういうこと」

「完全に、事故よね。……ハヤト君の絵を描いていたけれど28年前の事件と、辻村さんの事故死は関係がなさそうね」


「今のところはね。……現場が近いって、くらい」

「まあ、そうなの?」


「辻村さんの職場(小学校)もS市なんだよ。ほら、ここが団地、東2キロ先に小学校」

 マユに地図を見せた。


「近いわね。辻村さんは長くこの小学校に?」

「いいや。教員が病欠で今年の9月に赴任と聞いた。非常勤らしい」

 非常勤で長く勤めているのか

 事情があって常勤から非常勤になったのか

 或いは他の職種から転職したのか

 今のところは定かではない。


「では、今年の9月に実家に近い小学校に勤め始めたということかしら?」

「そうかも」

「それから子供の幽霊を見たのね。実家の側に通うようになって、事件の記憶が蘇った……きっかけが在るはずよ」

「わざわざ友人でもないカオルに連絡したんだ。刑事に話したい何かがあった筈、だよな」

「辻村さんは思いがけない事故でカオルさんに会う前に亡くなってしまった。

カオルさん、何としてでも辻村さんの用件を知りたいでしょうね」


「うん。明日奥さんに会って、生前の辻村さんの言動を細かく聞いてくるよ」

  辻村の妻から何も新たな情報が得られなければ

  それで終わりだと、聖は思っていた。

  調べようがない。

  カオルの出来ることは何も無いと。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ