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3話 元大賢者は寺子屋行きを延期したい

「寺子屋? 」


「そう。寺子屋よ。」


 なぜ?

 この時代は、5歳になったら寺子屋へ通う決まりでもあるのか?


「なぜ行かねばならぬのじゃ? 」


 まだほとんど情報収集できていない状況で放り込まれるのはさすがに避けたい。


「それは、あなたが寺子屋へ通える5歳になったからよ。」


「5歳になったら、通う決まりになっておるのか? 」


「決まりではないわ。ただママもそろそろ冒険者として活動を再開したいのよ。その間家に一人は危ないわ。だから寺子屋へ通ってもらうの」


 なるほど。2馬力で稼ぎたいってことじゃな。

 まぁ、前世のこの世界でも専業主婦は、マイナーな方じゃったからな。

 専業遊び人みたいな貴族夫人は前世でも多かったが、

 この家の内装を見る限りは、遊んでいる余裕はなさそうじゃの。

 それにしてもこの小娘、もとい母上殿は冒険者であったか。


「母上殿は、冒険者であったのか。」


「そうよ。前から何度も言ってたでしょ。王都一の美少女冒険者。カース・オブ・ラブって二つ名もあるんだから!」


 恋の呪いとは、ダサすぎる二つ名。

 この世界のネーミングセンスは、前世から受け入れがたいものがあったな。

 わしの二つ名も・・・、それはどうでもよいか。

 まぁ、母上殿がモテていたことは分かった。


「毎日いろんな男性に声をかけられていたのよ。まぁ、Aランク冒険者のお父さんと付き合うようになってからはなくなったけど。」


 まぁ、当然のごとく父上殿も冒険者か。

 冒険者夫婦。まぁ、職場結婚みないなものか。

 しかし、父上殿はAランク冒険者であったか。

 Aランクといえばかなり高ランクであったはず。


「父上殿は、Aランクなのか?Aランクってなんなんじゃ?」


「ふふ。Aランクっていうのは、王都でも20人しかない強い冒険者に与えられるランクよ。」


 父上殿はドヤ顔でわしを見てくる。


「そうであるか。では父上殿は、魔法でバーンと強い魔物をやっつけたりしておるのじゃな。」


「まぁ、そうね。でも魔法でバーンというより剣でズバッて感じかしらね。ねぇ、あなた。」


「そうだな。俺は剣術寄りの魔剣士だからな。剣でとどめを刺すことが多い。」


 魔剣士。

 前世の時代では、ポピュラーな職種じゃった。

 魔法がいまいちじゃから身体能力で補うというイメージじゃ。

 しかし剣術寄りというのは、魔法が使えぬわしにはかなり朗報じゃ。

 息子という立場を利用して教えを請おう。


「母上殿も魔剣士であるのか?」


「いいえ、違うわよ。私は、バフやデバフ、ええっと味方を強くしたり、敵の動きを鈍くさせる魔法が得意な魔法使いよ。」


 ほう、母上殿は魔法使いか。

 バフやデバフが得意。確かにそれであれば父上殿との相性はよさそうであるな。

 しかし、魔法の分野において苦手や得意などの意識があるとは。

 全魔法を満遍なく使っておった、元大賢者たるわしには理解できない感覚であるの。

 前世でも母上殿と同じく、特定の魔法が得意や苦手というものは多かったのう。

 人に全く興味がなかったわしは、特にそれについて深く考えなかったが、今一度どういうことか考える必要がある。

 現状わしの生き死には、ある意味で両親の戦闘能力にかかっておる。

 もしものことを考えると両者ともになるべく強くなってほしい。

 わしの前世の知識を共有することができれば、今よりさらに強くなるはずじゃ。

 どうやって共有していくかが今後の問題じゃな。


「わしも冒険者になりたい!」


 そういうと二人とも悲しそうな笑みを浮かべる。

 おそらくわしの魔力量が0であることを知っておるのじゃろう。

 魔力量を知った手段は不明じゃが、魔力量が0である人間が冒険者として

 やっていくには血のにじむような鍛錬が必要じゃ。

 魔剣士であれば、魔法で身体強化魔法を使用して戦うのが常識じゃ。

 魔法が使えぬ剣士は、当然身体強化魔法が使えぬ。

 つまり技術で身体能力の低さを補わなければならぬ。

 かなりのいばらの道じゃ。


「ふふ。そうね。ルイトならきっと一流冒険者になれるわ。」


「ああ、そうだな。」


 お世辞とわかっておるが、これが親の愛じゃな。

 っと、親の詮索をしておる場合ではなかった。

 なんとか寺子屋に通うのを伸ばしてもらわねば。

 最低でも3日は欲しい。

 できれば1週間。

 ここは、『ドア・イン・ザ・フェイス』じゃ!


「それで母上殿、寺子屋なのじゃが、わし行きたくないのじゃ! 」


「どうして? 理由を教えて。」


「理由は、わしは一刻も早く冒険者になりたいのじゃ。だから父上殿と母上殿についていって、冒険者のなんたるかを学びたいのじゃ」


「おお、それは素晴らしい案じゃないか! そうしようそうしよう。」


 父上殿の発言に対して、母上殿はキッと父上殿をきつくにらむ。

 まぁ、わしがいうのはなんじゃが、どう考えてもむちゃな希望に間髪いれず賛成はどうなのじゃ。


「それは、できないわ。冒険はとても危ないものなの。今の弱い○○じゃ連れていけない。」


「大丈夫なのじゃ、Aランクの父上殿が守ってくれるのじゃ! 」


「そうだ。俺が守る! ケガ一つ負わせない! 」


「あなた、少し黙って」


 母上殿の言葉に父上殿はきりっとした表情になって口を閉じた。


「ルイト、いい? 誰かに守ってもらうことは悪いことじゃない。でもパーティーっていうのは、お互いに支えあうことが最低限の条件なの。支えてもらうだけの人は連れていけない。」


 まぁ、正論じゃな。わしもそう思う。

 この辺が折れ時じゃ。


「うん、わかったのじゃ。連れていってもらうのはあきらめるじゃ。」


「いい子ね。」


 そういって、わしの頭をなでる。


「本当は、当然言われて戸惑っているのよね。一人で知らない場所に行くんですもの。」


 わしは無言でうなずく。


「そうね。心の準備が必要よね。」


「1週間で勇気を出すようにするのじゃ。」


 母上殿はにっこり笑って、


「3日よ。3日で勇気を出しなさい。この程度のことで1週間もかけるような軟弱者は、到底冒険者になれないわ。」


 ぐっ、3日。

 まぁ、最低限の日数は確保できた。

 『ドア・イン・ザ・フェイス』成功じゃ!

 最初に断れるであろう大きい提案をして、断られたあとに本命の提案をする交渉テクニックじゃ。

 返報性の原理という、相手に借りができた場合に、お返しをしなくてはいけないという人間心理。

 今回の場合じゃと冒険についていくという提案を断ったお返しに、こちら本命である明日いきなり寺小屋へ行きたくという気持ちをくんだということじゃ。


「わかったのじゃ。3日のうちに行けるよう勇気を出すのじゃ」


「頑張りなさい。まぁ、1つ寺小屋についていいことを教えてあげる。寺小屋であなたの面倒をみてくれるのは、パパの剣術のお師匠様で歴史上唯一、魔力0でSランクになった剣士よ」


 なんと! それは素晴らしい。

 剣術の教えを請うには最適の人物じゃ!


「唯一無二のストラテジストフェンサー。その名もムサシ様。」


 ストラテジストフェンサー。

 軍師剣士。

 うむ、通り名がカッコ悪いのは想定どおりじゃ。

 しかしムサシか。

 前前世でとても有名な剣士の名前だが、偶然の一致かのう?

【わしからのお願い】


この小説を読んで少しでも面白いと思ったり、続きが気になる、エタらずに頑張れと応援してくれる読者殿がおるのなら、↓の★★★★★を押して応援してくれると助かるのじゃ。

それを励みにきっと作者は頑張るのじゃ。

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