2話 魔力が...
知らない若い男女に、幼児化したわしの体。
知らない名前で呼びかけられる。
これは、ほぼ間違いなく転生じゃな。
1度経験しとるからのう。
ここまで状況がそろえば間違いないであろう。
しかし、一度目と同じく転生の際に神様やら世界の管理者なんぞ出てこなかったぞ。
いや、会っているが記憶が消されている可能もあるかのう。
1度目と同じく乳幼児ではなく、ある程度育ってから覚醒となるとまた5歳児かの。
「なぁ、母上殿。わしの5歳の誕生日って今日じゃよな? 」
「ええ、そうよ。今日の夜にお祝いしましょうね! 」
食事の用意をしながら、答えてくれる。
「わーい。やったー! 」
ちと白々しい演技じゃったか。
演技は苦手じゃ。
だがやはり前回と同じく5歳。
1回目の転生は地球から異世界への転生であったが、今回はどうやら前世と同じ世界のようじゃ。
前世のわしと同じ名前の大賢者がおることは確定じゃからな。同じ世界とみて間違いないじゃろう。
ふむ。前回と同じく死んだ状況を思いだせんのう。
80歳を超えたことは覚えておるが、それ以降の記憶があやふやじゃ。
認知症などになって周りに迷惑をかけておらぬとよいのじゃが。
自分が世話する分はいいが、世話されるのはすごく嫌じゃのう。
まぁ、前世のことなど考えも仕方なかろう。
問題は、何年先の未来かということじゃ。
今聞いても、そもそも年号が変わっている可能性もあり、歴史書等で前世時代のことを調べる必要があるのう。
この家にそのような本があるとよいが。
「母上殿、歴史の勉強をしたいんじゃが、歴史の本などこの家に置いてあるかのう?」
会話が成立しておるから、同じ言語圏であるようじゃから、
おそらく本も読めるじゃろう。
「あら、うちにある本を読んで大賢者を知ったわけじゃないのね。それならパッとしないほうの大賢者になりきっていたのも納得できるわ」
パッ、パッとせんじゃと。言われようがあんまりじゃ。
「ラーナハイド以外にも大賢者と呼ばれておるものがおるのか?」
「ええそうよ。英雄かつ大賢者で英賢者って呼ばれ方が普通かしら。名前はダイジ・ロウ。」
ダイジ・ロウ
日本語名由来匂いがプンプンするのう。
「ダイジ・ロウは、どんなことをして英雄とまで呼ばれるようになったんじゃ?」
「それは自分で本を読んで調べなさい。そうね一つだけ教えてあげる。彼は絶世の美男子でモテモテだったそうよ。」
いけ好かない奴じゃ。わしの時代では聞かぬ名だから、おそらくわしが死んだ後に台頭してきた男であろう。
「本はどこに置いてあるのじゃ? 」
「パパの部屋に置いてあるわ。後でとってきてもらうといいわ。」
「父上殿、ということで後でとってきてもらってもいいかのう? 」
「おう、食事が終わったら持ってきてやるよ。」
本の目途はたった。
よし、今回の人生も無双させてもらうかのう。
まだ子供ゆえ魔力があまりないようじゃが、前世の知識チートで魔力量を爆上げじゃ。
ふっふっふっ。成り上がるのが楽しみじゃのう。
魔力は、ある方法で最大値が増えるのじゃ。しかも10歳までは、その増え幅がかなり大きい。
前世では10歳になるころには、すでに世界最大の魔力量じゃった。
それからあらゆる魔法を覚えていって、気づいたら大賢者と呼ばれておったわ。
今でも前世で覚えたすべての魔法を覚えておる。
ただ魔力量が使用量を満たすことができればすぐにでも使えるというわけでもない。
色々と制約があって、それを満たして初めて使えるようになる。
当分は修練が必要じゃの。
ただ気になることがあるのう。
先ほど使用したクリエイトウォーターが不発じゃったことじゃ。
簡単な魔法じゃから、5歳児でも使うことができる魔法のはずじゃ。
魔力量も20もあれば生成できる水の量を想定しておったんじゃが。
まぁ、5歳児じゃからのう。もしかしたら魔力量が一桁かもしれぬ。
確認してみるか。
ステータスと心中で詠唱する。
半透明のボードが目の前にあらわれる。
****
名前:ルイト
年齢:5歳
ジョブ:なし
魔力:0
スキル:記憶サーチ
現世、前世、前前世で体験したことについて思い出したいことを任意に完璧に思い出せる。
****
さすがにステータスボードは表示されたのう。ステータスボードも使えなかったら、転生のやり直しを要求しておるところじゃ。
しかし前世と同じ、簡素なステータスボードじゃの。
わしが死んでから幾分年数経っとるはずなんじゃから、バージョンアップしておいても文句はでんぞ。
異世界なんじゃし、筋力や体力、レベルが表示されてもいいんじゃないのか。
まぁ、愚痴っても仕方がないかのう。
おっ!
スキルが、スキルがある。なになに
記憶サーチか。
聞いたことがないスキルじゃ。
しかし完璧に思い出せるとはなかなかすごいスキルのような気がするわい。
問題は『体験したこと』の定義しだいじゃな。
たとえば街ですれ違った人の顔とかまで思い出せるなら、かなり使い勝手がよいのう。
うむ。後で試してみるかの。
さて。魔力じゃが、うむ。もう認識しておるが、認識したくないのう。
見間違いかもしれんな。もう一度しっかり見るか。
魔力:0
う、うむ。
何度も見ても魔力0じゃな。
しかし、これはかなり困ったのう。
魔力を1から2に増やすのと、0を1にするのは、全く違うアプローチ方法が必要じゃ。
前世においても魔力0だった者が魔力を使えるようになったとはとんと聞いたことがない。
まぁ、前世の常識じゃと魔力は神の気まぐれで増えるものと思われておったからのう。
そもそも0から1へ増やそうという試みる者はおらんかった。
正直わしも0から1にする方法はしらん。地道にいろいろと試していくしかないのう。
まぁ、しかし魔法が使えないというのも何か幸いの兆しかもしれん。
これを機に前世では全く鍛えなかった剣術を鍛えていこうかのう。
剣術を鍛える以外にないともいえるがのう。
「はい、どうぞ」
母上殿がわしの目の前に、目玉焼きとベーコン、芋をふかしたものを載せた皿を置く。
だれかに作ってもらう料理は久しぶりじゃ。
前世はずっと独り身じゃったからな。
モテなかったわけではないぞ。
ただ人づきあいが煩わしいとずっと思っておってのう。
人里離れた場所で過ごしていただけなのじゃ。
では、さっそく食べさせてもらおうかの。
「いただきます!」
両手を合わせて感謝の気持ちを込めて挨拶をする。
「なにそれ?」
両親ともに不思議そうな顔をされる。
しまった。こちらの世界では、特にあいさつせずに食べるんじゃった。
一人暮らしが長すぎてすっかり忘れておったわ。
「あ、あの、だ、大賢者が夢でやっているのを見て真似てみたんじゃ。」
「そうなの?だから朝から大賢者ごっこをやっていたのね。」
「う、うむ。そうなのじゃ、大賢者が夢の中でしゃべり方やあいさつを教えてくれたんじゃ。」
なかなかうまいぐあいに理由づけできたのう。
「そうか、だからなんかジジくさい話し方をしてるのか。」
ジジ臭い。
父上殿が息子の口調をディスってきたぞ。
しょうがなかろう。主観では昨日までジジイじゃったからのう。
威厳を出すために前世では、途中からこの口調でいくことにしたんじゃ。
確かに五歳児が使うような口調ではないが。
「そういえば、ルーちゃん。5歳になったから明日から寺子屋に通ってもらうわよ。」
唐突に母上殿から明日の予定を告げられたのだった。
【わしからのお願い】
この小説を読んで少しでも面白いと思ったり、続きが気になる、エタらずに頑張れと応援してくれる読者殿がおるのなら、↓の★★★★★を押して応援してくれると助かるのじゃ。
それを励みにきっと作者は頑張るのじゃ。




