10話 ルイトとラーナハイド
「あっ、女神様。お久しぶりです。」
女神から引っ張りだされた人物は、ニコニコしながら女神にあいさつをおこなう。
その後、わしのほうを見てニコッと笑う。
「あれ? 君はもしかして、僕の本体かい? 」
本体? ああ、ルイトの人格は、わしの魂を使って作り出されたといっておったのう。となるとこいつはルイトの人格じゃな。
「そうじゃ。わしが大賢者ラーナハイドじゃ。」
「ふふ。僕も大賢者ラーナハイドじゃ! 」
「いや、お主はルイトじゃろ! 」
「それを言うなら君もルイトだよ! 」
「いやいや、母上殿と父上殿にとって貴様こそがルイトじゃ」
「それを言うなら、リトアにとって君こそがルイトさ」
ぐぬぬ。さすがわしの魂を使っているだけあって、弁が立つのう。
「なんと呼べば満足なんじゃ? 」
「神? 」
「尊大すぎじゃ! 女神様の前で神を名乗ろうするな。」
「えっ? じゃ残りカス? 」
「今度は卑屈すぎじゃ! 極端じゃない呼称を考えろ。」
「ん-ー、女神様どうしたらいい? 」
「そうね。5歳で用済みだったからファイブエンドとかどうかしら? 」
「おお! かっこいい! ということでファイブエンドって呼んで! 」
「いやじゃ! 音感はともかく意味が最悪じゃ! あと女神、お主反省しておるのか? 」
女神はわしのツッコミを無視して、よそを向いている。
「もうっ! こだわりが強いなあ。名前なんてどうだっていいよ。だったら君が考えてよ。」
やれやれという表情をして、大切な名づけをこちらへ丸投げしてきた。
「それは構わんが、わしの提案した名前を拒否するでないぞ。」
「もちろん。名前なんてどうでもいいもん。僕に二言はないんだから! 」
「そうか。ではお主のことは、ルイトと呼ぶ。」
「なっ、そ、それはズルいよ。」
「お主がなんでもよいと言ったんじゃ受け入れろ。」
「むむむ。しょうがないね。僕に二言はないからね。それにその名前は嫌いじゃない。」
「で、ルイト、お主どこまで把握しておる? 」
「ん? 何を? よくわからないけど今日一日あったことはわかってるよ。」
「うむ。そうであるか。お主自身も消えたくないとか、もっと父上殿と母上殿と一緒にいたいという気持ちは当然あるんじゃろ?」
「うん。もっとパパとママと居たい。女神さまには5歳までってさんざん言われていたけど、もっと居たいよ。」
「うむ。わかった。先ほどまで女神と話しておったのだが、何年かかるかわからんが、お主の体を用意できそうじゃ。」
「ええっ! 本当!! とっても嬉しい! 」
ルイトは、嬉しさのあまりイエーイ、イエーイと踊り始めた。
「女神様、彼の言っていることは本当なの? 」
「ええ、そうよ。よかったわね。」
「うん! めちゃくちゃ嬉しい。」
引き続きイエーイ、イエーイと踊っている。
「ちなみに大体でいいんだけど、何年ぐらいかかりそうなの?」
わしに聞かれてもわからんよ。問題がいつ解決するかしらんしのう。
「何年ぐらいなんじゃ?」
わしは女神に問う。
「そうね。正確にいうことはできないけど、今から10年以内には用意できるようになるんじゃないかしら。」
なるほど、10年以内か。ちょうどこの体が15歳を迎えるまで。つまり成人するまでじゃな。
ちなみこの世界は男女ともに15歳を迎えると成人とされておる。また親の同意があれば12歳から結婚できる。貴族なんかは、12歳で政略結婚させられる女子も珍しくないのう。
あっ、これは前世の知識じゃ。今の世の中がどうなっておるかはわからんのう。明日にでも図書館へ行って調べねばならぬ。
「10年かぁ~、長いね。パパとママ、僕のことを忘れちゃわないかな。」
「大丈夫じゃ。あの二人なら片時もお主のことを忘れぬよ。それに、このブレスレットをつければお主が表に出ることができる。」
「えええええっ! 本当? 」
「ああ、本当じゃ。インド人とわしは嘘はつかん。」
「それ、インディアン違いじゃないかしら? 」
女神のツッコミが入る。
「インド人も嘘はつかんから問題ない。というか、女神様はわしの前前世の世界のことに詳しすぎぬか? 」
「当然よ。あなたを適当に選んでこっちへ連れてきたわけじゃないのよ。しっかりそっちの世界を調べたうえで、こちらへ転生させたんだから。」
「そうであったのか。適当に選ばれて転生したとばかり。話がそれたのう、話をもどそう。このブレスレットを付けている間、ずっと表へ出ることはできるが、最大24時間でそれ以上の長時間はできぬ。理由はお主の魂に負担がかかりすぎるためじゃ。現状おぬしの魂はエネルギーが減ってばかりで全く回復できておらぬ。」
「魂のエネルギーが減っている?そんな感じは全然しないけどな~」
ルイトは首はかしげる。
わしの代わりに女神が補足をする。
「まだまだエネルギーは潤沢あるからよ。少なくっていくと記憶が飛んだり、意思疎通が難しくなっていくから気を気をつけなさい。特に表にでている間にケガして魔法で回復なんて自殺行為だから気をつけなさい。」
「もしかして、回復魔法は魂のエネルギーを使っておるのか?」
「ええ、そうよ。魔力で魂のエネルギーを回復する力に変換しているの。通常なら魂のエネルギーは回復するから問題ないのなけど、ルイトの場合は回復する手段がないから致命的。回復魔法をかけてもらうなら、本体と変わってもらってからにしなさい。」
「はい、わかりました。」
ルイトは元気よく返事をする。
わしは女神から教えてもらった回復魔法の原理について歓喜しておった。
やはり回復魔法は、使用者が魔力だけでなく、掛けられてた者からもエネルギーを使用しておったか。
「ところで本体、君のことは何と呼べばいい?」
「好きに呼、いや、ラーナハイドと呼ぶとよい。」
好きに呼べと言ったら、きっとルイトと呼ぶに決まっておる。そうなればまた呼称決めのループじゃ。
「わかったよ。で、ラーナハイドは、いつ僕と代わってくれるの?」
「ああ、とりあえず明日代わって、お主の方から父上殿と母上殿へ説明するんじゃ。」
「うん、わかった。」
「その後は、当分は寺子屋の休みの日に代わることにする予定じゃ。今はまだ、寺子屋にどんなやつがおるかわからんからのう。問題のない人間を見極めてから、秘密を打ち明けたのち、お主と交流を図ってもらう。」
ルイトには、友達も必要じゃからな。
「いずれ僕も寺子屋にいけるってこと?」
「うむ、当然じゃ。」
「やったー!やった!やった!」
「そんなに行きたかったのか?」
「うん。5歳で僕の役目は終わるって聞いていたから、諦めていたんだ。本当はものすごく行きたかった!友達もたくさん作りたいと思っていたんだ。僕には半年に1回だけしか会えない友達しかいなかったから。」
「半年に1回しか会えないとはどういうことじゃ?」
「パパとママが半年に1回ぐらいのペースで王都に連れってくれるんだけど、そこでお世話になっているお屋敷の子が僕の唯一の友達だったんだ。」
父上殿と母上殿の知り合いの商人か貴族のどちらかであろうな。
いや、カスタルニア殿ような高ランク冒険者の可能性も捨てきれぬ。むしろそちらの方が可能性は高い。
「そろそろ朝になるようだから、一度現世に戻ってもらうわ。ラーナハイド、ブレスレットをはめたら、またこっちに呼び出すからそのつもりで。」
「うむ。わかったのだ」
返事を返すと視界が揺らいでいった。
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