1話 変態を自覚して絶望したら転生だった
色々と至らない点は多いと思いますが、楽しんで読んでいただけると幸いです。
ちゅんちゅんちゅん
小鳥のさえずりが聞こえる。
もう朝か。目を閉じていても日の光を感じる。
「ルーちゃ~ん」
突然柔らかい何かが顔を圧迫し、息ぐるしくなる。わしは、もがいてなんとか柔らかい何かから抜けだす。
「ぷは~、はぁはぁ。一体なんだというのじゃ。」
目を開けて確認するとわしの目の前には、20歳前後の年若い娘が横たわっていた。
どうやらこの娘がわしを胸に抱いて窒息させてようとしていた暗殺者のようだ。
というか、誰じゃこの娘。
全く見覚えがないのう。
ふーむー。
部屋を見渡してみると部屋にも見覚えがない。
泥酔して、この娘を部屋へ連れ込んでしまったのか?
まぁ、やってしまったことはしょうがない。
というかこのようなおいぼれと一晩過ごすなど、昨晩のわしはずいぶん気前よくお金を渡したんじゃろな。
歳を忘れて、記憶をなくすほど飲むとは、痛恨の極みじゃ。
わしは寝起きで、喉が渇いていたので、水を飲むことにした。
人差し指を立て、コップ一杯分の水を空中へと創造する。
創造する。
創造......
ありゃ? 水が作れない。
どういうことじゃ?
魔法に失敗するなど、生まれてから一度もないというのに。
むむむ。無詠唱がダメなら、詠唱じゃ!
「クリエイトウォーター」
し~ん......
なぬ。詠唱でもダメじゃと!!
まだ諦めぬ。たまたまじゃ!
「クリエイトウォーター」
し~ん......
「クリエイトウォーター」×10
し~ん......
これは本格的に老いぼれきたのう。
80になると魔法もまともに扱えぬようになるとは。
情けない限りじゃ。大賢者が聞いて呆れるわ。
「ルーちゃん、起きたの?」
暗殺者が寝ぼけまなこでこちらに声をかける。
誰がルーちゃんじゃ。
ちゃん付けは一万歩譲ってよいとしても
人の名前を間違えるとは何事じゃ。
「わしは、ラーナハイドじゃ! ルーちゃんなどではない。」
わしの名前を聞いて、女は柔和な笑みを浮かべる。
「ふふふ。大賢者ごっこ? だからさっき魔法を唱えていたのね。」
ごっこじゃと!? この80にもなる大賢者に向かって、ごっごじゃと!??
こやつ頭のねじが飛んでおるのか?
失礼にもほどがあるぞ。
「この無礼者が!わしに向かってごっこじゃと?目にものみせてくれるわ!」
魔力ロープでぐるぐる巻きにした後、泣くまでくすぐってくれるわ。
わしは人差し指を立て、くるりと回して娘に向かって指をさす!
し~ん......
またしても不発。
「バインドロープ」
し~ん......
詠唱しても不発。
「ぐぐぐ。動けないよ。ごめんなさーい。」
バインドロープが発動したかのような演技をする娘。
こ、こやつ、本気でわしを馬鹿にしておる!
許さぬ、絶対に許さぬ。
「ルーちゃん。ママ動けないから、ママの代わりに朝ご飯作って。」
また名前を間違えおった。
わしはラーナハイドじゃ!
というか昨夜のわしは幼児プレイをご所望だったのか?
それはさすがに自分でも引くぞ。
もう当分酒は控えよう。
「冗談よ。さぁ、ママのこと起こして」
手をわしに差し出す。
幼児プレイをご所望だった昨夜の自分に絶望したことで、冷静さを取り戻し、娘の手を取り起き上がらせることにする。
と、手をつかもうした際にあることに気づく。
手が大きい娘じゃな。
いや、これわしの手が小さい。
手が小さくなってる。
自分の体全体を確認すると、体全体が幼児退行しておる。
なんじゃこの状態は!!
変化の魔法を使って、幼児プレイを楽しんでおったのか!
変態じゃ。わしの本質は変態じゃったんじゃ。
もう。死のう。生き恥じゃ。
大賢者として世間に顔向けができぬ。
「どうしたの?朝から暗い顔して。さぁ、早く下へ行きましょう。」
娘は、わしを抱きかかえて階下へと向かう。
この状態のわしを衆目にさらすじゃと!
鬼じゃこの娘。早く変化を解かねば。
キャンセル!
し~ん......
ふふふ。無詠唱が発動しないことなどに驚きはせぬ。
「キャンセル!」
し~ん......
やはり発動せぬ。解除することもできぬとは。
もうどうにでもなれじゃ。
他の魔法使いに解除してもらうしかないのう。
はぁ。生き恥じゃ。
「何を解除したいの?」
わかっとる癖に、意地の悪い小娘じゃ。
「この幼児体形を解除したいに決まっとるじゃろ」
「ふふ。そうね。解除できるといいわね。」
なんじゃ、この娘。わしが魔法が使えぬようになった理由でも知っておるのか?
含みのある言い方をしよって。
娘に抱きかかえられたまま階下におりる。
そこは、わしの想像しておった広く騒々しい宿屋の食堂などでなく、
明らかに一般家庭のリビングじゃった。
木製のテーブルに木製の椅子。
そこに一人の男が腰を掛けている。
「おはよう、ジーニ。」
「おはよう、あなた。」
「おはよう、ルイト」
男はわしをルイトと呼びおる。
「どうしたんだ、険しい顔して。あいさつしてくれないとお父さん悲しいぞ。」
お父さんじゃと?お父さん!?
幼児プレイをこの男にも強いるほどの本格的な変態じゃったのか!!
わしもう絶望しかない。
いや、自分を信じろ。わしはそこまでの変態じゃない。
クールに、クールになるんじゃ大賢者。
よく考えるとこの状況に覚えがあるぞい。
見知らぬ男女からの子供扱い。
これは...
あぁ、これは、
2度目の転生じゃ。
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