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三文小説編-2

 私は、椿に着替えさせられた。


 普段着の着物であったが、今までに見たことないぐらい綺麗な着物だった。華やかな薄桃色の着物で、こんな綺麗な着物に縁のなかった私は思わず緊張してしまう。


 髪の毛も綺麗にしてし貰った。


 マーガレットという髪型で、大きなリボンも椿さんに結って貰った。鏡の中にいる私はまるで東京にいる女学生のようにハイカラな雰囲気である。縁のない着物や髪型に私はすっかり恐縮していたが、椿は手を止めない。化粧もし始めてしまった。


 奥様にも化粧をやってもらったが、椿の手つきは丁寧で尊重してもらっているように感じて、私はさらに居心地が悪い。


 奥様にしてもらった化粧と違って、粉をはたき、口紅をさしてもらっただけではあるが、それでも私は緊張してしまう。


「わぁ、綺麗にできましたよ」


 椿は出来に満足そうにしていたが、私は自信がない。


「龍神様にも気に入って貰いますよ」

「そうですかね……」


 私は顔を真っ赤にして、俯く事しかできなかった。


 こうして着替えが済むと、椿さんから屋敷を案内される。大きなお屋敷で、廊下を歩くだけでも結構な運動だった。元にいた世界のお屋敷と違い、日本家屋だったが、私はすっかり緊張していた。こんな大きく立派なお屋敷は、自分には一生縁のない場所だと思い込んでいたのに。


 ただ、庭はないようだった。本当に海底にある竜宮城という場所に思えてならない。それに椿さん以外の人が一人も見当たらないのが妙だった。広い部屋がいっぱいあるようだが、使われている形跡もなく、真新しい屋敷みたいである。畳も井草の匂いが鼻につく。


「外に出る時はどうすればいいんでしょうか?」


 私はとりあえず一番疑問に思うことを聞いてみた。


「基本的に外には出られませんよ」


 椿さんは無表情で言っていて、余計に嫌な予感がした。


「ど、どうして?」

「龍神様は色々と大変なご身分の方なのですよ。敵が多いので。だからこの屋敷には、結界が張られていて出られませんよ」

「そ、そんな。椿さんはどうしているんです?」

「私は妖物ですからね。この結界ぐらいは超えられますよ」

「龍神様は?」

「あの方が結果を作ったんですから、当然ですよ。まあ、この屋敷はとても広いですし、運動不足にはなりませんねぇ」

「そうだけど……」


 これだとまるで籠の鳥ではないか。死なないで良かったとはいえ、これからどうやって過ごせば良いのだろうか。


「まあ、龍神様に頼めば外に出られますし、奥様は愛されていればいいんですから」

「え? 愛される?」


 今までで一番縁のない物が目の前び突然現れたような気分になった。一番自分を愛してくれている両親は死んでしまった。それ以来は、自分には一切の関わりがないものだと思い込んでいたのだが。


「龍神様は、奥様の事を可愛らしい方だと言っていましたよ」

「嘘」


 それこそ信じられない。


 しかし最初に出会った時、龍神様は自分を労ってくれた事を思い出す。やっぱり人間を殺すという噂は嘘なのかもしれないと思い始めた。


 自分の事を可愛いらしい方と言われ、喜ばない女性がいるだろうか。いくら男性に接したことのない自分とはいえ、これは褒め言葉という事がわかり、心の内側がくすぐったい感覚に陥る。


 広い屋敷大方見て回るが、なぜか椿さんが渋い顔をした部屋があった。


「この部屋はなんですか?」


 襖は締め切られてあり、何も見えなかった。


「あぁ、ここは……。この部屋は龍神様の仕事部屋ですから」


 なぜか椿さんはにっと笑った。今までは優しそうな椿さんであったが、その笑顔は何か邪悪的なものだったが。


 私は思わず襖の取ってを触ってしまった。しかしビクともせず、襖は開かない。


「はは、奥様。この部屋は二重、三重と結界がかけられていますから、開きませんよ」


 ぜいぶんと用心深い。そもそも仕事って一体何をやっているんだろうか。


 その疑問を言おうとしたが、椿さんは私のて手を無理矢理引き、別に部屋に連れて行ってしまった。


「さあ、そろそろお食事ですよ。龍神様が待っておられる『赤の間』にいきましょう」


 何か違和感がつきまとうが、今の椿さんは答えてくれそうになかった。


 やはり生きているだけでも儲け物なのかもしれない。この屋敷は色々と元いた世界とは違う様だが、深く追求しない方が良いのかもしれない。


 椿さんは優しいし、龍神様もきっと優しい。


 私はそう思い込む事にした。


 それにこんな綺麗な着物を着せられている状況は、夢見たいである。もしかしたら、現実ではないのかも知れない。

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