番外編短編・行ってきます
私の朝は毎日忙しかった。
まず、隆さんに朝食を用意して、それから牧師館で子供達や牧師さんの朝ご飯も準備する。
特に牧師館のちゃぶ台は戦場と化す。おにぎりや焼き魚は子供達の奪い合いだ。
「こらこら、喧嘩するんじゃありませんよ」
私は朝から子供達に注意し、へとへとだ。どうにか子供達にご飯を食べさせ、隆さんがいる方の自宅に戻る。
「志乃、おつかれだなぁ」
「そうね。子供達も今10人もいるし……」
ようやく隆さんと一緒に朝食を食べ始めた。2人で食べているが、牧師館の方から子供達の笑い声が響いてきて、やっぱり少し賑やかだ。
「まあ、我々も子供が産まれたら、賑やかにやるだろうね」
そう言って隆さんは味噌汁を啜る。最近は小説の原稿もひと段落し、顔は健康的だ。やっぱり作家業と教師の二足の草鞋は大変そうだが、せっかく夢を叶えたので陰で支えたいと思う。
「え、子供って?」
「おいおい志乃。惚けるなよ……」
隆さんの言わん事がわかり、私はちょっと照れてしまう。確かに子供が出来る可能性はゼロではない事は、毎夜わかっていたはずだが、忙しい朝ですっかり忘れていた。
朝食が終えると、私は隆さんの身支度を手伝った。最初は洋装のネクタイを結ぶのは難しかったが、今はすっかり慣れた。
きちんとした洋装姿の隆さんは、我が夫ながら美男子だ。これ以上の美男子はいないだろう。
「志乃は、美人だな」
そんな事を考えていると、見透かされたような台詞を隆さんに言われる。
「そ、そんな」
不意打ちの褒め言葉に私の顔は茹でタコみたいになってしまう。
「あ、あなた。遅刻しちゃうわよ」
「おぉ、そうだな」
バタバタと慌てて二人で玄関に向かう。
「じゃあ、行ってきます!」
隆さんはそう言った後、不意打ちで私の唇に口付けをした。褒め言葉同様、口付けも不意打ちで驚きで目を見開いてしまう。
「はは! じゃあ、本当に行ってくる」
驚いている私を無視して、隆さんはさっさと出かけてしまった。
甘い新婚生活はしばらく続きそうだ。




