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番外編短編・厠と悪魔の奴隷

 ある日の事だった。


 私はすっかりミッションスクールの生活に慣れ、勉強や友達との生活を楽しんでしんいた。家庭科の時間では西洋風の汁物・シチューの作り方を習い、この牧師館のみんなに作り好評だった。まあ、一鍋分も作ってしまったので、完食するまで大変だったが。


 今日は半ドンの日で、学校から帰ったら溜まった家事をしていた。今日は美加子さんも櫻子さんも家の用事があり、一緒に寄り道する事も出来ず、あいた時間は家事をする事をした。


 厠の掃除も私の仕事である。


 ちょっと面倒である事は事実だが、ここが汚れるのはやっぱり気分は良くない。


 そういえば死んだ父はよく厠に入る前に咳払いをしていたのを思い出す。日本独特なしきたりのようだが、何故そんな事をしていたのかわからない。


 掃除が終わると、隆さんに聞いてみる事にした。ちょうど信徒さんに草団子を貰っていた。お茶でも飲みながら聞いてみよう。


「隆さん、お帰りなさい。お仕事おつかれ様です」

「おぉ、草団子か。天気もいいから、縁側で食おう」


 書斎で草団子を食べようかと思ったが、その提案も良さそうだ。お盆にお茶と草団子をのせ、縁側に持っていく。


 厠の件を聞いてみる事にした。おやつを食べながらの話題では無いと思うので、全部食べ終えてから聞く。


「ああ、確か厠という言葉は川の上にかけられていた川屋という御手洗いから転じたもんなんだよ。人間の排泄物は、川から海へ行き、黄泉の国にまで流れ着くって信じられていたんだな」

「へぇ」


 さすが隆さんである。物知りだ。


「だから厠にも神様がいるとか信じられていて、そんなしきたりやお呪いみたいのがあるんだ」

「日本の神様ってしきたり色々作って面倒臭いわね。その点、私達の神様は自由にしてくれてるわよね」

「そうだな」


 隆さんは深く頷く。


 確か死んだ父は、夜に爪を切るのも祟りがあると怖がっていた。そう思うと、父もこうしたしきたりに囚われた悪魔の奴隷だったのかもしれない。隆さんによると、悪魔はしきたりや決まりで人の心を縛るのも大好きなんだそうだ。


「それにイエス様も聖霊様も父なる神様もいつも見てるわよね。そんな小手先のしきたり守ったぐらいでは、効果ないと思う」

「そうだな。善行では我々の罪はどうにもならないから、イエス様が死んでくださったんだよ。むしろ罪を悔い改めていないと表面的な善行に走りやすいよな」

「そうね。罪を犯した罪悪感って悔い改める以外では絶対消えないのに」


 厠の話題だったのに、結局イエス様の話になり、ありがたくて涙が出そうだった。


 確かに耶蘇教ではやってはいけない決まり事(偶像崇拝禁止など)もあるが、神様の事を信じていれば自然とやりたくないものばかりだ。そんな人の心を縛る様なしきたりは一つも無い。イエス様が命じる戒めは一つ。隣人、敵も自分の事のように愛する事。


「草団子美味しかったな」

「ええ。とっても美味しかった」

「今度いっぱい買ってやるぞ」


 婚約が決まってからどうも隆さんは私に甘すぎるようだ。相変わらず厳しい所もあるが、こんな風にちょっと戸惑うぐらい甘い事も言う。


「いいえ。甘いものはたまに食べるから美味しいのよ」

「それもそうだな。人間の胃袋は一つだもんな」

「それにあなたと一緒にこんな風に一緒に居るだけでも本当に楽しいのよ。草団子はおまけみたいなものね」

「あはは、嬉しい事言うな」


 隆さんの大きな笑い声が縁側の響き、私もつい笑ってしまった。

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