洗礼編-7
あれから年があけて、春が近い。私はミッションスクールに通い為の勉強に勤しんでいた。
受験勉強も隆さんが面倒を見てくれた。お陰で模擬試験も毎回満点に近く、合格できる可能性が高いという。
奥様の問題も無事に解決した。
絵里麻も無事に商家の御曹子と婚約が決まり、奥様も真野さんの家で働いている。絵里麻はあれ以来風邪一つ引いていない。健康そのものだと言う。
絵里麻の体調不良も龍神の呪いだったのかも知れない。神様からの裁きかも知れないが、それは人間がいくら考えてもわからない事だろう。
ただ、今は絵里麻も奥様も問題なく過ごしているのだから、私はこれで良かったと思う。
そんな中、私の洗礼の日が決まった。
3月の初めの週の日曜日、日曜礼拝が終わってから近所の川で行う事になった。
洗礼は水のバプテスマとも言い、水につかり罪を洗い清める意味もいある。水の中で息を殺し、一瞬死んだ事により新しい自分に生まれ変わる。その心にはは神様の霊、聖霊様を受けとる事ができると、隆さんが教えてくれた。
洗礼の日は、いつもの3月と打って変わり、汗ばむぐらい暖かかった。まるでこの日を祝福してくれているみたいである。
川の水に浸かっても、風邪をひく可能性はだいぶ低くなった。
私の洗礼式には牧師さんはもちろん、隆さん、初美姉ちゃん、太郎くんはもちろん、ハンスさんや奥様や絵里麻まできてくれた。
私と関わりがある人々から見守れる中、川に腰までつかる。魚釣りをそている子供がチラチラとこちらを見てくるが、邪魔をしてくる事はなかった。
少し寒くはあったが、それ以上の喜びがいっぱいだった。
「あなたは、自分の罪の為にイエス様が十字架につけられて死なれた事を信じますか?」
「信じます」
牧師さんの言葉にはっきりと返事をする。
「あなたはは、イエス様が亡くなられて3日目に蘇られた事を信じます?」
「信じます」
再びはっきりと言う。
これだと結婚式の宣誓のようだ。あながち間違って居ないのかも知れない。
私は、これからイエス様の花嫁になる。これ以上の嬉しい事はない。それは自分から信仰しようとがむしゃらに頑張ったのでが無く、自然とそうなっていた。
まるでイエス様が私が信仰を持つように選んでくれたみたいだ。クリスチャンをキリストの花嫁という理由がとてもよくわかってしまった。
「それでは洗礼を授けます」
牧師さんから肩を押されて、川の水の中の沈められる。
一瞬の事だったが、息ができない。同時に様々な記憶が脳の中を駆け巡る。
自分の今まで犯した罪もよくわかった。
そして川の水から起き上がる。
本当に生まれたばかりの気持ちのように、心は晴れやかだった。全身びしょ濡れなのに、喜びしか感じなかった。今まで一番幸せを感じていた。
人間は神様を愛するように創られている。神様がそうお創りになった。だからいくら肉的な欲求や偶像崇拝をしても満たされる事は無い。
でも今は、私の胸は幸せでいっぱいだった。もう誰からも愛を求めなくても良い。神様が私を愛してくれるから、今度は自分から人を愛する者になろう。
「志乃!」
ズブ濡れの私に隆さんや初美姉ちゃんが手ぬぐいを持ってくて拭いてくれる。見上げた空は、まるで神様が祝福してくれているように澄んでいた。




