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洗礼編-5

 あれから奥様と絵里麻と一緒に泣き続け、彼女達の間でわだかまりのようなものはすっかり無くなってしまった。


 時々火因村にも遊びに来てもいいとまで言ってくれたし、教会にも来たいとも二人とも言っていた。


 翌日、私は日曜礼拝の受け付けの手伝いをしていたら、驚くべき事が起きた。


 なんと、奥様が日曜礼拝にやってきた。はじめて教会に来たのだろう。キョロキョロと周りをうかがいながら、明らかに戸惑っていた。


「志乃、奥様を席まで案内してあげろよ」


 一緒に受け付けをしている隆さんが気を使って言ってくれた。


 私は小さく頷き、奥様を信徒席まで案内する。もうそろそろ礼拝が始まるので、信徒席は全部埋まっていた。予備の折りたたみ椅子を出し、奥様にそこに座ってもらう。


「こんな席でごめんなさい。これは、讃美歌の楽譜と週報です」

「へぇ。意外と人が多いのね」


 奥様はそれが意外だったらしい。日本は仏教や八百万の神が信じられてきた。耶蘇教は日本に入ってきても禁止されたり迫害もされていた。30年ぐらい前の火因町でも耶蘇教式の葬式をやったものが居たらしいが、罰金を払わされた事件もあった事を思い出す。


「今は、西洋の文化の興味がある人も多いみたいです。牧師さんによると耶蘇教は別に西洋の宗教というわけでは無いんですが」

「ああ、そうなの。確かの今後戦争があるかも知れないし、西洋の事を知っているのは悪くないわ。たぶん日本は戦争になったら英語や西洋の文化は禁止するでしょうけど、それは良いことだとは思わないわね。敵国は逆に日本の事を研究すると思う」


 奥様はお金持ちの才女だったし、教養があるというのは本当かも知れない。


「志乃も女学校の行った方が良いわよ」

「そんな、無理ですよ…」


 それは儚く消えた夢だ。両親が死んだしまった瞬間から、忘れなけれなならない事だった。


「そうとは言い切れないわよ?」

「え?」


 奥様はちょっとニヤリと笑っているけど、どういう事だろうか。


 ちょうど受け付けの仕事を終えた隆さんがやってきて、私達のそばの席に座る。


「なんだ、奥様方騒がしいぞ」


 隆さんは、少し眉根をよせる。


「ごめんなさいね。礼拝が終わったら、少し話せる? 現実的で重要な事なのよ」

「話?」


 どういう意味だろうか。


「ええ。志乃も聞いてね。大事な事よ」


 奥様は、口をぎゅっと閉じて頷く。


「大事な話てなんだ?」


 隆さんが怪訝な顔をして呟くが、ちょうど礼拝が始まる。

 教壇の上に牧師さんがやってくる。招きの言葉として聖書の御言葉が朗読されると、讃美歌が始まる。


「主は大いなる方〜♪」


 明るい礼拝堂は、信徒達の美しい歌声で満ちる。この歌が天国にまで届いて行きそう。そんな映像が頭の中に浮かんでしまう。


 そんな讃美歌を聴きながら、奥様はかなり驚いていた。やはり火因村だけでなく、日本の神には無いものだと気づいたようである。


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