洗礼編-3
奥様の家は前に来た時よりも綺麗になっていた。
張り紙も生ごみもない様だが、玄関の門や扉にかけられたインクはなかなか消えないようだ。それでも少し薄くなっていた。
前に置いていった食糧も無くなっていた。奥様が持って行ってたと考えて良いだろうか。だとしたら喜ばしいのだが。
「奥様。志乃です」
「前来た神谷だ。様子を見に来たんだが、いるか?」
私達は戸をたたき、ちぃっと大きな声で奥様を呼んだ。
しばらく呼んでみたが、返事はない。部屋の明かりはついているので、在宅しているはずだが。
しばらくしつこく二人で戸を叩き続けた。するとようやく戸が開き、奥様が出てきた。
「何なのよ、あんた達」
前にあった時と同じような着物姿で、疲れた表情の奥様が現れる。
「様子を見に来たんだよ。どうだ? 娘の様子は」
「奥様、絵里麻の容姿はどうですか?」
「それは……。まあ、もう熱は下がっていて、起き上がれるぐらいにはなったけど」
渋々と言った口ぶりで奥様が呟く。
「本当か? なんか怪しいな。やっぱりちょっと上がらせてもらうぞ。失礼」
隆さんはちょっと無理矢理家に上がってしまった。私も彼の後を追う。
奥様は何か喚いていたが、隆さんは完全に無視して、絵里麻がいると思われる戸がを叩く。
「おい、娘。私は志乃の保護者だ。大丈夫か?」
「絵里麻、大丈夫?」
私も戸を叩くと、意外なことに絵里麻の声がした。
「どうぞ」
弱々しい声だったが、その声を合図にし、絵里麻の部屋の入る。
絵里麻は布団の寝そべっていたが、顔色は悪くない。ただ、前にあった時よりもかなり痩せてしまい、髪も肌もボロボロだ。その点はここで働いた時の自分より酷い有り様になっていた。
「絵里麻、大丈夫?」
私は絵里麻の枕元に座った。やっぱり近くでみる絵里麻は痛々しく見えた。
「なに、何しに来たのよ……」
絵里麻は、いつものように気が強く言い返していたが、声が枯れているので全く様にならない。
隆さんも私の横に座り、奥様も部屋に入ってきたが、なぜか絵里麻はポロポロと涙をこぼしてしまった。
「私が悪かったとは言わないけど」
「おいおい、いつまでも意地張るなよ」
隆さんは絵里麻の言葉にため息をつく。
「でも、私がきっと間違っていたのね。志乃、あんたも悪い奴だけど」
「そうね……」
私は素直に頷き、奥様はとても驚いていた。
「だったら私も悪いのよね……」
絵里麻の言いたい事は何とな伝わってきた。絵里麻も意地悪な所はあったが、私が完全に正しかったといえば別にそうでは無い。
「絵里麻、林檎でも食べる? 林檎好きだったでしょう」
「志乃、よく覚えているわね」
絵里麻はワガママで、偏食気味だった。和食も基本的に好きではなく、西洋食ばかり食べたがっていた。
「林檎だけでなく、色々果実を持ってきたぞ」
隆さんはちょと自慢気に胸をはる。
「じゃあ、さっそく台所で切って来ましょうか」
「私も少し手伝うぞ」
「ちょっと、あんた達何を勝手に!」
奥様は、私達が台所の行くのが気にわないらしく、必死に止めてきた。
「ちょっと、お母様。うるさいけど?」
しかし、絵里麻が文句を言ったで、奥様は思わず怯んでいた。わた達はその隙に台所のむかった。




