洗礼編-2
火因村に向かうため、川沿いの道を二人で歩く。
「しかし、今朝はすごい雨だったがよく晴れたもんだ」
道には水溜りがあるものの、綺麗に晴れていた。水溜りに太陽の光が反射してキラキラとして綺麗なものだ。
「そうね。綺麗に晴れたわね」
「というか、荷物重くないか?」
奥様の食糧を持って行くためのカバンは確かにちょっと重かったが。私は何も言っていないのに、隆さんは勝手に私のカバンを取り上げてしまう。
「代わりに持ってくれてありがとう!」
「いや、いいってこと」
笑顔で礼を言うと、隆さんはちょっと顔を赤くしていた。今は秋であるが、今日は雨もあがって少し暑いのかもしれない。
「しかし、この川は透き通っていて綺麗だな。こんな川で洗礼式やったら、良いだろうね」
隆さんは、釣りや川遊びをしている子供達を見ながら言う。
「洗礼式って水に浸かるの?」
「ああ。そうする事で古い自分は死に、新しく聖霊様をいただくんだ」
「聖霊様と父なる神様とイエス様は三位一体だったわね」
「そうそう。よく勉強しているじゃないか。この三位一体を否定している教会は、いくら耶蘇教の看板を掲げていても異端だから気をつけろ」
「そんな異端なんてあるの……」
耶蘇教というと聖書の教えに忠実だと思っていたのに。
「そもそも世間で認められているカトリックもマリア崇拝やってるから、異端と言えば異端なんだよ。マリア崇敬とか言ってるけど」
「マリアさんなんて聖書ではちょっとしか出てきていないのにね」
カトリックについては、よく知らないが、マリアを拝んでいるのは明らかに聖書で言っている事と違うと感じた。
「たぶん、100年ぐらいで終末だ。おそらく異端というか偽預言者はいっぱい増えてくるだろう」
「終末なんて怖いわ」
つい本音が漏れてしまう。聖書では終末期には、人々の愛が冷めるという事も書かれていた。その事を思うと、今はまだ恵まれた時なのかも知れない。
川遊びをしている子供達のはしゃぎ声が、やけに耳に響く。
「終末がないとイエス様は来てくれないからな」
「そう思うと、100年後ぐらいに生きている人が羨ましいわね」
「そうだな。イエス様、早く来てほしいな」
「そうね……」
そんな事を話しているとあっという間時が過ぎ、奥様の家にも到着した。




