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洗礼編-1

 それから数日が流れた。


 初美姉ちゃんがいない穴を塞ぐべく、毎日家事の追われ、勉強も頑張っていたが、やっぱり気になるのは奥様や絵里麻の事だった。


 しれは、隆さんの勉強中も少し考えてしまい、自然と顔に出てしまっていた。


「あの奥様と絵里麻の事は諦めろ」


 珍しく隆さんはぶっきらぼうに断言していた。


「でも。あのまま放っておくには…」

「志乃。世の中にはどうしても分かり合えない人種がいるんだよ。今もまた世界大戦が起きるかもしれないが、戦争を起こしている悪魔崇拝者と私は理解できないね」

「戦争起こしている人は悪魔を拝んでいるの?」


 初耳である。まあ、イエス様を信じているようには見えないものだが。


「そうさ。戦争なんて所詮悪魔のお遊びだ。悪魔に操られている人間が引き起こしているんだよ。日本も戦争が始まると思うが、相手の国や国民を恨んでも解決する問題では無いね」


 隆さんの言っている事は難しいが、言いたい事は何となくわかった。


「でも、奥様だって被害者よ。旦那様が無くなって、どうしようも無いんだと思う」

「それはそうだけどな……」


 隆さんもだんだん私の言う事に意見が傾き始めているように見えた。


「だったら、明日またあの奥さんのところに行くか? そういえばハンスさんから、西洋のお茶を少し分けてもらったし、半ドンだしな」


 隆さんはそう言って、通勤用のカバンから西洋のお茶を取り出す。少し前の私が風邪をひいた時の飲ませてもらったものと同じもののようだ。


「まあ、わかったよ。また火因村に行こう」


 とうとう隆さんも折れてくれたようだ。


「本当にいいの?」

「このお茶も届けなければならないしな。それのいくら反対しても志乃は一人で行きそうだ」


 図星だった。


 一人で行っても良いかと考えているところだった。隆さんには全てお見通しのようで、ちょっと恥ずかしい。私の隆さんへの淡い気持ちはバレていなければ良いと思う。


「ただ、明日行ってあっちの態度が頑なだったら全て忘れる事」

「ええ。わかったわ」

「お、この事は素直に聞くんだな」

「そうね。2回も行ってあんな風に心を閉ざしていたら、そのままにしておいた方が良いのかもしれない」


 奥様や絵里麻の事はとっくに許している。和解もちゃんとしたいと思う。ただ、これ以上自分が出来る事も無いようにも感じていた。


「でも、ありがとう。こんな風に気にかけてくれるのは、隆さんだけだわ」


 本当に感謝の気持ちしかない。なぜこんなに良くしてくれるのか疑問に思うほどだが、ここは素直に感謝するべきだと思った。


「いや、別に当然の事をしたまでなんだがな」


 隆さんはちょっ恥ずかしそうに鼻の頭を擦っていた。その姿はいつもと違ってちょっと子供っぽくも見え、私はちょっと笑ってしまった。


「おぉ、志乃。何笑ってるんだ?」

「いいえ、何でもないのよ」


 二人の間の空気はとても軽やかで明るいものになり、二人して笑ってしまった。


「志乃、お前は笑った顔が可愛いな」

「え!?」


 珍しくそんな風に褒められて私の顔は真っ赤になってしまった。


「い、いや、ちょっとそう思っただけだよ」

「う、うん……」


 隆さんの褒め言葉のせいで、この空気が桜色に染まったように感じてしまう。


 今まで感じた事のない空気が生まれ、私はただ戸惑う事しかできなかった。


 そして翌日、土曜日。


 朝から強い雨が降っていた。洗濯ものも庭に干せず、仕方なく部屋干しする事にした。


 初美姉ちゃんが使っていた部屋で、この牧師館の中では一番日当たりは良い。


 それが終わると厠や廊下を掃除し、教会で配る週報やチラシを折りたたむ仕事もし、バタバタと忙しく動き回っているうちにあっという間にお昼になってしまった。


 昼ごはんは、朝の残りのおにぎりと漬け物で簡単にすませる。牧師さんは信徒さんの相談に乗っていて忙しく今日は昼ご飯が食べられないようだ。


 太郎くんは近所の友達の家でお昼をご馳走のなるそうでお昼に居なかった。


 簡単な昼ご飯を済ませると、茶の間の窓の外を見ると雨が上がっていた。


 晴れた空を見ていると、今日火因村の行く不安はすっきりと消えていくようだった。


 そのあと、大きめなカバンに果実や野菜を詰める。これは奥様の家に持って行くものだ。前回も食糧を持って行ったが、奥様に受け取り拒否された。それでも無理矢理庭に置いてきた。


 今日も受け取って貰える可能性が低いが、一応持って行く事にした。


 そうこうしているうちに隆さんも半ドンで帰って来て、一緒に火因村に向かった。

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