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再び火因村編-5

 ハンスさんは、絵里麻の部屋に診察にい行ってしまった。

 時々絵里麻の部屋から苦しそうな声が響く。


 私たちは、その隣の部屋でちゃぶ台を囲んでいた。この部屋は、もともとは女中部屋でわたが寝起きしていたところだ。


 この部屋で、奥様、私、隆さんがいる状況は、なんとも奇妙であった。


「これ、一応お茶ね」


 奥様はかなり不機嫌ではあったが、私たちにお茶を出す。それぐらいの余裕はあるらしい。


「何しにきたのよ。ザマーミロって言いいに来たわけ?」


 奥様は、顎をツンと上げる。やはり、今の姿を私に見られたくは無いのだろう。精一杯去勢を張っているようにも見え、私の胸はさらに痛くなる。


「違うんです」


 私は何とか声を出す。


 前まではこんな自己主張するような事は言えなかったが、隣の隆さんがいると思うと、出来ない事は無い。


 以前隆さんに注意された事を思い出しながら背筋を正し、ハキハキ話す事を心がける。


「私、今は教会でお世話になっているんです」

「それはさっきも聞いた。耶蘇教の教会でしょ。全くチャラチャラした……」


 奥様は私の言う事をいちいち否定するが、隆さんの方を少し見、挫けないようのが耐える。隆さんの表情がいつもと変わらず穏やかなので、心をかき乱されずに冷静の話す事が出来た。


「それで、聖書を勉強するうちに、私の方が奥様や絵里麻に悪い事をしていたかなってきづいたの。龍神の所に捨てるなら、もっと早くにそうしていてもよかったのに、奥様はそうなさらなかった。ごめんなさい。私は一方的に奥様達を感謝もせず、逆恨みしていました」


 何とか自分の言いたい事は言えた。奥様はかなり驚いたようで、目を見開いて私や隆さんを見ていた。


「ふん、そんなの偽善だ」


 奥様はそんな事を言うと予想していたが、案の定だった。


「何言っているんだよ。こんな娘が健気に謝っているんだぜ。素直に受けとれよ」


 隆さんはため息をつきながら口を挟むが、奥様は聞こえなかったように無視した。


「私だって人より教養があるもの。耶蘇教の事は知ってるわ。どうせ地獄に落ちたくないから『敵を愛する』なんていう偽善をやってるんでしょ。宗教なんてそんなもんよ。良い行いをすれば、天国に行けるっていうヤツね?」


 奥様は心が完全に捻くれているようだった。


「え? 私って隆さんから天国や地獄の事は教えてもらったっけ?」

「いや、そこはまだ志乃に教えてないぞ。死後の裁きや千年王国の事だろう。黄泉の解釈は難しいんだよな」

「ちょとあんた達何言ってるの?」

「志乃には、地獄の事なんてまだ教えてないぞ。本当に悪いと思って誤りにきたんだ」


 隆さんは、キツく睨んで言う。奥様は少し怯んだが、それでも言い返してきた。


「帰ってよ。そんな耶蘇教の偽善なんて聞きたくも受け取りたくも無いわ」


 奥様がそう叫んだと同時に、ハンスさんが診察を終え、こちらの部屋に入ってきた。


「絵里麻はどうだった?」


 私が一番に聞く。


「まあ、長い風邪を拗らせているんだな。薬を飲んで、栄養ある物食べてゆっくり寝ていれば、良くなる。あの様子だと西洋の疫病では無いね」


 ハンスさんの言葉に一同胸を撫で下ろすが、奥様は私を再び睨みつける。


「もう用はないでしょ。帰ってよ。医者も全員帰って!」


 奥様は、大きな声で叫び続け、結局私たちは追い出されてしまった。


「せっかく優しく接しているののに」


 ハンスさんは、そう言って肩をすくめた。奥様のあの様子に心底呆れてしまっている。


「もう、諦めろ。志乃。世の中には、心が石のようになっていて、分かり合えない人間はいるんだよ」


 隆さんはそう言って、名残惜しそうにしている私の肩をポンと軽く叩く。


「でも、この庭はちょっと汚すぎるわ。少しだけ掃除して帰ってもいい?」


 私の提案に否定するもには無く、隆さんとハンスさんで三人で庭の生ゴミや落書きが描かれた紙を掃除した。


 結局、奥様には自分の気持ちが伝わらなかったようだが、掃除して綺麗になった庭を見ていると、少しは私の気持ちも晴れた。


 ただ、奥様や絵里麻の事を心配に思う気持ちは変わらなかった。

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