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キリストの花嫁編-9

 初美姉ちゃんの結婚式が始まった。

 私は信徒さんのお下がりではあるが、結婚式に出席しても問題ない着物を貸してもらい、髪の毛もまとめ、なんとか外見も整えてられた。


 信徒席は、すでに今日の参列客で溢れていた。私はすみの方の席であるが、太郎くんと一緒に式が始まるのを待ち構えた。


 祭壇には花がいっぱい飾られ、少し天国みたいに見えて仕方ない。礼拝堂の大きな窓からは、秋の日差しが降り注いでいて、明るい空気に満ちている。


 まず、そんな明るい礼拝堂に新夫のハンスさんと牧師さんが入場してきた。


 花婿衣装を身のつけたハンスさんの横顔は、少し緊張しているようだが、表情はいつも以上に穏やかだった。


 ハンスさんは祭壇の前に立ち、牧師さんは祭壇の上がり、教卓に前にたつ。牧師さんが式辞をのべ、結婚式が始まった。


 初美姉ちゃんが隆さんと手を取り、ウェディング・アイルを一歩ずつゆっくりと歩く。


 隆さんは、いつもと違った燕尾服だったが、かなり緊張しているのか歩き方がちょっと着心地ない。いつもは厳しくい人だが、やっぱりこういう場所では緊張するのか、私はちょっとだけ笑ってしまう。


 初美姉ちゃんはベールで顔は見えない。ただ、ウエディング・アイルを歩く花嫁姿の初美姉ちゃんはいつもより一層綺麗に見えた。


 参列客も初美姉ちゃんに見惚れているが、祭壇の前にいるハンスさんが一番彼女を見ていたと思う。


 初美姉ちゃんと隆さんが祭壇の前まで歩き終えると、次はハンスさんが初美姉ちゃんの手を取り、祭壇の前に進み出る。


 隆さんはちょっと小走りに参列者席に帰ってきた。私の目の前の席に座り、おでこの汗をハンカチーフで拭っていた。よっぽど緊張したらしい。


 次は讃美歌をみんなで歌った。


「来てください〜♪」


 私もついつい大きな声で歌ってしまう。この結婚式に合う讃美歌に感じた。隆さんは歌いながら感極まって目に涙を浮かべていた。私や太郎くんもちょっと泣きそうだ。


 一人の男と一人の女が一緒になる事は、神様の祝福なのだろう。参列客側も喜びや幸福といった感情しか感じていない。


 讃美歌が終わると、牧師さんが聖書を引用して創世記2章の18節から24節までを引用して朗読していた。


 以前初美姉ちゃんも語っていたアダムとエバの夫婦の最初の場面だ。


 神様はまずアダムを創ったが「人は一人でいるのは良くない」と、アダムの肋骨からエバを創られ、二人は夫婦になる。


 初美姉ちゃんが言った通りだ。結婚という形は神様がお創りになったものだ。そんな事がしみじみと伝わってくる。結婚式も神様の為に行うものなのかもしれないと思う。


 聖書朗読が終わると、牧師さんが式辞を述べ、誓約に進む。


 初美姉ちゃんとハンスさんは、祭壇を登り、牧師さんの前に立つ。


 病める時も、健やかなる時も、

 富める時も、貧しき時も、

 お互いを愛し、敬い、

 慈しむ事を誓いますか?


 これは神様への誓いだ。人間同士の約束ではない。


 明るい礼拝堂は、誓約の場になると厳かな雰囲気に変わった。まるで、天から神様の見られているような錯覚に落ちいるぐらいだった。


「誓います」

「誓います」


 初美姉ちゃんも、ハンスさんもそう宣言する。


 なぜか私は少し恥ずかしい気分にもなる。龍神との結婚を思い出す。あの結婚は、決してこんな風に誓えるものではなく恥ずかしい。


 私はやっぱり愛される事ばかり考えていたと思う。龍神が病気になったり、貧しくなったら、私はきっと情などは持てなかっただろう。私が老いて病気になり、貧しくなった時も彼は私を見捨てる事はありありと想像がつく。


 恥ずかしさを感じると同時に初美姉ちゃんやハンスさんの誓いに憧れや理想も感じる。


 いつか初美姉ちゃんが言っていた。女は男性の心を守る為に創られた事。そう思うと、愛される事ばかり求める事も罪だと思えてならない。


 こうして式は順調に進み二人は指輪を交換し、初美姉ちゃんはベールをとられ、ハンスさんと口付けを交わす。


 太郎丸くんも私も顔が真っ赤になってしまったが、美しい光景で隆さんは再び涙ぐんでいた。


 最後に牧師さんが祈祷の言葉をのべ、二人は聖書の上で手を合わせていた。


 耶蘇教の結婚式は初めて出たが、全てが神様を中心にした儀式だと思えてならない。


 こんな風に神様から祝福された結婚をしたいと思ってしまった。


 自分が結婚出来るかはわからない。生きているだけでも十分幸せな立場だ。それでも願わずにはいられなかった。


「良い式だったな」


 隆さんは涙声になりながら呟く。


 こんな願望は夢というより妄想に近いものかも知れないが結婚式の時、自分の隣りにいる男性が隆さんだったら良いなと思った。


 もし、神様が私の「アダム」として隆さんを選んでくれるなら…。そんな夢のような事を考えてしまった。

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