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キリストの花嫁編-3

 久々に見る龍神は、相変わらず美しかった。


「僕は、みんなを呼んでくる!」


 太郎くんは走ってみんなを呼びに行ってしまったが、私は腰が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。


「志乃」


 甘く優しい声で呼ぶが、全身に恐怖が駆け巡る。


「どうした? 志乃。そんな顔をして」

「か、帰って!」


 私は大きな声で叫んだ。これだけは言わなければならないと思った。


「おぉ、志乃。どうしたんだい。いつもはそんなハキハキしていなかったじゃないか? ここ連中に悪い影響を受けたのか?」


 龍神は何がおかしいのか、この牧師館の家を見てニヤニヤと笑っていた。


「ここでは注意されて、叱られて辛かろう。帰ろう、志乃。帰ったら、たくさん甘やかしてあげるよ。美味しい食べ物も、綺麗な着物もみんな志乃にあげる。悪い子でもいいんだよ。俺はありのままの志乃が好きさ」


 誘惑されているのかも知れないと思った。思わず心が揺れる。確かにあの屋敷での生活は、甘やかされて楽だった。でも、それで良かったのだろうか。私の頭の冷静な部分が、必死に否定していた。私は龍神を睨みつけながら、どうにか正気を保った。


 龍神に触られた時のような思考が消えていく感覚もしたが、ギリギリのところで踏ん張っている状態だった。それに龍神はよく「ありのままで良い」と言っていたが、生まれつき罪で汚れている人間がありのままで良いわけが無い。


「それに、俺と君はまだ婚姻中なんだよ」

「え?」

「霊的な夫は、俺だ。妻の志乃の持っている健康も幸福も全部俺のものだよ!」


 龍神は、叫ぶように言っていたが、突然苦しそうにし始めた。


 気づくとそばに太郎くんが戻ってきて、初美姉ちゃんも牧師さんもいた。隆さんもいて、みんなでて手を組んで祈っていた。


 声には出さなかったが、祈っている彼らはまるで何かに守られているようにも見え、私は声も出ない。


 なぜか龍神もうめき声をあげ、綺麗な銀色の髪の毛をかきむしっている。相当イライラとしている事が伝わってくる。


「おぉ、お前ら、クリスチャンかよ……」


 信じられない事に、龍神はこれ以上近付いてこなかった。私も何かに守られているような感覚を覚え、見よう見真似で祈った。


 すると、不思議な事に目の前にいる龍神が綺麗に消えてしまった。同時に変な風の音も、光のようなものも消えてしまった。


「な、何が起こったの?」


 信じられないが、龍神はいなくなり、いつもと変わりが無い夕暮れの庭が広がっているだけだった。


「いなくなったか?」


 隆さんが辺りを見回す。


「私も悪霊とか見えないのよね。本当にいなくなった?」

「私も見えないんですよ」


 驚いた事に隆さん、牧師さん、初美姉ちゃんは龍神の姿は見えないようである。


「僕は見えたよ。でも今は消えてしまったみたいだ」


 太郎くんがそう言い、一同は安堵に包まれる。


「どういう事? もしかして龍神というのは悪霊というもので、実態はないの…?」


 やっぱり自分が見た龍神は夢や幻の類いで、まやかされて居たようだった。少し衝撃的な事実ではあったが、なぜか納得してしまう。


「悪霊は、クリスチャンの祈っている所にははいって来れませんからね。あれも悪霊でしょう」


 牧師さんがそう結論づけ、私も頷くしかない。風邪で頭に中はふらふらとするが、思考はまともに動いていた。


「神様が守ってくれたのね。大丈夫よ、志乃」


 初美姉ちゃんは、自分の事のように喜び、私に抱きつく。その言葉に私も泣きたくなって来るような、温かい気持ちが胸に宿る。


「もう来ないと思う?」


 恐る恐る訪ねてみた。他の皆んなは頷いていたが、隆さんは少し渋い顔をしていた。

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