キリストの花嫁編-2
目覚めるともう夕方のようだった。相変わらず身体はだるかったが、薬のおかげか眠ったおかげで身体の熱は少し引いているようだった。
「志乃姉ちゃん、大丈夫?」
太郎くんが、お水を持ってやってきてくれた。
「ちょっと良くなった気がする。ありがとう、太郎くん」
風邪がうつるかもしれない不安はあったが、太郎くんは気にせず私の枕元にしゃがむ。
「僕は風邪ひかないよ」
「本当?」
「うん! 神様が守ってくれるから、僕は強いんだ」
神様について語る太郎くんは、目がキラキラと輝き、子供なのに少し頼もしかった。
私は上半身だけ身体を起こして、太郎くんが持ってきてくれた水を飲む。少し冷たい水で、身体全体が生き返るようだった。
「あれ? 何か音しない?」
障子の外というか、縁側の方から変な音がした。
「まあ、風が強いのかもね」
「そうね。たぶん、風の音ね」
「志乃姉ちゃんは本当に風邪は大丈夫?」
「ええ。このお水の陰で少しよくなったわ。ありがとうね」
「へへ。隆兄ちゃんも後で西洋のよく効くお茶持ってきてくれるってよ」
「お茶?」
「うん。かもみーるとか言うの。ハンスさんから分けて貰ったって。隆兄ちゃん、ちょっと落ち込んでいたよ」
「え? なんで?」
そんな事を聞いてしまうと心配になる。
「志乃姉ちゃんに厳しく言い過ぎたかもってさ」
「そんな」
別に気にしていないし、むしろ注意された方がありがたい事だと気づいていた。隆さんに会ったらこっちこそ気にしていない事を伝えなければ。
龍神のところでは何も言われなかったが、やっぱり箸の持ち方や所作はきちんとしていた方が良いだろう。恥をかくのは自分だ。隆さんがわざわざ悪役をかって出てくれて注意してくれたのだ。それに今の体調不良と隆さんの行為も関係無いと思う。
「あれ? また変な音が大きくなってない?」
隆くんはあたりをキョロキョロと見回す。私も耳を澄ましてみたが、確かに風の音というか地鳴りのような音が聞こえてくる。
「外かしら?」
「待って、僕が先に見てみるよ」
立ちあがろうとした私を制して、先に太郎くんが障子を開ける。夕方であるのに、強い光が部屋に満ちる。
「ぎゃ!」
太郎くんの叫び声がして、私は思わず縁側に向かう。
「りゅ、龍神だ!」
太郎くんの叫び声は嘘だと思った。ここにあの男がいるはずはない。
しかし、顔を上げると龍神が庭に立っていた。いつもの着流姿であるが、綺麗な銀色の髪を靡かせていた。
「よお、志乃。迎に来たぜ」
絵のように美しい笑顔を見せていた




