表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/58

龍神の正体編-3

 夜になった。


 といっても外の様子はわからないので、時計を見て夜だと判断した。


 あれから、私は広い屋敷を彷徨いながらもようやく自分の部屋の戻った。


 椿さんが心配して様子を見に来た。


「奥様、どうしたんですか?」


 いつものように巫女姿で、優しそうな笑顔を浮かべていたが、あの時の光景がありありと記憶に蘇り、思わず身構えてしまう。


「あの、ちょっと気分が悪いの」

「あらあら、それは困りましたねぇ」


 椿さんは呑気にそう言い、布団をひいてくれる。寝巻きに着替え、布団に横になったが、やっぱり椿さんの笑顔を見ているだけで怖く、気づくと震えてしまう。


「あら、風邪? それは困りましたね。卵酒でも持って来させましょう。そうだ、龍神様もお呼びしますわ」


 何やら誤解をした椿さんは、バタバタと部屋から出て行ってしまった。


 しばらくすると龍神様が卵酒を持ってやってきた。


「龍神様、お仕事は?」

「いや、志乃の方が大事だ。これを食べよう」


 私は起き上がると、龍神様もそばに座った。そして、さするようの背を撫でてくれる。優しい手つきにまた思考がおかしくなりそうになるが、私はかろうじて冷静さを保つ。


「あの、大丈夫ですから。触らないで下さい」


 少し言葉はきついかの知れないと思ったが、思いきって言ってみた。想像以上に龍神様は傷ついたような表情を見せたが、舞台の上での行為のように見えた。嘘くさいというか、演技がかっているというか。


「そんな事を言うなよ」


 しかし、龍神様は私の言葉を無視して、髪の毛を撫でる。


「人を食べているの?」


 単刀直入に聞く。龍神様は答えず、代わりネットリとした笑顔を向けてくる。


「志乃、お前は考えすぎだ」


 そしてまた、口付けをしてきた。乾いて冷たい唇であったが、執拗に触られ、再び思考が抜け落ちそうになる。


 本当に龍神様は悪魔?


 されるがままになりながらも、どうにか思考する。


「や、やめて」


 私は少しぼやけた頭でありながらも、どうにか拒絶の言葉を言える事が出来た。


「ああ、そうか。わかったよ」


 意外な事に龍神様はあっけなく頷き、去っていく。まだ暖かい卵酒だけが残される。


 一人残された私はますますわからなくなる。


 龍神様を信頼して良いのか?全くわからない。椿さんは悪魔である可能性が高いが、龍神様は?


 一応、私の目の前では優しく接してくれている。しかし、あの紙や椿さんの事を思うと、やっぱり何か隠している事は否定できない。


 自分の気持ちもわからない。


 龍神様に心を開いているのか、ただ単に雛鳥が親に懐くような刷り込みなのかもわからない。


 確かに結婚しているという状態になったわけだが、誰に対しても宣言したわけでもない。死んだ母は、結婚式は神様に誓うことで、着飾る事では無いと言っていた。確かにこの結婚は神様の前で正しいものなのかわからない。夫婦の真似事の様な事はしていたが、これは本当の結婚と言えるのだろうか。それに本当に神様がいるかはわからないが。


 龍神様は神様なのだろうか?


 その事もわからない。


 やっぱり本人の直接聞くしか無いようだ。私は、寝巻きの帯や襟を整えると、再び龍神様の部屋を探し始めた。


 広い屋敷の中で迷いそうにはなるが、昼間に一度出歩いたので、少しは慣れてきた。


 薄暗い廊下を進み、何か物音が聞こえる部屋を見つけた。


 また、椿さんは変な事をしているのだろうか。その事を思うと、怖くてたまらないが、音のする部屋の襖を開ける。


 そこには、人の肉を貪っている龍神様がいた。


「志乃」


 その声は、あの優しい旦那さまのものではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ