龍神の正体編-2
私は半開きになった襖から、そっと椿さんの姿を見る。彼女は犬の様なものを夢中で貪り、私の姿には気づいていなかった。
いつもの椿さんの姿ではない。
なぜか裸だが、奇妙な身体だった。上半身は女の胸の様なものがついていたが、下半身は男だった。あまりにも奇妙な体つきに、男の下半身を見ても恐怖心の方が優ってしまう。
それに食べているものも、本当に犬?
犬の割には、毛がないというか肌色が見えて、私の全身に鳥肌が出来る。犬ではなく、人間?
しかも、大人ではなく子供の様だった。
椿さんは、口の周りを血だらけにして貪っている。その表情だけ見れば、ご馳走を味わっている幸せそうだったが、私が知っている椿さんの姿はどこにもない。
もしかして悪魔?
椿さんは自分の事を妖ものと言っていたが、悪魔だと思うと納得出来る。悪魔についてはよく知らない。死んだ父が西洋の鬼の様なものと言っていた事は覚えているが、なぜか悪魔だと確信していた。
そんな事を考えていると物音をたてしまった。椿さんがこちらに視線を向け、私がいる事がバレそうになる。
「誰だ?」
その声もいつもの椿さんの声と違って、低い男のもので、私は一目散に逃げた。
走った。とにかく走り、とある部屋に逃げこんだ。この屋敷に来てから身体が鈍っているとはいえ、女中の仕事は体力勝負だったらので、意外と身体が動いて逃げられた。
逃げ込んだ部屋はどうやら書斎らしかった。書物がいっぱいある。
背表紙を見ていると日本語ではないようで、英語の本と思われるものばかりだった。父は翻訳家だったので、家にも似たような本があり、思わず懐かしくなり一冊引き抜いてみる。パラパラめくって見てみるが、何を書いているのかさっぱりわからない。
当初の予定通り、ミッションスクールに通っていたらこの書物の意味もわかったのだろうか。しかし、そんな事はいくら考えても仕方ない。
今は、椿さんの事だ。一体どうして、あんな事をしていたのだろうか。
広い書斎をぐるりとみると、小さな扉があった。西洋風の扉で思わず好奇心はそそられる。今はそれどころでは無いのに、扉を開けて見た。
中は同じく西洋風の小さな部屋があった。奥様のお屋敷と同じように赤いカーペットが置かれ、西洋風の室内はきも置いてある。
机と椅子も置いてあります、私は思わず悲鳴なような変な声が出てしまう。
机の上には、開いた状態でナイフでざっくりと刺されている書物があった。分厚い書物だ。
おそるおそる表紙を見ると、「聖書」とある。かろうじて漢字は読めるが、ずっと学校に行っていなかったので、読み方は「せいしょ」であっているかは自信がないが。
見た事もない辞のようの分厚い書物だ。ナイフが刺さっているので、よく読めないが、刺さっているページをみると「悪魔」という単語も読めた。
やっぱりこれは、龍神様と何か関係ある?椿さんも龍神様も悪魔?
私は気づくと机の引き出しの中を漁っていた。ここに何か手がかりがあるかも知れない。
一番大きな引き出しの中に紙が一枚落ちているのがあった。おそるおそるその紙を読むと、私の身体は凍りついてしまった。
生贄番号51 佐竹志乃
・火因村の娘。
・見目は良い方なので、性的に堕落させ殺す予定。
・手下の自殺の霊を送り込んで殺す。
・龍神に夫として心を開いた瞬間に本当のことを言い、絶望を与える。
・性的堕落をさせたまま、地獄に堕とす。
「な、何これ……」
ところどころ漢字が読めず意味がわからない部分も多いが、明らかに自分の事を書いた紙だ。
おそらく事務的に書かれたものである事もわかる。生贄番号ってどういう事?
やっぱり龍神様は私を殺すつもりだ。この時、ようやく私の思考が元に戻っていくのを感じていた。




