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七話 ニートは再就職目指す

 昨日の日菜乃からのキスを忘れられず、ほとんど寝ないで朝を迎えてしまった。まだ微かに唇が触れた感触が残っている。俺は女子高生のファーストキスを奪ってしまった、そして俺のファーストキスも同時に奪われてしまった。

 複雑な感情が入り混じり胸の中がもやもやしていた。


――――もう九時前か……。


 日菜乃は今は学校だろうか。日菜乃も同様にもやもやしているのだろうかと心配になった。あいつの事だ、嬉しがっているに決まっている。

 それよりも最も心配なのはあいつが一人でいないかどうか、それだけだ。


 だが、いくら心配したところで俺が学校に行って直接確認することは出来ない。日菜乃のことで悩んでいても先に進まないため俺は今自分が一体何をすべきなのかを考えた。とりあえず職を探すことだ。それを始めないことには何も始まらない。


 俺はまず、ニートである自分の事を改めて知り認識することから始めた。

 パソコンを開きニートに関する記事をいくつか探した。


『「ニート」とは十六歳から十九歳までの若者のうち、学生でもなく、働いておらず、仕事に就くための職業訓練も受けていない、つまり仕事をする意思のない人のことを表す』


――――ん?あれ?これだと俺ってニートじゃないんじゃ……?


 調べていたこの記事にそう書いてあった。だがその下にはこう書いてあった。


『厚生労働省によると、日本でのニートの年齢幅は十五歳から三十四歳までと記している』


――――ですよね……。

 

 俺は思わず苦笑いしてしまった。そして俺はある記事に再び目が止まった。


『二十歳から二十四歳の総人口が約六百三十七万人、その中でニートの人口は十八万人、割合で表すと約三・五%である。また各年齢ごとの人口も約三~四%である』


 この割合だけ見てもはっきりと分からなかっため俺はもっと詳しく調べることにした。そして俺は世界のニート率という記事を見つけた。


『日本のニート率は十・一%で、約十人に一人がニートである』


 これだけ見ると多い気もするがほかの国はもっと凄かった。もっとも多い一位のトルコや二位のイタリアは三人に一人はニートでとても高い割合だった。ちなみに日本は調査に参加した三十五ヶ国中二十七位と何ともいえない順位だった。


 今回調べてみて自分が今どんな状況に置かれているのか認識することができて良かった。まあ自分がニートであることを認めざるを得ないことばかり書いてあったので精神的ダメージは大きかったのは内緒にしておこう……。


 これ以上、自分の傷口をえぐってもしょうがないので俺は何の職に就く考え始めた。普通のサラリーマンか、工場での製造作業か、再び前と同じ建設業にするか、俺は悩んだ。出来れば人との付き合いが多い仕事は避けたい。

 一人で静かに仕事がしたいのが本音だ。 


 ネットで調べると自宅で一人で出来る仕事も多い。だが基本がデスクワーク。俺は机に座っているのが嫌いな人間なのだ。

 一人で出来るのは良いがとても長続きするとは思えなかった。


 そうなるとやはり体を動かす仕事になってしまう。潔く建設業に付ければ良いのだがそうもいかない。同僚を殴った事件、これだけは忘れる事が出来ない。


 また同じようなことする人がいて同じく殴ってしまうのではないかと考えると、建設業だけじゃなくどこの会社にも勤めることが出来ない気がして不安になってしまった。


 同じことを繰り返したくない、ただそれだけのに。

 中々前に踏み出せないでいた。


「日菜乃、俺はどうすればいいんだよ……」


「ん~?え~?悠くんどうしたの?」


「いや、なんの仕事に就くか考えてたって……え!?日菜乃!?」


「いえーい!日菜乃だよー!学校終わったから来たよん♡」


「お前、インターホン押した?」


「押してないよ?彼女だから別にいいかなーって、鍵開いてたし」


「頼むから押してくれ、俺マジで心臓止まるかと思ったぞ……」


「めんごめんご♡」


 相変わらずの天然さと馬鹿高いテンションの日菜乃のおかげで俺は少し安心し、気持ちが楽になったのであった。

 でもせめてインターホンは押してね、ビックリするから。


        *


 「それで悠くんは何に悩んでたの?」


「いや、そろそろ仕事見つけないとまずいなと思って色々調べてたんだけどさ。いざ働くことを考えると前みたいなトラブルが起きないか怖くて不安でしょうがないんだ……」


「そっか、悠くん働く気にはなったんだね。でも前みたいに暴力を振るわないか心配なのね」


「ああ、絶対に起こらないとも限らないし、だからと言って家でデスクワークも嫌だし。俺机に向かってるの苦手なんだよ」


「でも悠くん、私その『絶対』に怯えていたら何も出来ないと思う。確かにそう思っちゃうのはしょうがないよ、私が悠くんの立場でもそう思う。それでも起こるかどうか分からないことを考えてもダメだよ。マイナスなことを考えちゃダメ、プラスの事を考えて生きいこうよ。私みたいにね」


 日菜乃の言ったことは俺の悩みを綺麗に切り裂いた。自信を持てない俺の背中を日菜乃はいつもの元気で精一杯の力で後押ししてくれる。


「……ああ、そうだな。少し気持ちが変わったよ。ありがとな、日菜乃」


「お礼なんていいの、私の役目は悠くんの人生革命のサポートのため。そしてここにいるのは悠くんの彼女だから。これだけで今は十分幸せだよ」


 日菜乃は本当に嬉しいことを言ってくれる。

 もっと早く日菜乃に出会いたかったなとつくづく思う。


「それでね、私思うんだけど前の会社に再就職するのはどうかな?」


「え゛っ……?」


 俺は日菜乃の言葉に戸惑い思わずダミ声で返してしまった。


「だって前に会社働いていた会社なら働きやすいんじゃない?知ってる人もいるし。ほら!前言ってた兄弟子さんもまだいるかもしれないじゃん?あと働くなら前と同じ仕事の方が働き始めるには少し気分的には楽だと思うんだけど」


 確かに日菜乃の言うことには一理ある。前と同じ仕事なら一からまた始める必要もないし、道具も前の物がそのまま残っているから楽でいい。だが問題なのは同じ職場で働けるかどうかである。


「前あんなことをした俺をもう一度働かせてくれると思うか……?」


「だ・か・ら!さっきも言ったじゃん!まだ何してもないのにそんな気持ちでどうするの!いつ会社にダメですなんて聞いたの!?どうなの!悠くん!」


 日菜乃がもの凄い圧で俺に投げかけてきた。あまりに顔近すぎるため、俺はこの前のキスを思い出し少し顔を赤らめてしまった。


「い、いや、まだ聞いてないけど」


「でしょ!じゃあ今すぐ働いていいか聞きに行ってきて!」


「……い、今から?明日でも良くない?」


「ここまで話が進んだんだもん、すぐ行ってきた方が悠くんも明日までもやもやしてるよりは気持ち的には楽だと思うんだけどな~?」


「……で、でも」


「悠くん!いつやるの!」


「……今でしょ!」


 某予備校のCMのやり取りをまさかこのタイミングでやることになるとは。

 俺はこの流れのまま、すぐに着替え家を出た。


「悠くん、頑張ってね~♡」


 玄関のドアを閉じる瞬間、日菜乃の言葉が俺をさらに後押ししてくれた。

 さて会社は俺のことは改めて雇ってくれるのだろうか。

 大きな不安と微かな期待を胸に俺は会社へと向かった。



第七話、読んで下さりありがとうございます。

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