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十九話 GW⑤ 二泊三日の旅行(広島編)

※この回では原爆ドームを訪れる描写があります。私自身も訪れた経験があり、後世に伝え続けなければいけないことであると考えたうえで今回触れさせて頂きました。これは日本人としての責務だと思います。そこまで深くは書いていませんが、それを踏まえた上で読んで頂ければ幸いでございます。


 GW五日目。

 遂にここから日菜乃には内緒の二泊三日の旅行の始まりだ。

 ……すぐにばらしちゃうけどね。


「ねぇ、悠くん。これからこの荷物持ってどこに行くの?」


 午前六時半の東京駅。

 少し大きめのショルダーバックを肩にかけた日菜乃が鋭い視線を送ってきた。


「……そろそろ頃合いか。えー、今日から二泊三日の旅行に行きまーす」


「旅行⁉だからこの荷物⁉」


「うん」


「なんで言ってくれなかったの!」


「だって言っちゃったらサプライズにならないじゃん」


「さぷらいず……?」


 日菜乃はぽかーんとした表情で首を傾げた。


「そう、これは俺からの日菜乃への日頃の感謝を込めたプレゼント。温泉入ったり、美味しい物食べて毎日の疲れを癒して欲しいなと思ってさ」


「それは嬉しいけど……私そこまで感謝されるようなことしてないよ?」


 日菜乃は嬉しそうな反面、どこか謙遜していた。


「人の命救ったやつが何言ってんだ。それに毎日の弁当、晩御飯の準備に掃除、洗濯。全部やってくれて本当に助かってるんだぞ?自分のしてることにもっと自信持てよ?」


「そっか。ちゃんと悠くんのサポートになってるんだね。それなら良かった」


「当たり前だろ」


「それで話を戻すけど、今日はどこに行くの?」


「広島だ。あ!話してたらもうこんな時間じゃん!急いで新幹線乗るぞ!」


「え、あ、うん!」


 俺達は急いで改札を抜け、新幹線のホームに向かった。


        *


 なんとかギリギリで間に合った俺達は息を切らしながら席に座った。

 東京駅を出発し、ここから東海道新幹線で約四時間で広島に到着する。


 なんだか中学の頃の修学旅行を思い出す。

 あの時の隣の座席は颯太だったっけな。

 俺は寝たかったのに、あいつがひたすら話しかけてきたのが懐かしい。


 今回は隣が日菜乃だ。その日菜乃は弁当をばくばくと勢いよく食べていた。

 カツサンドに牛タン弁当、その他にもテーブルには沢山の弁当が置かれていた。


「おまえ、朝からよくそんなに食えるな……」


「あひゃはいひはんひゃへなひゃはへなんへふぉ?(朝は一番食べなきゃダメなんだよ?)」


「だからって食べ過ぎだ。あとちゃんと食べ終わってから喋れ」


「ひょうはいふぇふ!(りょうかいです!)」


 ……何も分かってない。まあ、こいつのこういうところが可愛いんだけどな。


「広島に着く前に、何も食べれない状態になんて絶対なるなよ」

 

 そう言い残して俺は眠りに着くのであった。


        *


 午前十一時前、俺達は無事に広島に着いた。

 時間的にも昼ご飯を食べるにもまだ早いので駅前の近くにあったレンタカー屋で車を借りて広島市内を回ることにした。


「悠くん、最初はどこ行くの?」


「ひとまず、原爆ドームかな」


「あの戦争の時に残った建物?」


「そうだ」


 日本人として生きている以上、ここは死ぬ前に一度は訪れていたほうが良い場所だろう。

 俺は中学の時に訪れているが、生で見るのと教科書で見るのとでは全く違う。

 生で見た方がやはり核の凄惨さを身をもって知ることが出来る。

 日菜乃にもそれを知っておいて欲しかった。


 近くの駐車場に車を止め、俺達は歩いて原爆ドームまで向かった。


「これが原爆ドームだ」


「……ここだけ……時間が止まってる感じがする」


 日菜乃がぽつりと呟いた。


「そうだな。昭和二十年八月六日に広島に原爆が落とされてこの建物だけが残った。そして何回もの保存工事を経て今もこうして形を残して、核の撤廃と平和の大切さを世界に訴えかけているんだ」


 俺と日菜乃は訪れる前に購入していた花をお供えし、お祈りして原爆ドームを後にした。


        *


 俺達は昼ご飯を食べるために一旦、駅前まで戻ってきた。


「さて、日菜乃。広島の食べ物といえば?」


「お好み焼き!」


「そうだ!俺達はこれから『ひろしまお好み物語駅前ひろば』に行くぞ!」


「なにそれ?」


「簡単に言えば、お好み焼き屋が集まった施設だ。色んなお好み焼きが食べれるぞ」


「ほんとに!じゃあ早く行こ!私もうお腹ペコペコだよ~」


 朝あんだけ食って、もう腹減ったのか。

 こいつがお好み焼きをどのくらい食べるのか見物だ。


 まず一店舗目に入った。オーダーは全て日菜乃に任せることにした。


「この肉玉そばライスと肉玉そば山芋トッピングに肉玉そば目玉トッピングをそれぞれ二つずつ下さい!」


 ほら出た、鬼注文。


「これは私の分だけど、悠くんはどれ食べる?」


 俺の分無しでその量かよ。


「……俺はとりあえず肉玉そばライスだけでいいよ」


 俺達の目の前の鉄板に大量のお好み焼きが並んだ。


「「いただきます」」


 俺達は熱々のお好み焼きを口の中に法張り、「ハフハフ!」と空気を取り込みながら熱さを冷ますようにして食べ始めていった。


 ……美味い。普通のお好み焼きにカリッと焼いた麺、そしてその下に入ったご飯が絶妙にマッチしてボリュームも満点で最高だ。これを食べたら普通のお好み焼きでは満足出来なくなる。


 そんな味の感想を述べている俺の横で、日菜乃はひたすらお好み焼きを口に運んでいた。相変わらずのスピードで十分も掛からないで四枚を食べてしまった。


「日菜乃?美味しいか?」


「うん!めっちゃ美味しい!特にこの山芋!ふわふわの触感が最高!」


 日菜乃のペースは落ちることなく一店舗目は終了した。


 二店舗目、三店舗目でも日菜乃のペースは落ちることは無かった。

 むしろペースが上がってきたようにも見えた。


 二店舗目では海鮮スペシャルと焦がしチーズスペシャルともち・チーズ・明太子が入った女子焼きを注文した。海鮮は生イカ・生エビ・ホタテ・イカ天・ネギが入っていてかなりのボリュームだったがあっさりと食べってしまった。


「この女子焼き最高!もちとチーズと明太子なんて神の組み合わせだよぉぉぉぉぉ!」


「はは、そうか。良かったな」


 ……俺はもはや笑うしかなかった。


 三店舗目はオムレツ風のお好み焼きとイカ、エビの入った海鮮系にたっぷりの九条ネギと目玉焼きを乗せたお好み焼きを注文した。


「んん~、このオムレツ凄くふわふわで美味しい!」


「ああ、そうか」


 ……なんだか俺の語彙力が低下し始めた気がするが、気のせいか。


「このオムレツもう一枚下さい!」


 日菜乃の食欲は止まることは無かったが、


「そろそろお好み焼きはいいかな~、飽きちゃった」


 そう言い放ち日菜乃はお好み焼きを食べるのを止めた。

 ちゃんとは数えていなかったが一人で十五枚は食べただろうか。

 ここまで食べる女子に俺は未だかつて出会った事が無い。


「ねぇ!悠くん!私甘い物食べたくなってきちゃった!」


「分かった、おすすめのとこあるから車乗れ」


「はーい!」


 この食欲モンスターの底が知れない恐怖は今に始まった事ではないが、この旅行で更に思い知らされるのではないかと考えると身体の震えと財布の心配が止まらなかった。



第十九話、読んで下さりありがとうございます。

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