998.現実世界では
「やっと終わったー! 早く帰らないと!」
この時のために、少しずつ前倒しで進めていた仕事。
「お先に失礼致します」
「あ、桜野さんお疲れー」
今日の分も高速で終え、家へと駆ける20代の女性。
たどり着いた駅構内に付けられた、大きな垂れ幕型の広告には、『星屑』の文字が見える。
『世界を賭けた決戦に、突入せよ!』
『見逃すな、その戦いを!』
『――――その時あなたは、終末を目撃する』
そして並んだ広告ディスプレイには、『このタイミング』を待っていたかのように、連続して映されるCM映像。
居並ぶ世界維持機構の、威圧感。
不敵な黒仮面たちが、結晶を輝かせながら悠然と歩く姿。
空や海の遺跡とゼティアの門、その守護者たち。
そして、圧倒的な動きで大物と戦うメイたちの姿へと続く。
「すごーい……」
母親に連れられた子供が、その凄まじいアクションと派手な攻撃に、思わず足を止めて見入る。
飛び乗った電車から見える、大型ビジョン。
巨大な鳥類の特攻を盾で受けるまもりと、反撃の魔法を放つレン。
角を持つ白クジラの攻撃をかわすツバメと、跳躍からの剣撃を叩き込むメイの映像へと続く。
「ああもうっ。早く早くーっ」
映像を見れば見るほど、焦りが募る。
社内には、『明らかにこのクエストに参加するために』早退している社員がいた。
「ほら、早く早く!」
「急がねえと、遅れちまうぞっ!」
そして目の前を駆けて行く制服姿の女子二人組は、遅れる小柄な少女に「急げ急げ」と声をかけている。
「考えることは、皆同じねぇ」
走り出す電車の中でSNSを確認し、パーティメンバーの動向を探る。
そしてそのまま、現状を配信しているプレイヤーをチェック。
現地に行けない人たちで、視聴者数はとんでもないことになっているようだ。
「完全にお祭り状態だ」
乗り換えは走って、一本早い電車に飛び乗ることに成功。
歓喜しながら、残り数駅の時間を待つ。
すると忍者のような人込み回避で、隣の車両に飛び乗ってきた大学生。
そのカバンには、デフォルメしたメイのキャラクターマスコットが揺れている。
「はやくはやくーっ。あと一駅……あと一駅だから……っ」
この祭りに乗り遅れてしまっている状況に、ついつい足がパタパタし始める。
ドアが開いたら一気に改札まで、そのまま全速力で帰宅して『星屑』へ突入だ。
イメージを固めて、深呼吸。
「この大舞台で、メイちゃんたちとまた一緒に戦えるかもしれない……! 皆にはルートの確保をお願いしてるけど……一秒でも早く王都に向かいたい……っ」
そして、気合を入れ直したところで――。
『――――特急の通過待ちをいたします』
「なんでいつも急いでる時に限って、通過待ちするのよー……っ!」
桜野詩織ことシオールは、最悪のアナウンスに「ばかばかっ」とペシペシ窓を叩く。
そして綺麗なお姉さんの可愛い怒りは、付近の乗客たちを和ませるのだった。
「ほらほら、早くーっ」
「ほんっとうに、遅えよなぁ」
「お前たちが早すぎるだけだ……」
一方、先ほどの幹線駅で桜野詩織がすれ違った二人の高校生女子たちは、ため息を一つ。
「ったく、このタイミングで補習を喰らうなんてよー」
「だから普段から勉強はしておいた方がいいよって、言ったのに……」
「はあはあ……」
「同級生たちも結構、早々に帰ってたよな」
「この盛り上がりようだからね。本当にメイちゃんたちが頭角を現してからの『星屑』は人気もうなぎ上りだし。この展開は外せないよ」
そう言って、こちらも実況板を確認する。
とんでもない勢いで流れていくログ。
入り乱れる情報に目を向ける。
世界を賭けた戦いは、どうやら後半戦に入っていきそうだ。
「でもまあ、遅れて登場するくらいがちょうどいいんじゃないかな」
「二人が一緒に戦うところは、盛り上がりそうだよな」
「そうだねぇ」
「ぜーはーぜーはー」
「異世界の魔物より先に、ただの階段で死に戻りそうだな。まさかこれが、あの神槍のグラムの真の姿とは……」
「う、うるさいっ!」
一人だけ登山を終えたばかりかのような息切れをする少女に、苦笑いの二人。
それはもちろん、ローランと金糸雀の二人だ。
「それじゃまたあとで。世界を賭けた戦い、楽しみだね!」
「おう! 地下から上がってくるみたいだし、そこで合流を狙おうぜ! モタモタしてると置いてくぞ」
「わ、わかってる!」
三人も急ぎ足で解散。
各自、自宅へと向けて走り出す。
彼女たちが目指すのはもちろん、王都ロマリア。
かつての文明を滅ぼしたゼティアの門がある、旧都市ロマーニャの地下遺跡だ。
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