992.新たな王
ゼティアの門はもう、完全に閉じることはできない。
そしていつか必ず開かれるという事実に、驚愕のままでいる管理者。
「門より到来する怪物たちは、我らが新兵器を持って打倒する。そして」
すると黒仮面の一人がそう言って、一歩前に出た。
「新たなる帝国『ヴァールハイト』が――――異世界をも統治する!」
黒仮面は、メイたちにまでしっかり聞こえるよう宣言した。
そして進んだ先にある紋様の中心に、足を乗せる。
「なに?」
メイが、いち早く異変に気づく。
直後、枝葉に包まれたゼティアの門が大きく揺れ始めた。
「何が起きてるの?」
「な、な、何が始まるのでしょうか……っ」
地面が震え、枝葉に住んでいた鳥や爬虫類が逃げ出していく。
その光景に、まもりが思わず盾に隠れる。
ゼティアの門に刻まれた紋様に、光が走り出す。
そしてその全てに光が灯ったところで、枝葉がすさまじい速さで門から引いていく。
走り抜けた光の紋様は、そのまま床に伝わる。
そして円形の紋様に光を灯すと、ゼティアの門は強烈な輝きを残して、どこかへと転移していった。
「「「消えた!?」」」
「地上に出たんじゃないかしら。ナディカもそうだったけど、起動する時には広い場所を用意してたみたいだし」
「そういうことか」
「大物がやって来るなら、そうなるねっ」
夜琉とバニーが、興味深そうにうなづく。
ゼティアの門が消え、枝葉が下がれば、残ったのは広い石床の空間のみ。
「行くぞ」
そう言い残して、歩き出す黒仮面たち。
「もうゼティアの門が閉じることはない……そうだとしても、一つ確かなことがある」
そんな中、管理者がぽつりとつぶやいた。
「貴様たちがゼティアに触れれば、すぐにでも災厄が訪れる! それだけは変わらない……貴様らには、ここで消えてもらうぞ! 【疾駆】!」
そして、高速移動スキルを発動して走り出す。
「【雷閃円舞脚】!」
豪快な跳躍から、中空で激しい稲光を走らせる回転蹴り。
そのまま、最後尾の黒仮面に叩き込む。
「な、にッ!?」
猛烈な雷光を輝かせるその一撃はしかし、黒仮面の結晶腕一本で止められた。
弾かれた管理者は、慌てて跳び下がる。
「教えてやろう。攻撃というのは――――こうやってするものだ」
黒仮面の腕についた、結晶のブレスレットが輝く。
すると強烈な魔力光が爆発し、管理者を消し飛ばした。
「ぐ、ああああああ――――っ!!」
そのまま石床をバウンドして転がった管理者は、立方体ブロックにめり込み止まる。
「……そうか。貴様たちは不遜にも、ヴァールハイトの使命に立ち塞がろうという、無知蒙昧であったな」
黒仮面はそう言って、メイたちの方を見る。
「いいだろう。ならば貴様たちにも見せてやる。我ら、超越者の力を」
その言葉に、自然と走り出す緊張。
メイたちは静かに構えを取る。
しかし黒仮面たちに、戦いを始める様子はなし。
「エルラト、ナディカ、各都市の門には守護者がいただろう。もちろんここロマーニャの門にもかつて、守護者と呼ばれる『王』が存在した」
魔法珠をかざすと、現れる巨大な魔法陣。
光があふれ出し、始まる召喚。
「……嘘でしょ?」
「これは、どういうことでしょうか」
「お、大きいです……っ」
白から淡い緑、そして濃い緑へと変わっていく毛並み。
巨大な魔獣は狐のような身体に鹿の様な角を持ち、そこから神々しい光の紋様が空中に広がっている。
その姿に、思わず感嘆する面々。
現れたのは、かつて大陸の動物たちを引き連れて王都に攻撃を仕掛けてきた、『獣の王』だった。
「仮にこの世界が、我らが戦いに用いた兵器の毒によって腐り落ちたとて……異世界を奪えばいいだけのこと。全ては我ら『ヴァールハイト』によって掌握され、管理されるのだ」
「そんなのダメですっ!」
「認められないわね」
「はい、そのようなこと認められません」
「そ、その通りですっ」
メイたちが反論すれば、自然とアーリィたちもうなずく。
「まずは貴様らに新たな結晶の力を、『世界の王』の圧倒的な力を見せてやろう。さあ守護者よ、冒険者どもを……食い尽くせ」
そう言って手にした真紅の結晶を輝かせると、その光を目の当たりにした獣の王の目が煌々と赤く輝き出す。
「旧文明では共闘の関係であった『王』たちも、我らの前では一体の従順な『兵士』となる。もはやかつての文明とはレベルが違うのだ。我らは」
コートをひるがえし、黒仮面はこちらに背を向ける。
「ゆくぞ。我らには貴様ら冒険者などでは、永遠に描くことのできない大義がある――――さらばだ、弱き者たちよ」
呼び出した転移方陣が輝く。
黒仮面たちは、ゼティアの門を追って消えていった。
残されたのはメイたちと、真紅の結晶兵器によって狂わされた獣の王のみ。
「獣の王、ちょっと不遇過ぎじゃない?」
「まったくですね」
王都決戦の『狂化』に続いて、今回は『傀儡化』という流れに苦笑いのレン。そして。
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!」
響き渡るすさまじい咆哮が、メイたちの全身を震わせた。
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