990.管理者との戦い
「喰らいなさい【大蛇霊】!」
足元に待機させていた巨大な蛇の霊が、跳び上がったアサシンに喰らいつく。
メイたちがお披露目モデルを務めたのを見て『シャーマン』になった少女の一撃が決まり、見事に跳躍アサシンを片付けた。
「マズい……ここ、抜かれるぞ……っ!」
しかし敵の数は約50体。
一部にアサシンが集まったことで、防衛線が危うくなる。
「【雷霆】!」
超高速で駆け込んできたアーリィの一撃が、敵陣の核になっていたアサシンを打倒。
「君たちの相手は可愛いウサギだよっ! おいでヴォーパルバニーちゃん!」
アーリィが動いたことで空いた穴を、バニーがすぐさまウサギたちで止めて事なきを得る。
「やっぱりこのアサシンたち、管理者とプレイヤーの戦いに割って入ろうとする感じがある。絶対に止めるぞ!」
「これ以上は、進ませないにゃん」
数に勝るアサシンたち。
そのリーダー格と戦いながらも、アーリィたちは見事に防波堤の役割をこなしていく。
「【雷閃脚】【演舞】」
残りHPは6割強。
管理者は右足の前蹴りから左の回転蹴り、そのまま一回転して右の回し蹴りへとつなぐ。
その全てから、放たれる直線の雷撃。
「【アクロバット】!」
「【スライディング】!」
メイとツバメは、これをしっかり見定めて回避。
「【天雲の盾】!」
まもりは盾防御で、レンを守る。
最後は豪快に一回転。
管理者が振り抜く足から生まれた雷撃の弧が飛び、一瞬遅れて炸裂。
ビリビリと、付近に電流を走らせる。
「高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」
「【魔光壁】」
レンは直線ではなく、『斜めに曲がって落ちる』軌道で氷弾を発射。
しかしこれにも、しっかり魔力の盾を合わせて防御した。
「【加速】【リブースト】【三日月】!」
「【手刀回転そらし】」
迫るツバメの【村雨】の振り降ろし。
あげた右手を12時から6時の方向へ回転し、刀の側面を手刀で押し出すような形で、一撃をそらす。
かわされたツバメはそのまま前方に抜けた後、慌てて振り返る。
「【超加速】【崩拳】」
短距離限定の高速移動から放つは、防御無視の吹き飛ばし拳打。
「ああああああ――――っ!」
腹部にこれを受けたツバメは3割のダメージと共に、建物を突き破って転がった。
「【疾駆】」
ツバメの状況を確認することもなく、駆け出す管理者。
まもりのもとへ向かい、引いた右手を突き出す。
「【爆炎掌握】」
「ててて【天雲の盾】っ!」
つかんだ敵を、手の平から噴き出す猛烈な爆炎で焼く一撃は、盾に阻まれダメージなし。
しかしわずかに距離ができた両者には、次の動きの決断を求められる。
まもりは管理者の踏み出し、引いた拳をギリギリまで観察。
「【転瞬】」
しかし管理者は、盾の表面にタッチした。
「えっ?」
するとまもりは、強制転移で管理者の右側数メートルの位置へと移動。
いきなり場所が変わり、さらに管理者に背を向ける状況になっていた。
「【爆点】」
「あっ! ああっ! あああああっ!!」
『指さし』を連発すると、まもりの背中が次々に爆発。
背後から連射を喰らったまもりは、そのままヒザを突き倒れる。
「まもりちゃんっ! 【バンビステップ】【フルスイング】!」
すぐさまメイが駆けつけ、手にした剣を振り下ろす。
「【剛指白刃取り】」
だがこれも見事な受け流しを見せ、ここに至っても管理者の防御態勢は崩れない。
転がるメイを置き去りに、管理者が狙うのはレン。
「【超加速】」
容赦のない最速の移動から、拳打を叩き込みにいく。
「こ、ここは私が……っ! 【かばう】【地壁の盾】っ!」
狙われたレンの前に割り込んだのは、慌てて立ち上がったまもり。
見事に管理者の拳打を受け止めた。
「【雷閃脚】【演舞】」
続く連撃。
右の蹴り上げから続くのは、なんとカカト落とし。
「ひゃあっ!!」
これまで受けたことのない攻撃に、思わずあげる悲鳴。
さらに左足でまもりのふくらはぎ、もも、わき腹を狙う三連続の蹴りからハイキック。
そのまま左足を着いて、右足での回し蹴り。
雷光を伴う高速の連撃に、まもりは必死に盾を合わせて防御。
こうして生まれた距離に、管理者はすぐさま『指さし』を入れ込んでくる。
「【爆点】」
「【天雲の盾】盾盾っ!」
今度は喰らわない。
目に見えないため、防御のタイミングが取りづらい爆破攻撃。
それでもしっかり、早めのスキル発動で抑えた。
普通に考えれば、このクラスのボスが使う『格闘』の連打は最速。
さらにそこから続く特殊な遠隔爆破という流れを、それでも全て受け止めてみせた。
「【雷閃円舞脚】」
管理者は離れた距離を、低空の跳躍蹴りで詰めてくる。
「【天雲の盾】っ!」
防御は変わらず見事。
しかし防御したところで、まもりには管理者に受け流されない反撃が思いつかない。
敵の攻撃に対する異常な対応能力こそ、管理者の強みだ。
「なんとか、しないと……」
防戦一方の状況に、焦るまもり。
「そそそそれならっ!」
生まれたひらめきに、思い切って覚悟を決める。
盾は最強の防具だが、まもりにとっては武器でもある。
「いきますっ! 【チャリオット】【天雲の盾】!」
一番大きな青銅の大盾を前に向けて、走り出した。
放たれる『指さし』を弾き、【地壁の盾】に換えることで拳打を受けながら特攻。
管理者のもとにたどり着いたまもりは、なんとそのまま大盾を押し付けた。
それでも、止まらない。
「なっ!?」
盾で管理者をブルドーザーのように運び、建物の壁に押し付け砕く。
さらに突き進んでもう一枚壁を突き破り、三枚目の厚い石壁に管理者を思いっきり叩きつけた。
「ぐっ!」
衝突ゆえに、ダメージは僅少。
だがこの位置取りでは魔法が撃てず、レンに追撃は難しい。
メイとツバメは急いで走り出しているが、管理者はこの状況で待っていてくれるような相手ではない。
一秒でも早く。
メイとツバメが、駆けつけようとしたその瞬間。
「【フリーズブラスト】!」
「「「ッ!?」」」
まもりは盾で管理者を壁に押し付けたまま、【マジックイーター】で封じていた【コンセントレイト】版の魔法を発動。
盾から飛び出した氷嵐が背後の壁を吹き飛ばし炸裂、管理者を消し飛ばした。
付近一帯が凍り付き、息が白く煙る。
意外な攻撃方法に、驚くメイたち。
やがてゆらりと立ち上がった管理者は、まだ冷気が立ち上る中、鋭い視線をこちらに向ける。
そのHPは、残り4割強ほど。
「……下手に力を得てしまったことが、新たな武器を求める貴様たちを、異世界に熱狂させるのだろう」
そして、構え直す。
「やはり『鍵』は永遠に封じ、危険な冒険者は……ここで消え去るべきだ! 【神速手刀】!」
「「「ッ!?」」」
放たれた手刀の振り回しが、凄まじい勢いで飛ぶ空刃を生み出した。
メイとツバメはこれを慌ててしゃがんでかわし、まもりは盾防御。
レンはまもりの背後に入ることで、ことなきを得る。
すぐさま立ち上がろうとする、メイとツバメ。
しかし続く返しの手刀が、弧型の空刃を生み出し再び頭を下げる。
直後、地に伏せるメイとツバメに向けて放たれるのは手刀の振り降ろし。
「「ッ!?」」
駆ける縦の空刃に、メイとツバメは慌てて左右に転がりかすめるにとどめた。
「高速【連続魔法】ファイア――」
「【雷閃剛脚】」
「【天雲の盾】! きゃあああっ!」
危機下にあったメイたちを救うための魔法攻撃はなんと、放つ前に強烈なけん制を挟まれた。
駆け抜ける雷光を伴う回し蹴りは、レンをかばったまもりごと転がす。
「【超加速】」
そして次の瞬間には、立ち上がったばかりのツバメの前へ。
「ッ!!」
「【神速貫手】」
「ああああああ――――っ!」
突き出した手刀は、残像を残すほどの速度。
ツバメはギリギリで防御に成功するが、4割近いダメージを受け、崩れた壁に足を取られて転倒した。
「【裸足の女神】ッ!」
追撃を封じるため、最速で飛び込んできたのはメイ。
「【キャットパンチ】」
こちらも高速の拳打で初手を取る。
対して管理者はこれを防御。
続く三発の拳打もしっかり防御して、ダメージは僅少。
「【神速手刀】」
反撃の振り払いを、メイがかわす。
メイの踏み込みからの振り上げ【キャットパンチ】を、管理者が身体を後方へ倒して避ける。
そこからつなぐ【雷閃脚】の蹴りを、メイは頭の傾けで回避。
「【カンガルーキック】」
低い跳躍からの前蹴りを、管理者はサイドステップでかわす。
向かい合ったところで、大きな踏み込みから放たれる『突き』をメイは左にかわす。
するとすぐさま【雷閃脚】の蹴り上げ。
「【アクロバット】!」
メイはこれを、バク転でかわして前進。
しかしそこに迫るのは返しの『カカト落とし』
急停止。
目の前数センチのところを、降りていく一撃。
「うわっ!」
直後、地面から吹き上がる雷光が、メイの体勢を崩した。
「終わりだ――――【神速雷光斬】」
それは『人型』の敵NPCが放つ打撃の中で、最速を誇る一撃。
気づいてからの防御も間に合わないだろう、という計算のもとに作られたスキルだ。
……しかし。
「【装備変更】っ!」
メイは敵の超高速の『斬り下ろし』に対して、完璧に反応。
「とっつげき――っ!!」
【鹿角】パリィで、当たり前のように手刀を弾いてみせた。
「バカな……ッ!?」
「いきますっ!」
メイは剣を引き、全力で斬り上げを放つ。
「【ソードバッシュ】!」
「ぐああああああああ――――っ!!」
衝撃波によって、付近の建物ごと管理者を引き飛ばす。
壁を突き破っては新たな壁にぶつかりを繰り返し、ようやく止まったところで残りHPは1割以下。
「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
すぐさまレンが追撃に入る。
「【魔光壁】」
それでも、ギリギリのところで魔力の盾を展開して生存。
「本当にしつこいわね……っ!」
思わず声をあげるレン。
「でも残念。私の追撃はあくまで……足止めよ」
そう言って、ツバメに視線を向ける。
「いきます――――【分身】」
「「「「ッ!?」」」」
生まれた光景にメイたちはもちろん、管理者も、付近で戦っていたアーリィたちすら驚愕する。
【分身Ⅲ】によってツバメの周りに、建物の上に、崩れた石壁の上に、現れた200人もの分身体。
「な、なんだ……あの数!?」
驚きの声を合図に、全員が一斉に攻撃を開始。
投じられる大量のブレード、クロスする形で迫り続ける斬り抜け。
そして空中からの斬り下ろし。
その苛烈さには、さすがに管理者の防御態勢も間に合わない。
そもそもその攻撃が分身なら、虚像相手のスキル使用は無意味に終わる。
管理者はとにかく本物の攻撃に注意しながら、分身体を拳打や蹴りで減らしていくほかない。
「……だが、分身は分身だ。結局は本人が攻撃を決めなければならないぞ」
「高速で動き回ってる管理者への高火力攻撃は、難しそうね」
思わずこぼれた夜琉とアーリィの言葉に、ツバメは静かに答える。
「狙いは、翻弄することではありません」
「ど、どういうことでしょうか」
そうまもりが、不思議そうに口走ると――。
「こういうことです――――着火」
【狐火虚像】が一斉に炸裂。
完全に管理者を取り囲む形になっていた分身が一斉に、青い炎を巻き上げ爆発。
青の爆発は次々につながり、豪炎が大きく巻き上がった。
「ぐああああああああ――――っ!!」
そこには、逃げ場など存在しない。
MP消費の高さに面食らいながらも、見事に決まった一撃に息をつく。
巻き上がった青い炎が、火の粉を降らしながら消えていく。
ヒザを突き、立ち上がれずにいる管理者。
かつて見たこともないスキルの使用と、生まれた光景に唖然とする掲示板組とアーリィたち。
戦いは決着した。
青い火の粉が降り続ける中、術者のツバメだけが静かにたたずんでいた。
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