989.管理者
並んだ砂色の建物に、枝葉の絡みついた光景が続く。
見上げるほどに広い天井と、遠い壁。
巨大なその空間には、忘れさられた古い都市のような光景が続く。
だが何より目立つのは、その奥地に立つゼティアの門。
最大級の門には草葉が茂り、咲く小さな花が不思議な朗らかさすら感じさせる。
「光景がまた、一変したな」
「そうですね」
夜琉の言葉に、ツバメがうなずく。
「すげえ……」
「戦争後に、ずっと捨て置かれた地って感じかね……」
伸びた根と枝葉が絡む石畳の道を進むメイたちの一団は、皆その光景に見惚れる。
各所に立つ石柱や、浮かんだ紋様ブロックの輝きで昼間のような明るさが保たれているのが、また神秘的だ。
「……まだ止まらぬか、冒険者たちは」
聞こえてきた声。
見上げると、建物の上に管理者の姿があった。
「王都ロマリアの旧名は、ロマーニャ。かつて異世界から災厄を引き寄せ、旧文明を崩壊させた最も罪深き都市だ」
枝葉に飲まれた、高い二つの塔。
『ロマーニャの門』を背に立つのは、黒の外套をまとったフードの男。
通称、管理者。
世界維持機構は、ゼティアの門の情報と旧文明の歴史を秘匿し続けてきた組織。
そして目前にいるのは、時に暴力を使ってでも世界の情報を管理していた存在だ。
「――――来い」
その言葉と共に、足元に描かれる魔法陣。
現れたのは、新たなアサシンたちが50人ほど。
「同じ過ちを繰り返させないためには『鍵』を奪い返し、封じるしかない……永遠に」
「永遠に……? 大監獄みたいなところに閉じ込めて、封じ続けるってこと?」
「そういうことだ。『鍵』にはその責務を背負い続けてもらう。百年でも、千年でもな」
「ええっ!? そんなのダメだよっ!」
「少なくとも、分かり合えない部分があることは確かみたいね」
「そ、そうですね」
「『鍵』の青年は、それでは根本的な解決にはならないと言っていました」
「そのようなことはない。現にこれまで異世界からの進攻は抑えられてきた。よって、ゼティアの門や『鍵』に惹かれる者たちは全て……抹殺する」
その言葉と共に、世界維持機構の構成員たちが静かに武器を構える。
「メイちゃん、アサシンは私たちが」
「俺たちはアーリィの指示に合わせて戦おう」
「了解! メイちゃんたちの戦いに水を差させるな!」
「「「おう!」」」
こちらもアーリィたちを中心に、陣が作られる。
狙いはメイたちが、邪魔されることなく管理者と戦える状況を作る事。
「我らは帝国残党を叩き、ゼティアの門を、『鍵』を……再び歴史から消し去る!」
「そんなことさせませんっ!」
響くメイの反論。
そして、戦いが始まった。
「ザコどもはこっちだ!」
重装騎士の【挑発】に、すぐさま動き出すアサシンたち。
「【スタングレネード】!」
さらにターゲット集中効果のある『光と音の魔法』を魔法剣士が放ち、一気に敵勢が動き出す。
「リーダー格は私たちが!」
「了解!」
アサシンたちの中でも各部隊のリーダーを思わせる『色違い』には、アーリィたちが対応。
すぐさま戦況を、メイたちが戦いやすいよう整える。
始まった戦い。
その中を、メイたちはまっすぐに進む。
管理者も歩を進め、やがて両者は向かい合う。
始まる、わずかなにらみ合い。
「【疾駆】」
先手を打ったのは管理者。
その黒い外套をなびかせながら、走行スキルで接近。
先頭にいたメイに、そのまま襲い掛かる。
繰り出す右拳、続けて左拳。
これをメイがかわすと、そのまま一回転。
「【雷閃脚】」
中・近距離どちらにも攻撃が届く回転蹴りが、まばゆい光を放つ。
「【アクロバット】!」
しかしメイは頭部を狙ったこの攻撃も、バク転一つで回避する。
この隙に動くのはツバメ。
回り込むような形で、管理者をねらいに動く。
「【爆点】」
「っ!」
ツバメは足を止め、とっさの防御でダメージを低減。
『指さし』一つで任意の地点に爆発を起こす、この魔法。
火球が発生し、飛び、爆発するという一連の流れを踏まないため、とにかく早い。
だがわずかでも隙があれば、回避を終えたばかりのメイが放っておかない。
すぐさま駆け寄り、振り下ろす剣。
「それっ!」
「【剛指白刃取り】」
メイの剣を、管理者は指二本で挟んで止めた。
そのままワイパーのように手を動かして、メイを放り投げる。
「高速【連続魔法】【フレアアロー】!」
「【魔光壁】」
次の瞬間、レンが魔法で攻撃を開始。
管理者は伸ばした手を開き、掌を突き出す。
すると生まれた魔力の盾が、炎の矢を弾いた。
「この速度でも間に合わないの……!?」
守りの硬さに、思わず声をあげる。
すると管理者はヒザを曲げ、その視線をレンに向けた。
「【雷閃円舞脚】」
低空の速い跳躍は、レンに向けて一直線で飛ぶ。
雷光を描く回転蹴りが、そのまま頭部に向けて放たれる。
「【かばう】【天雲の盾】! っ!!」
ギリギリで間に合ったが、まもりは大きく後退。
「我が研鑽されしスキルは、まだまだこの程度ではない――!」
管理者の着地と同時に、駆け出すメイとツバメ。
二人が駆け込んできたところで、右手を軽く上げた。
「【爆渦】」
パチンと指を鳴らす。
すると管理者を中心に、巻き起こる爆炎。
「「ッ!!」」
メイは慌てて急停止し、ツバメの腕を引く。
直後、二人をわずかにかすめた炎がHPを削っていったが、ダメージは少なくすんだ。
「ありがとうございます!」
「いえいえっ!」
「【雷転拳打】」
片足を一度踏み鳴らして放つその一撃は、足元に広がる雷光の直後に、超高速の拳撃が迫るもの。
「うわわわわっ!」
「っ!」
互いを見合った二人は、慌てて左右に分かれる。
するとその間を、高速で管理者が抜けていった。
本来であれば十人単位のパーティで挑み、それでも『翻弄されまくる』という設計のボス。
単純な『暴れ型』とは違い、防御や反撃も上手なのが本当にやっかいだ。
だが、それでも一度距離が生まれたことを、メイとツバメは見逃さない。
「【壁走り】」
ツバメは的を絞りにくくするため、建物の壁を蹴りそのまま縁へ。
「【跳躍】【反転】【連続投擲】!」
大きなジャンプで管理者を飛び越え背後を取ると、空中で身体を反転させて攻撃。
管理者が先頭の刃をかわすと、地面に刺さった【炎ブレード】が炎を巻き上げた。
さらに二つ目の【風ブレード】の起こす烈風が、炎を噴き上げる。
「くっ!」
三つ目は【水ブレード】
広がる炎を慌てて防御した管理者は、巻き上がった飛沫をかぶる。
そして四つ目は【雷ブレード】
水しぶきによって範囲を広げた雷光が、駆け抜ける。
管理者はこれを決死の飛び込みで回避するが、その時メイは後方から接近中。
慌てて振り返った管理者は、受け流しスキルを使うために右手を伸ばす。
「【お仕置き戦樹】!」
しかしメイの選択は、植物を使った攻撃。
武器でなければ、受け流しは使えない。
「おしおき!」
メイの振り払う手に合わせて、右から左へ弧を描いて伸びる枝葉が、管理者を打つ。
「おしおき!」
左から右へ伸びる根が、続けて切り裂く。
「おしおきだぁぁぁぁ――っ!!」
そして下から上へ。
伸び上がった枝葉と根が、管理者を弾き飛ばした。
ツバメとメイによる『受け流し』対策攻撃は、しっかりダメージを与えた。
転がり、受け身から立ち上がる管理者。
「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
流れを切らさないため、レンはすぐさま魔法で援護。
迫る炎弾をバックステップでかわした管理者のもとに、左右からメイとツバメが迫る。
「【雷光閃火】!」
「【フルスイング】!」
そしてそのまま管理者を、挟む形で放つ攻撃。
「【剛指白刃取り】」
管理者はツバメの刺突を、指に挟む形で受け止めた。
そうなればメイの放つ豪快な振り降ろしが、容赦なく管理者に叩き込まれる。
「【剛指白刃取り】」
「「「「ッ!?」」」」
驚愕する四人。
なんと管理者は右手の指で短剣を受け、さらに左手の指で剣を受け止めた。
「両手で可能なの!?」
群を抜く防御性能に、驚愕するレン。
管理者はそのまま両手を回転、メイとツバメを転がしたところで反撃。
「【波紋斬り】」
右手の指二本で描く水平の弧。
一回転で放つ斬撃の波紋は一瞬で広がり、付近にあるもの全てを切り裂く。
「わああああーっ!」
「くっ!」
それはメイとツバメを切り飛ばし、さらに付近の建物まで斬り飛ばす。
メイで1割、ツバメで3割を超えるダメージとなった。
「まもりのように両手で別々に防御スキルを使えるうえに、そこから速く高火力な反撃も可能……」
しかも格闘距離での戦いが中心となれば、攻撃魔法での援護もしにくい。
本来もっと、前衛が必要なのだろう。
とはいえ、アーリィたちの戦いが終わるのを待てるほど、管理者の攻撃力は低くない。
レンは思考を巡らせる。
そして、メイに合図を一つ。
「どんなに回避や当て身スキルが強力でも、『ランダム』な範囲攻撃はどうかしら」
そう言って一つ、うなずいてみせた。
レンは杖を【ヘクセンナハト】に変え、管理者に向ける。
「【フレアバースト】!」
範囲を広げた爆炎が、付近を真紅に染める。
だが直接的な魔法攻撃を、管理者はしっかり見極めかわす。
やはり、そう簡単に捕まえられる相手ではない。
「【疾駆】」
管理者は狙いをレンに向けて走り出す。しかし。
「いきますっ!」
声をあげたメイはなぜか、建物を挟んで一つ離れた道に移動済み。
手にした剣を、大きく引いた。
「【ソードバッシュ】!」
「ッ!?」
さすがにこの戦い方は、想定に無かったか。
鉄壁の戦闘能力を持つ管理者が、一瞬硬直した。
メイが放つ衝撃波で、付近の建物を攻撃。
生み出した建物の破片や枝葉がすさまじい勢いで吹き飛ばされて、弾丸のような勢いで飛んでくる。
剣でも魔法でもない攻撃は受け流しも回避もできず、管理者に次々激突。
ダメージ計算は衝突ゆえに高くないが、これだけ大きくバランスを崩せれば、仲間たちがこの隙を逃さない。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメは即座に距離を詰め、そのまま攻撃に入る。
「【稲妻】【反転】【三日月】!」
行って戻る『ツバメ返し』で、さらに接近。
「【スライディング】【反転】【紫電】!」
そして足の下を滑り、反転して感電での硬直を奪った。
「【跳躍】!」
見事な翻弄の後は、シンプルな垂直ジャンプ。
「【コンセントレイト】【フレアバースト】!」
「くっ!」
狙いはもちろん、レンの追撃。
跳んだツバメの足元を、爆炎が駆け抜ける。
こうしてメイたちは、管理者のHPを7割を切るところまで減らすことに成功した。
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