987.ヴァルハラ
「……ここで立ち塞がるのが、かつての戦友とはな」
元攻略組のアサシンは感情も見せず、ただ静かにそう言った。
「元攻略組では、戦闘の中心になっていたプレイヤーだね」
アーリィは立ちふさがる相手を見て、レンに短く説明する。
「まさか宝を求め、強さを求める冒険者達が、世界を『危機に陥れる者』になるとは。皮肉なものだ」
「私たちは、『旧帝国』も『世界維持機構』のどちらも根本的な解決にたどり着かないと聞いて、動いているんだけどね」
「我らには力を求めて門に向かう『冒険者』も『旧帝国』も、どちらも『強さへの欲望』を抱えた、同種の悪にしか見えぬな」
「私たちは、メイさんたちの進む道を選びます」
そう言って、アーリィが剣に手を添える。
「ならば断罪させてもらうぞ、欲深き者たちよ」
「ここで消え去るがいい」
元攻略組が告げると、残り4人のNPCアサシンが並ぶ。
武器を構えれば、自然と走り出す緊張感。
「【フリーズブラスト】!」
「「「「ッ!!」」」」
先手を打ったのは、意外にもレン。
【ヘクセンナハト】で放つ氷嵐、いきなり派手な一撃目から戦いが始まった。
広い範囲攻撃に、防御を取らされた2人の元攻略組とアサシンたち。
「【ヴァルキリーストライク】!」
氷嵐の残滓を抜けるようにして、飛び出してきたのはアーリィ。
放つは、高速移動からの振り降ろし。
「【クロスエッジ】!」
そして払いへと続けることで、十字の攻撃になる。
しかしこの連携を知る元攻略組は、冷静に二度の後方移動で回避。
「【彗星連射】」
しかしアーリィは、勢いのまま追いかける。
攻めのフェンシングを思わせる、怒涛の高速前進突き。
「ちいっ!!」
見知っていてもなお対応が難しいスキルで、二発の突きを刺し込んだ。
思った以上の勢いで攻めるアーリィに、ここで元攻略組が反撃。
「【二重影】」
スキルの発動と同時に、左右に現れた分身。
「【火竜砲】」
「【風烈砲】」
「っ!」
実体持ちの分身体は、登場と同時に任意のスキルを使用して消えるという性質を持つ。
炎と風の同時使用は『属性効果』を生み、大きな範囲に火を巻き起こした。
こちらも『知っていても』回避が難しい一撃。
互いに2割のダメージを受け、アーリィと元攻略組は構え直す。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
この隙にレンは、初手の氷嵐でダメージを負ったアサシンたちの打倒を狙う。
「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
まずは誘導の効いた炎弾で、HPを削る。
「【疾走縮地】」
速い移動で距離を詰めてくるアサシンは、そのまま攻撃体勢へ。
やはり単純な速度では、かなわない。
「【刺竜殺】」
そのまま突きの一撃で、迫り来る。
ここでレンは【低空高速飛行】をカット。
片足を突くと、すぐさま【低空高速飛行】と【旋回飛行】を起動。
これまでとは反対の回転で、移動を開始する。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【フレアアロー】!」
敵の攻撃をかわし、炎の矢を叩き込んだ。
「もう一発! 【フリーズブラスト】!」
すぐさま続く、【ヘクセンナハト】での攻撃。
広範囲に吹き荒れる氷嵐がアサシンたちを吹き飛ばし、早くも3体が倒れる。
「ッ!!」
しかしアサシンをオトリにして迫る2人目の元攻略組は、手にしたカッターの刃のような武器を投じてきた。
右手、左手、右手と三連射。
合計12本の刃の一部が、肩を斬っていく。
左手で投じた4本には、感電効果。
状態異常の刃を喰らわなかったことに、思わず安堵の息をつく。
「【伸身宙返り】【空刃】【首狩り斬華】」
「ッ!?」
斜め後方から聞こえた声。
この攻撃は、感電が当たればそのまま必中。
当たらずとも刃に意識を引き付けて、死角から迫るという連携だったようだ。
現状からアサシンの位置を把握して反撃するのは、ほぼ不可能。
さらに攻撃距離を伸ばす【空刃】を挟んでいる時点で、しゃがみによる回避も許さないという攻撃だ。
「――――【悪魔の腕】!」
しかしレンはここで地面から悪魔の巨碗を召喚し、間一髪で4体目のアサシンを叩きつけた。
「……これが、闇の使徒か」
「ちょっと誰のことだか分からないわね……っ」
その凄まじく速い判断には、元攻略組と言えどさすがに息を飲む。
「行くぞ……! 【跳躍】【乱舞投擲】!」
すぐに意識を切り替えジャンプ。
そこから投じる数十本の刃は、2人目の元攻略組の前面に放射状に広がる。
「っ!」
さすがに回避は不可能と判断したレンは、これを防御。
着地と同時に投じる【刃】はまたも、計12枚。
「【低空高速飛行】!」
これを横移動で回避すると、今度は円形の刃【チャクラム】を投じてきた。
まとう光が外縁に伸び、大きな光の輪となって接近。
「っ!」
レンは転がってかわし、すぐさま杖を構える。
しかし見えたのは、すでに回転モーションに入る2人目の元攻略組の姿。
光の輪の三連投擲。
レンはあらためて転がることで回避して、どうにか杖を向ける。
敵は初動の【ヘクセンナハト】【フリーズブラスト】でHPを削られており、HPの残りは多くない。
「高速【誘導弾】【ファイアボルト】!」
「【連投】【飛び針】」
対する2人目の元攻略組は、8本の大針を投じて打ち消す。
「めずらしい戦い方ね! 何より攻撃間隔が圧倒的に短い……っ!」
パッシブスキル【クイックスローワー】は、『投げる』スキルのクールタイムを異常に短くするのが特徴だ。
「いくぞ」
「ああ」
するとここで、3人目の元攻略組にアーリィを任せ、やってきた1人目の元攻略組が合流。
「【影走り】【地刃】」
「っ!」
地面から突き上がる岩の刃を、レンは慌てて大きなバックステップで避ける。
しかし、それこそが敵の狙い。
「ここだ! 【破砕投擲】【破魔の真剣】!」
投擲スキルに見合わぬ、派手なエフェクトが輝いた。
「ッ!?」
「【エアダッシュ】!」
アーリィはギリギリでレンを抱き抱えて転がり、どうにか回避に成功。
肩口を斬っていった剣は砕け散り、アーリィのHPを3割近くも奪っていった。
「ありがとう、助かったわ!」
「製造専用、しかも素材集めが厳しいことで有名な剣を一回の『投擲』に使うなんて……!」
武器の攻撃力が、そのまま威力に関わる【破砕投擲】
直撃すれば即死でもおかしくないレア武器投擲に、レンは思わず息を飲む。
「反撃、いきましょう!」
「はいっ!」
そして二人は動き出す。
狙いはHPの少ない、2人目の元攻略組だ。
「【低空高速飛行】!」
「【リトルウィング】【エアダッシュ】!」
レンとアーリィは、距離を一気に詰める。
「【連投】【ライトチャクラム】!」
対応は三連続の光輪攻撃、狙いはレンだ。
「その手にはっ!」
レンは【低空高速飛行】を切って、一瞬着地。
今度は飛び込み前転でチャクラムを飛び越え転がり、再び【低空高速飛行】に入る。
「【ヴァルキリーストライク】【クロスエッジ】!」
ここでアーリィは1人目を狙うと見せかけて、敵の虚をつく急転回。
レンを狙っていた2人目の元攻略組に攻撃を仕掛けにいく。
だがこの連携は相手も、すでに知った攻撃。
しっかり後方への跳躍で、回避を決めた。
「はああああ――っ!」
ここで着地直後のアーリィを、レンが追い越す。
そのまま2人目の元攻略組に、【魔剣の御柄】で斬りかかる。
「喰らうかっ!」
「【開放】!」
斬撃をかわされた直後、放つ氷嵐。
2人目の元攻略組が残り少ないHPを守るため、防御でダメージを軽減し、反撃の姿勢に入ったところで――。
「なんだ……!?」
舞い散る氷片の中、なぜか突然杖を降ろしたレンに一瞬意識を奪われる。
するとその頭を、アーリィが飛び越えてきた。
「しまっ……!」
「【白鳥乱舞】!」
戦闘中に杖を降ろすという些細だが妙な行動に、見事に目を奪われてしまったことが命運を分ける。
美しくすらある跳躍から放つ剣舞には、もはや回避のしようなどなし。
残りHPの少ない2人目の元攻略組は、イチかバチか【飛び針】を手にするが間に合わない。
そのままアーリィの剣舞に斬られて、倒れ伏した。
「【不死灼火鳥】」
「マズっ!! ごめんアーリィ! 【フレアバースト】!」
「きゃああああっ!?」
「ぐああああ――っ!!」
2人目の元攻略組の敗北を、オトリにした攻撃。
着地際を狙った1人目の元攻略組の【不死灼火鳥】は、アーリィでも一撃で窮地に追い込まれるほど。
結果レンは『二人まとめて攻撃』することで、少ないダメージでアーリィを逃しつつ、すでにHPを減らしていた1人目の元攻略組の打倒に成功。
見事な判断を下してみせた。
「【崩天撃】」
弾けた爆炎が派手な火花を散らす中、3人目の元攻略組が攻勢を仕掛ける。
地面を崩し、足を取る一撃。
ここでアーリィが前に立ったことが、功を奏す。
「【炎氷風雷双剣舞】」
乱舞一発目は、回り込んでくる炎の刀身。
次撃は凍結持ちの氷の刃が通常攻撃と同じ速度で迫り、見えない風の刃が続く。
最後は麻痺付きの超高速『雷光』剣による刺突。
知っているからこそ、手前二つを喰らっても最後の『感電』だけは意地でも回避。
どうにか最悪の事態は免れる。
しかし、3人目の元攻略組の攻勢は続く。
「【三重影】【極氷白刃砲】」
「「きゃああああっ!」」
なんと三体の分身体と共に、4人がかりで氷刃の烈風を放ち、回避し切れなかったレンとアーリィの悲鳴が重なった。
「【超速処刑】」
続けて放つは、目にも止まらぬ速度で迫る刺突の一撃。
それは高速移動中に軌道を変えられる『軌道変化』という一面を持つ、恐ろしいスキルだ。
「【ブリザード】!」
しかしレンは、これをとっさの判断で氷嵐の壁を張ってけん制。
この選択が、最上のものとなる。
「【雷霆】」
「なにっ!?」
氷嵐の攻撃判定が消えた瞬間、白煙を突き抜けてきたのは超高速の雷光斬り。
「させるかあっ!!」
だが最後の元攻略組は、これを防御。
大きなダメージを受けながらも、優位を取った。
「【魔剣葬乱】」
反撃は、全部決まれば圧倒的な火力を誇る乱舞スキル。
出だしに若干のタメがあるものの、アーリィが隙だらけのこの状況なら確実に決まる。
そう、確信した瞬間だった。
「【入替のルーン】!」
目前のアーリィが、レンに入れ替わる。
「ッ!?」
現れたレンはなんと、右手で最後の元攻略組をシンプルに突き飛ばし、体勢を崩したところで魔法を発動。
「【フレアストライク】!」
炎砲弾で吹き飛ばす。
「チッ!」
地を転がり、慌てて身体を起こす元攻略組。
だがもちろん、あえて手で突き飛ばしたのには理由がある。
「まだまだっ! 燃えなさい! 【燃焼のルーン】!」
「ぐああああああっ!」
全身から吹き上がる炎に焼かれ、二度焼きが決まったところで、レンはアーリィの肩に触れバトンタッチ。
「ルーン、発動」
するとアーリィは、静かに両手を組んで祈りを捧げる。
「来たれ――――死せる猛き戦士たち【エインヘリアル】!」
スキルの発動と同時に、元攻略組の足元に輝く魔法陣。
彼を囲むように現れた華麗な鎧の剣士が、高速の槍騎士が、剛腕を誇る斧の戦士たちが、掲げた武器を同時に振り下ろす。
「あ、ああ……」
現れる戦士の数は、本来9体と決まっている。
しかし【増幅のルーン】によって、その数は大きく上昇。
弓兵に魔導士にヴァイキングと、現れた気高き猛者たちも一斉に攻撃を開始。
18体にも及ぶ戦士たちが同時に、スキル付き武器を叩き込む。
「うああああああああ――――っ!!」
無数のエフェクトが交じり合い、炸裂する豪快な一撃。
敵HPゲージは、一瞬で全損した。
「……ここは、ヴァルハラだとでもいうのか……?」
賢明な判断から、怒涛のルーン攻勢による翻弄。
そして、戦乙女に導かれた戦士たちの攻撃。
北欧神話の一節のような連携を喰らった元攻略組は、ゆっくりと倒れ伏す。
聞こえた言葉に、自然と笑い合うアーリィとレン。
「……剣の乙女がヴァルキリーなら、魔法使いは……ヘルといったところか」
「誰が『死者たちの支配者』よ。そこはフレイヤあたりにしといてよ」
せめて『豊穣の女神』とかにしてと言って、ため息をつくレン。
強力な元攻略組との戦いは、こうして幕を閉じた。
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