984.ツバメと夜琉
「――――行くぞ。貴様ら冒険者の快進撃も、ここまでだ」
元攻略組の一言に、駆け出す7人のアサシン。
「【大嵐祓い】!」
迫る七つの黒い影に、夜琉は大きな払い斬りで暴風を起こして対抗。
「「「ッ!?」」」
アサシンたちを吹き飛ばす。
「【爆歩】!」
長いストライドの大きな一歩で、元攻略組の一人を狙う夜琉。
対して元攻略組アサシンは、カウンターを狙おうとして急停止。
スーパーアーマーかつ、防御も向上する夜琉の移動スキル。
下手に攻撃をすれば、肉を斬らせて骨を断たれることになると思い出し、慌てて止まる。
「【月穿ち】!」
空中で抜き放つ、大太刀の回転斬り。
「っ!」
夜琉のスキルはその多くが、ダメージに加えて『防御を崩す』効果を持つ。
その事を知っている元攻略組アサシンは、とっさに回避を選択。
ヒザを突く形で避けると、頭上数センチを轟音が駆け抜けていった。
この隙に、起き上がったアサシンたち。
再び駆け出したところに、駆け込んで行くのはツバメだ。
「【アクアエッジ】【瞬剣殺】!」
切り刻む水刃の乱舞で、すぐさま追撃を叩き込む。
「【焔薙ぎ】!」
「貴様のスキルと戦い方は、すでに把握済みだ!」
続けざまに放つ大きな回転斬りを、元攻略組は片ヒザを突くほど体勢を低くすることでかわしてみせる。
「【残像斬り】」
「っ!」
脇差による剣撃を、下がってかわす。
すると一瞬遅れて、同じ動きの残像が全く同様の軌道の斬撃を放つ。
「それは、こちらも同じことだ」
だがその手にはかからない。
もう一歩下がることで、二連目の斬撃も難なく回避。
「【影走り】」
しかしそこに駆けてくる、もう一人の元攻略組。
「そして貴様は、敏捷型に取りつかれる戦いが苦手だったな!」
二人目の元攻略組が、二本の短剣を手に接近。
「【牙打ち】」
放たれる、逆手の短剣突き。
「【投擲】!」
これを止めにかかったのはツバメ。
「お前の戦い方もすでに研究済みだ! そのブレードは効かない! 【斬り払い】!」
攻略組アサシンは、ツバメの放ったブレードを『払いスキル』でやり過ごした。しかし。
「なにっ!?」
次の瞬間、大きく上がる炎。
これまで属性ブレードは、硬直の取れる【雷】のみを使用してきたツバメ。
今回はそれに加えて、他の属性ブレードも準備。
必ず【雷】で来ると踏んだアサシンの、裏をかいてみせた。
燃え上がった炎は、敵の視界を埋める。
「【爆歩】」
「ッ!!」
燃え上がる炎を割るようにして、夜琉が特攻。
スーパーアーマーかつ防御力上げ状態の夜琉には、炎を割ってもダメージはごく僅少。
「【月穿ち】」
「があああっ!!」
そのまま大太刀を、元攻略組の一人に叩き込んだ。
「チッ」
二人の攻略組は反撃体勢に入ると、【炎ブレード】の効果が切れるのと同時に動き出す。
「【業炎虎】」
現れたのは、炎で作られた二頭の大虎。
突撃から振り下ろされる炎の腕を避けると、すぐさま二頭目の飛び掛かり。
「くっ!」
燃え上がる炎によるダメージと共に、後方に転がされる。
二頭の炎虎はこの隙を逃さず、同時に跳躍。
夜琉に襲い掛かる。
速い動きに加え、本体そのものに攻撃判定を持つ炎虎の飛び掛かり。
夜琉はたまらず防御を選択。
するとそれを待ち構えていたかのように、炎虎たちが爆発する。
「くうっ!!」
ド派手に燃え上がる炎に、大きく体勢を崩された。
「【回転跳躍】【曲芸投擲】」
「っ!?」
燃え上がる炎を、飛び越えつつの攻撃。
さらに【ブレード】の投擲で、ダメージを加算してきた。
「これが世界維持機構となり、新たな力を得た元攻略組の強さだ! 【反動】【斬天殺】!」
そのまま夜琉の背を取ると、着地と同時に反転して接近。
放つは斬撃の弧を描く、高火力の一撃。
これではまるで、先ほどのツバメと夜琉の連携に対する意趣返しだ。
「大太刀は抜刀に時間がかかる! 反撃は不可能!」
見事な狙い。
背後を取られた状態から振り返り、大太刀のスキルを放つには時間が必要だ。
それでは迫る速い攻撃に間に合わない。しかし。
「【朧打ち】」
「「チッ!!」」
太刀を抜かず、鞘を大きく振るスキルであれば最速でけん制が放てる。
思わぬ一撃に、二人のアサシンの足が止まった。
「エルラトで別れた後、新たな力を得たのが自分たちだけだと思ったら――――大間違いだ」
夜琉は大太刀を構えて、腰を落とす。
スキルの発動と同時に、ドン! という衝撃が広がる。
そして、放たれる剣閃。
「【天地無双断】!」
巨大な筆で描いたかのような荒々しい剣撃が、大きな輪を描くその一撃。
「ぐああああああ――――っ!!」
避け切れなかった元攻略組の一人が、立方体ブロックと共に斬り飛ばされて倒れ伏す。
「マズい……だがっ! 【回転跳躍】!」
一人が犠牲になったことで、回避判断ができた。
二人目の元攻略組は、低い跳躍で迫る斬撃をかわしてみせた。しかし。
これだけでは終わらない。
「二回転……だと!?」
以前の【天地烈断】は一撃のみだったが、新スキルは二連撃。
しかもエフェクトが飛び散る豪快なこのスキルはなんと、初撃に対応した敵の動きを見て、任意の軌道に二撃目を放つことができるという強スキルだ。
「くっ!」
着地と同時に、防御に入る。
だが、そんなものは許さない。
直後、交差する二つの斬撃が空間をズラす演出を発動。
身体が折れ曲がったのではないかというほどの勢いで、元攻略組を斬り飛ばす。
そして7割という、まがりなりにも『防御』を選んだ相手から奪っていいダメージではない火力を見せつけた。
夜琉の与えた恐ろしいダメージに、驚愕する元攻略組。
それでもどうにかHPを1割弱だけ残すことに成功し、この後の反撃に思考を移す。
しかし、真の驚きはこの後だった。
「……バカな」
顔をあげた元攻略組の目に映ったのは、空間を斬るほど激しい剣閃のエフェクトの隙間を、駆けてきた一人のアサシン少女。
【跳躍】中に、低い位置で【エアリアル】を発動。
そのまま何もしないことで【跳躍】の効果をキャンセルし、低いジャンプに変えるテクニックで初撃を回避。
さらに【スライディング】で、二発目の剣撃の下を潜って駆けてくる。
「バカなぁぁぁぁ――――ッ!」
喰らえば一撃で大ダメージ確実の、豪快かつ高速な剣撃の隙間を縫う疾走に思わずあげる悲鳴。
「だ、だがっ!」
慌てて迎撃態勢に入った元攻略組アサシンは、本来の職業である【騎士】の剣技で対抗。
「【グランセイバー】!」
それはとにかくシンプルだが速く、そして範囲も広い斜め軌道の振り上げだ。
「っ!」
どうにか挟み込んだ一撃は、確実にツバメを捉えた。
「間に合った! 確かに捉えたぞォォォォッ!!」
閃光を引く一撃は見事に突き刺さり、勝利を確信。
勝利の叫び声をあげる。
しかしそこにあったのは大きな――――ヒヨコちゃん。
「なん、だとォォォォッ!?」
【天地無双断】が放たれ、ツバメが駆け出した瞬間、自分はもう『詰んで』いた。
転がっていくヒヨコを呆然と見つめながら、そう思い知った次の瞬間には、短剣が腹部に突き刺さっていた。
「【雷光閃火】」
激しく飛び散る火花。
愕然としたまま、元攻略組アサシンは問う。
「この連携も、前回の遺跡攻略で身に着けたというのか……!?」
「……違うな。【天地無双断】の使用は、今回が初めてだ」
「防御不可、超高火力のスキルの間を、初見で駆け抜けてきたというのか……っ!?」
あまりに恐ろしい連携、唖然とする元攻略組アサシン。
「く、狂っている……」
そんな命知らずの妙技を成功させた直後に、ふざけた大型ヒヨコを放り出してくるとあってはもう、理解が追いつかない。
元攻略組アサシンは驚愕の表情のまま、巻き起こった爆発に吹き飛び倒れ伏した。
「助かったぞ、ツバメ」
「いえ、見事な剣撃でした」
一方ツバメは、クルクルと飛んで戻ってきた短剣に手を伸ばす。
そして間に立っていた夜琉の頭に、ガツンとぶつかったのを見て思わず噴き出した。
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