979.トカゲの王と野生の王
一進一退の攻防は、見事な連携を続けるメイたちが押していく。
キング・ゴールデンリザードは、すでにHPを半分近くにまで減らしていた。
「このまま勝ち切れそうだな」
「はいそこ、フラグ禁止」
「ああ、これは勝てるぞ!」
「フラグはやめろって」
そんなことを言いながら、起き上がるキング・ゴールデンリザードに対峙する。
しっかりと陣形を組みなおし、向かい合うメイたち。
するとキング・ゴールデンリザードは、咆哮を一つ。
「「「「ッ!?」」」」
身体に力を込めると、バリッと乾いた音共に、全身の鱗が破れ飛んだ。
斬られた尾が再生し、金地の身体に漆黒のラインが入る。
「だ……脱皮ですか?」
まもりが驚きの声をあげた次の瞬間、王トカゲが動き出す。
その踏み出しは速く、そして勢いは圧倒的だった。
四歩の前進から低い跳躍。
そのままスクリューのように回転して叩きつける爪の一撃が、床石を抉り飛ばす。
「ほら見ろーっ!!」
運良く回避に成功した掲示板組が、あげる悲鳴。
大きく崩れた前衛組に、後衛組が援護に入る。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
「【三連射】【アイシクルエッジ】!」
「【ウィンドバレット】!」
キング・ゴールデンリザードは飛び交う魔法を、低く短い左右への連続跳躍で回避。
メイのような無駄のない動きに、驚かされるレンたち後衛組。
そしてそのまま後衛組の前に飛び掛かり、その勢いに制御が効かず転がる。
「「「うおおおおっ!?」」」
そのめちゃくちゃな体当たりは衝突ダメージだが、それでも陣形を崩すのには十分。
起き上がった王トカゲはその腕を床につけて、体重を一気にかけて押し込んだ。
「「「ッ!?」」」
蜘蛛の巣状に、床が一気に割れる。
これに巻き込まれたプレイヤーたちが、ダメージと共に体勢を崩した。
「うわわわっ!」
「これは……っ!」
メイとツバメも初見の動きに、思わず足を取られる。
すると王トカゲは、動けずにいたプレイヤーたちを前に高く跳躍し、そのまま落下。
ボディプレスを仕掛ける。
「「「うおおおおおお――――っ!」」」
もはや回避は不可能。
慌てての防御も、ダメージは3割を超える。
盛大に突き上がる大量の石片はさらにHPを削り、メイやツバメも転がした。
「【ウィンドバレット】!」
「【フレイムバレット】!」
反撃は、まもりに守られた後衛魔術師組によるもの。
しかし【脱皮】でシンプルに耐久が向上しているため、下級魔法による複数人同時攻撃ではダメージは微細だ。
王トカゲは止まらない。
尾を割れた地面につけて一回転し、土を巻き上げる。
「いーちゃん、お願いっ!」
体勢を立て直したメイが、突風で土煙を飛ばす。
「……いない!?」
しかしそこに、王トカゲの姿はなし。
これには、さすがに困惑する面々。
すると次の瞬間、地面に潜っていた王トカゲが、メイの足元から跳び上がった。
「うわっ!」
大きく突き上げられ、尻もちをつくメイ。
すると王トカゲは近くの木を押し倒し、くわえて投擲。
メイは慌てて立ち上がり、飛んできた木を受け止め回転。
「それええええ――――っ!」
そのまま投げ返す。
うなりをあげて飛来する樹木を、今度は王トカゲが尾による斬撃で斬り飛ばした。
切れ飛ぶ木々の破片の中、一瞬見合うメイと王トカゲ。
「……す、すげえ戦いだな」
残りHPは5割弱。
キング・ゴールデンリザードはメイに向け、砂煙をあげて走り出す。
対してメイも、それに受けて立つかのように前へ。
爪による二度の叩きつけを左右にかわし、低い飛び掛かりを大きなバックステップからのバク転で回避。
続く二度の頭突きを、しゃがみからの後方跳躍でかわすと、迫るのは尾による三連続回転斬り。
「【アクロバット】【アクロバット】からの、【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
銀の弧が描かれるエフェクトの攻撃は、初回時と軌道が違うという脅威。
それでもメイは、これを普通に回避した。
王トカゲの恐ろしい高速連携の締めは、跳躍から。
空中で一回転し、放つ輝く尾の叩きつけ。
全員大急ぎでかわすが、即座に続く横薙ぎ。
縦の回避がやっとの面々は、退避が間に合わない。
「【巨大化】【硬化】!」
これを受け止めたのは、ブロック化したスライム。
それでも3割近いダメージを受ける一撃は、後衛組なら間違いなく死に戻りが多数出ただろう。
だが王トカゲはさらにもう一撃、縦の振り降ろしを叩き込む。
「【不動】【地壁の盾】っ!」
これを弾いたのはまもり。
そして縦の軌道の攻撃が受けられたことで、わずかに跳ねた尾。
これをメイがつかまえた。
「……【ゴリラアーム】」
できるだけそっとスキルを発動し、そのまま一本背負いの動きで王トカゲを地面に叩きつける。
「ここ、一気にいきましょう!」
「――――咲き狂え、雪花の刃【凍花白華】」
「【フリーズブラスト】!」
レンの声に、すぐさま答えたのは樹氷の魔女。
冷気によって白みがかった空間に現れた大量の氷花が、次々に砕け散る。
そこに氷嵐が起こり、王トカゲは飛び交う無数の氷の花びらに切り刻まれた。
だが、これでは終わらない。
「……そこ、その巨体なら100%『踏む』と計算済みでした」
計算君が投げておいた【フレイムマイン】を、体勢を崩した王トカゲが起動。
巻き起こった爆発に、さらに大きくバランスを崩す。
「【オクタブレード】!」
巻き上がった炎の中に、駆け込んでいったのはマウント氏。
さらにそこに金仮面の男と、90年代装備の男も続く。
「【奈落落とし】!」
「我は放つ【白亜の光刃】!」
「【ジェット・ナックル】!」
さらに迷子ちゃんが駆けつけ一撃。
するとその先で待ち受けていたのはツバメ。
「【紫電】」
駆け抜ける電流で、動きを止める。
「あと、よろしくお願いします」
そう言ってツバメがスッと下がると、そこに駆け込んで行くのはスライムとメイ。
「【巨大化】【材質変化・アダマンタイト】【可変・大槌】ぽよーっ!」
「なんだ……あれっ!?」
「あんな巨大ハンマー見たことないぞ……っ!!」
スライムは空中で、巨大ハンマーに変化。
家一軒サイズの巨大槌をつかんだメイは、そのまま全力で振り下ろす。
「【フルスイング】だあああああ――――っ!」
叩きつける一撃は石畳を粉々にして深くめり込み、砂煙を大きくまき上げた。
その迫力に、思わず唖然としてしまう掲示板組。
「……やってないな!」
「ああ、これはやってない!」
「やってないぽよっ!」
即座に、逆のフラグを立てていく。
やがて煙が晴れると、最高の連携を喰らったキング・ゴールデンリザードは、打倒された共闘型召喚獣のように、魔力光に包まれ消えていった。
「やったああああああ――――っ!!」
「「「やったぞぉぉぉぉ――――――っ!!」」」
自然と全員で、拳を突き上げる。
そして嬉しそうに飛び跳ねるメイに、掲示板組が集まって輪ができる。
大物の打倒に、わき立つメイたち。
「……でも、この紋様の召喚がどこかにいる魔物を呼び寄せるものだとしたら、どこから来たのかしら」
そんな中でレンは、他にもこれだけ強いトカゲのボスが出るクエストが他にもあったのかと、小さく首を傾げた。
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