977.ターゲットモンスター
「メイちゃんの植物攻撃すごかったな!」
「あ、危うく喰われてしまうところだった……」
「半裸に金の仮面のやつは、植物から見ても不審だったんだろうな」
「「「あはははははっ」」」
密林と化したフロアは、やがて石床の割合が目立つ区画に入る。
木々の数も減り、下草も短いものになった。
メイたちは楽しそうに、続く道を進む。
「あっ、この足音の感じ……レンちゃんたちだ!」
メイの耳が捉えたのは、複数人が走る音。
「レンちゃーん!」
「【魔力剣】ッ!」
やって来たレンたちを追ってくる、人面鳥はハーピー。
レンは振り上げる魔力の刃で、敵の攻撃を早めにけん制。
「【三連射】【アイスクルエッジ】!」
するとすぐさま樹氷の魔女が、避け際のハーピーを攻撃。
体勢を崩したところを狙うのは、迷子ちゃん。
「【ジェット・ナックル】!」
強烈な一撃が決まり、弾き飛ばされるハーピー。
見事な打倒劇だ。
「合流できてよかったー!」
「お見事でした……!」
すぐさま笑顔で駆け寄る、メイとツバメ。
「メイ、ツバメ……」
一方のレンは、深く深く安堵の息をつく。
「すごく緊張したわ……はいそこっ! 【ファイアウォール】!」
「あちちちちっ」
「確保ーっ!」
「了解した!」
「はひっ!」
「「「…………?」」」
ちょっと迷子ちゃんが離れた瞬間、突発的に炎の壁を張ったレン。
すぐさま迷子ちゃんを確保する、樹氷の魔女とまもり。
その見事な統制に、唖然とするメイとツバメ。
「……理由はなんとなく、分かるぽよ」
「まあ、そういうことだろうな」
「お疲れ様という言葉が、100%適切でしょう」
迷子ちゃんの引率をしてここまで来たレンの苦労が想像できて、運搬組は深くうなずく。
「ハーピーを見たのは、初めてです」
一方ツバメは、めずらしい敵に興味を持ったようだ。
「なんか紋様の仕掛けで、ターゲットになったプレイヤーに合わせた敵が召喚されたみたいなのよ」
「わ、私に合わせた敵ということで、基本空中移動で羽の全方位攻撃を使う敵が出てきたようです」
「変わった仕掛けですね。ともかく全員合流できてよかったです」
「本当だな」
「これでまた楽しくなりそうだ」
「うんうんっ」
これにはメイも、大きくうなずく。
無事に全員が合流できて、早くもウキウキだ。
こうしてメイたちと掲示板組は合流し、石と緑の道を歩き出す。
すると再び、足元に紋様が現れた。
「今度は紋様が大きい?」
それを見たレンが、驚きの声をあげる。
しかも紋様が現れたのは、メイの足元。
「メイちゃんとの共闘か……! さあ敵はどんなやつだ!」
「このメンバーなら、何が来ても問題なしだな!」
「さあ、何が来る!?」
「楽しみかもっ」
掲示板組は盛り上がり、メイはさらにテンションを上げる。
「この大きさ、今度はボス級だわ……っ!」
その陰の大きさに、思わずわき立つ。
期待と興奮の中、紋様の召喚に呼び出されたのは――。
「え、ええ、ええええええええ――――っ!?」
メイは思わず驚きの声をあげる。
「……キング・ゴールデンリザード」
現れたのは見覚えのある、黄金の大トカゲだった。
「でも以前のとは少し違う……こんな個体がいたの……!?」
「速い……っ!」
動き出す王トカゲ。
匍匐前進のような移動は、明らかに以前より速い。
「くるぞっ!」
華麗な高い跳躍から、身体を半回転。
長い尾を叩きつけにくる。
石床を切り裂き、深くめり込んだ尾は石片を飛ばす。
回避に成功した前衛組は反撃に動き出すが、大きなモーションにも関わらず隙は微小。
ゴールデンリザードは尾を右に払い、即座に左へ払う。
「くっ!」
二発の攻撃を慌てて防御するが、その威力によって大きく弾かれた。
「間違いなく、パワーも上がっていますね……!」
速い上に強い。
思ったよりも大きく削られたHPゲージを見て、思わずつぶやくツバメ。
「【フレイムバレット】!」
「【ウィンドストライク】!」
両者の間に生まれた隙間に、即座に挟む魔法。
しかしこれを速い移動でかわして、ゴールデンリザードは接近。
「くるぞっ!」
真っ直ぐの特攻は【体当たり】だと踏んだ前衛部隊は、真上への跳躍で回避を狙う。しかし。
「なっ!?」
突撃ではなく、急停止からの一回転。
そして回転攻撃は、跳躍の着地際への攻撃となる。
「しま……っ!」
着地際を狙う、払いの一撃が迫り来る。
「【かばう】【不動】【地壁の盾】!」
この攻撃を、その場に停止するスキルの特性を利用して、まもりが受け止めた。
「「「うまい……っ!」」」
これにはレンだけでなく、掲示板前衛組も思わず声をあげる。
「【バンビステップ】!」
そこに駆け込んでいくのはメイ。
まもりがしっかり防御を成功させたことで、後方から駆け出してきたメイは、王トカゲに剣を叩きつける。
「【フルスイング】!」
するとゴールデンリザードの鱗の色が黒銀に変わり、メイの剣による一撃は1割以下のダメージに収まった。
反撃は尾の回転。
これをメイが後方への跳躍でかわせば、最初の接敵が終わる。
「やっぱり、こっちの情報に合わせた個体が呼び出されたみたいね」
「この速さに加えて防御にも自信あり、なかなか大変です」
身体能力の高さによる回避と短い硬直時間を武器に、とにかく物理攻撃を仕掛けてくるタイプの敵。
その勢いに飲まれたら、そのまま敗戦一直線といった感じだろう。
わずかな静止時間を置き、王トカゲは再び動き出す。
その狙いはツバメだ。
高速移動から放つのは、シンプルな【頭突き】
これをバックステップでかわすと、続けざまにもう一発。
ツバメも二連続の後方移動で回避する。
するとそこから続くのは、【低空飛び掛かり】
その距離は【頭突き】よりも長く、バックステップでは着地際を狙われる。
「【スライディング】!」
ツバメは上手にこれをかわすが、王トカゲはツバメにこだわらない。
飛び掛かりの勢いのままに突進。
進む先には、掲示板組の陣がある。
王トカゲは両腕で床をしっかりつかむと、長い尾を縦の軌道で振り下ろす。
「回避ぽよっ!」
掲示板組はすぐさま陣を割り、尾の叩きつけをかわす。
すぐさま続く、横の軌道の振り払い。
すると前衛の重装組が一歩、前に出る。
「防御だああああ――っ!!」
全員が盾を構えて、腰を下ろす。
「【硬化】ぽよっ!」
さらにスライムが広がり壁になり、振り払われた尾の一撃を、体勢を崩されながらも押し留める。
前衛チームは、後衛への攻撃をしっかりと防いでみせた。
「やっぱり、以前より攻撃が激しいのに、動きは洗練されてるわ……!」
王トカゲは止まらない。
突然その体勢を、グッと下げる。
「これって……!」
続くであろう攻撃を予期したレンは、掲示板組がダメージを受けることを覚悟。
せめて追撃を受けないよう、魔法の準備をするが――。
「この感じ……ボディプレスですっ!」
「ボディプレスの可能性、98%っ!」
「走れぇぇぇぇっ!」
掲示板組、ほとんどの顔ぶれが次撃を予測。
速い動き出しで、なんと全員が真正面に全力疾走。
ボディプレスの下を潜る形で、回避に成功した。
「その攻撃は、ジャングルクエストでメイちゃんが『下』を駆け抜けたのを、みんな見てるんだよ!」
「そういうことぽよ!」
「まだだ! 直後の回転に気を付けろ!」
続く攻撃まで予想して、しっかりこれを回避した。
「ぜ、全員で回避しました……っ」
「すごーい!」
人数が多くなれば、必然的に落ちるはずの統制。
しかし掲示板組は乱れない。
「【フレイムバレット】!」
「【ウィンドストライク】!」
しっかりと反撃で、削りまで入れてみせた。
「メイちゃんたちが戦ってきたボスの攻撃とか……めちゃくちゃ頭に入ってるからなぁ!」
「特にキング・ゴールデンリザード戦は、原点ぽよっ!」
「そういうことだ」
そう言って笑うマウント氏。
どうやら掲示板組も、かつての戦いを何百回と見てきたことで、敵の動きに対応できてしまうようだ。
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