976.闇の迷子防止魔導士
闘技場のような円形の舞台の中心には、宝珠のはめ込まれた紋様。
踏み込むと紋様が下がり、下階へと進む。
レンはあらためて息をつく。
迷子ちゃんと離れてしまわないよう気を付けながらの戦いは、なかなかの緊迫感だ。
「とはいえ、痺れさせて抱えるには人数が足りない」
四人のうち一人が麻痺、一人がその運搬役となると戦力は半減。
それはさすがに厳しい。
「……二人も隙を見て、裾をつかまえたりして引き留めつつ戦って」
「は、はひっ」
「使徒長の指令とあらば」
「ご迷惑をおかけしますっ」
もはや『使徒長』という言葉に、ツッコミを入れるのも忘れて集中するレン。
「迷子ちゃんは行方不明になりました」という形での合流は、何としても避けたい。
四人が乗った紋様のエレベーターがたどり着いたのは、石柱が並ぶ広い空間。
枝葉に飾られた高い柱が、等間隔で並ぶ道。
部分的に生えた芝生のような下草の上を、四人は真っすぐに進んでいく。
「今度は人狼型。攻撃力と敏捷性でくる感じかしら」
こちらをうかがってくる二足歩行の機械は、4体の人狼型。
武器はその鋭い爪、速い攻撃を得意にしていそうだ。
そして両者が間合いに入ったところで、人狼たちが走り出した。
「【フレアストライク】!」
「【アイシクルエッジ】!」
レンと樹氷の魔女は、同時に迫りくる人狼型の一部をけん制することで時間差を作り、まずは1体だけ引き付けることに成功。
「ウォオオオオオ――ッ!!」
咆哮と共に放たれる爪の振り降ろしの前には、まもりが出る。
「【地壁の盾】!」
難なく弾いたところで、すぐさま飛び込んでいく迷子ちゃん。
「【ジェット・ナックル】!」
高速移動からの正拳突きが蒸気を吹き上げ直撃、先頭の人狼型を消し飛ばす。
さらに突き進もうとする迷子ちゃんの手を、レンはすぐにギュッと引いて強制停止。
まもりと樹氷の魔女と共に、戦いを『受け』の形に持ち込む。
そこに迫るのは3体の人狼型。
「「「っ!!」」」
いきなり跳躍した1体の人狼に驚くも、即座にレンが反応。
「【フレアストライク】!」
見事に炎砲弾で吹き飛ばせば、残る2体に対応するのはまもりと樹氷の魔女。
「【地壁の盾】! 【魔神の大剣】!」
まもりは敵の安易な振り降ろしを受け止め、すぐさま【魔神の大剣】で反撃を決める。
「【氷河烈風】」
樹氷の魔女は両手を合わす形で放つ瞬間的な猛吹雪で、前面氷漬けになった人狼型を吹き飛ばした。
見事な連携で、陣を大きく崩す。
生き残ったのは、防御を選んだ1体。
しかし続け様に現れた第二陣が、駆けつけてくる。
大きく飛ばされた一陣の生き残りもすぐさま駆け出し、敵は計5体に。
大きな跳躍もあると考えると、なかなか侮れない状況だ。
「って、ストップ!」
迷子ちゃんはすでに、敵の方に移動していた。
先行して速い敵を討つ動きは、前衛として見事。
敵の視線を引きつけ戦うことで、こちらの状況を楽にしてくれている。しかし。
これ以上先行されると、見失う可能性が出てきてしまう。
レンは悩んで、手にした杖を迷子ちゃんに向ける。
「はいそこまでっ! 【ファイアウォール】!」
「あちちちっ!」
どうしても見失いたくないレン、ついに迷子ちゃんを逃さないため火の壁を張る。
急停止した迷子ちゃんは、飛び掛かってきた人狼型の【振り降ろし】から走る三本の斬撃を、後方へのステップで回避。
「【マシンガン・ブロウ】!」
爆発的な連打が火花を上げ、ガントレットが排熱するかのように蒸気を吐き出す。
そしてすぐさま、前へ駆け出そうとする迷子ちゃん。
「はいブリザードーっ!」
「ひゃあっ! つめたいっ!」
氷嵐の壁で、再び力づくの急停止。
これによって残る4体の人狼型が回り道をすることになり、レンたちもすぐさま距離を詰める。
すると1体の人狼型が高く跳躍し、拳にエフェクトを走らせる。
そしてそのまま叩きつける拳が爆発を巻く起こし、大きく煙が広がった。
「ば、爆炎で上がる煙って、絶対ダメなヤツじゃないっ!」
「迷子よ、いるな?」
「いますっ!」
「動かないで! 一歩も動かないでっ!」
「はぃっ」
「もうちょっと遠ざかってるじゃない!」
返事の声が小さくなって、大慌てのレン。
「【魔剣の御柄】【解放】!」
直後、煙の中から現れた人狼型の豪快な爪の振り降ろしをかわして【フレアバースト】剣で一撃。
そのまま解放して打倒。
「皆で捕まえて!」
「は、はひっ!」
「了解した」
煙が上がる直前に迷子ちゃんがいた位置に、全員すぐさま駆けつける。
そして見えた影を、慌てて捕まえた。
「「「……………」」」
しかし集まってきたのは、迷子ちゃんを捜して動いた三人。
思わず互いを見つめ合う。
「っ!?」
新たに見えた影に、迷子ちゃんの合流を期待したレン。
だが、現れたのは人狼型。
即座に防御態勢を取るが、見えたのは身体を縛るようなエフェクトの輝き。
「この戦闘中の……魔法禁止!?」
ここにきて受けたまさかの状態異常に、驚嘆するレン。
「それが、どうしたっていうのよ!」
レンは続く爪の振り上げをバックステップでかわして、その手に【魔導経典】を取る。
反撃の流れ、開いたページにあったのは――。
「喰らいなさい! ……【ライティング】」
イチかバチかの勝負に破れ、人差し指に灯る小さな炎。
思わずレンは白目をむく。
「やば……っ!」
続く人狼型の攻撃は、その爪に燃え盛る炎を灯しての一撃。
レンはさすがに、ダメージを覚悟する。
「【ジェット・ナックル】!」
そんなレンの真横を、通り過ぎていく迷子ちゃん。
豪快に拳を叩き込み、そのまま消し飛ばした人狼の後を追う。
「もうっ! 何がどうなってるのよっ!?」
聞こえてくる豪快なサウンドエフェクトに、困惑するレン。
ようやく煙が晴れると、そこには倒れた人狼型たちと、まもりと樹氷の魔女。
戦いに勝利していたようだ。
「ま、迷子ちゃんさんが、助けてくれました!」
「煙の中を駆けるメイドが、暗殺者のように暗躍していた……」
どうやら白煙の中で、迷子ちゃんは他の人狼型たちも片付けていたようだ。
敵の奥義スキルを喰らう寸前に助けられた樹氷の魔女に至っては、安堵の息をついている。
「ていうか、いる!?」
「い、いませんっ!」
慌てて付近を確認するが、すでに姿はない。
「間に合わなかったか……」
消えてしまった迷子ちゃんに、愕然とする三人。
奮闘虚しく、ついに迷子ちゃんが迷子になってしまった。
「……これが、最後の賭け」
しかしレンはそう言って、息をつく。
「さあ、念のための保険は効いてくれるかしら」
そして迷子ちゃんと手をつないだ際に、刻んでおいたルーンを発動する。
「二人とも、上手くいったらここで捕まえておいて! 発動! 【入替のルーン】!」
そして、レンが消える。
すると代わりに現れたのは、迷子ちゃん。
「あれっ、ここは……?」
「ま、迷子さん!」
「さすが使徒長……! こんな形で保険をかけていたとは。あとは合流できるかどうか! 使徒長、我々はここです!」
「ここですっ! 【シールドバッシュ】!」
まもりが盾を床に強く叩きつけることで、鳴り響く音。
迷子ちゃんをしっかりと捕まえたまま、まもりと樹氷の魔女が祈る。すると。
「……まさか【入替のルーン】が、こんな形で役に立ってくれるとは思わなかったわ」
大きく息をつきながら、出入り口から戻ってきたのはレン。
「音での誘導、助かったわ。戦闘は別になんでもないのに、すごい緊張感だったわね」
どうにか全員集合した姿を見て、苦笑いをしてみせたのだった。
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