970.大集結
「……なんだか少し、賑やかな感じかも」
メイの【猫耳】が、異音に気づく。
「王都地下に、クエスト確認のプレイヤーたちがやって来てるんじゃない?」
「おそらくルートはいくつかあると思うので、別の流れで来てるのかもしれませんね」
「なるほどー」
「まもりさんにも、何か聞こえますか?」
「わ、わん!」
「コーギーの状態でも、普通に話せるわよ?」
「っ! す、すみませんっ!」
犬の鳴き声をマネる時でも一度噛んだことに、ちょっと笑うレン。
どうせなら変身が解けるまでこのままでと、メイはコーギーまもりを抱きしめたまま歩く。
その状況にツバメは、微笑ましいやら羨ましいやらの視線を向けるのだった。
◆
「王都に到着だああああ――っ!!」
迷子ちゃんを抱え上げたスライムたちが、王都ロマリアに到着した。
「待ってたぞ! 無事に迷子ちゃんを移送できたんだな!」
「この通りぽよ!」
「ご迷惑をおかけしました!」
さっそく集まる掲示板組。
以前、迷子ちゃんが一人迷い込んだ謎のルート。
そこで見た光景は、エルラトやナディカによく似ていた。
その事を思い出した迷子ちゃんを、居場所特定班と運送班が見事な連携で確保。
こうしてロマリアに集合することになった。
「王都地下のマップを作ってたプレイヤーから、地図をもらっておいたぞ」
「よし、これで準備は万端だな」
「ルートはまだ未確認だけど、行ってみる価値はある。総当たりするくらいの覚悟で勝負だ!」
メイたちとはまた違う、以前使ったルートからあらためて進む形。
しかしこの流れに、誰もが確信めいた予感を覚えていた。
「途中までは敵もそう強くない。まずはとにかくルート探しが大事だ!」
ルートの発見は、とにかく人数が重要。
そうなれば、初級者も重要な戦力だ。
一気に高まっていく、王都地下への熱意。
「行け行けー! ワールドクエストは地下にある!」
「とにかく地下を駆けめぐって、気になったところは全部突き進むんだ!」
「今まで迷子ちゃんしかたどり着いてないような場所だ! 探索は道に迷うくらいでちょうどいいぞ!」
「すげえ……! 王国がこんなに騒がしくなるのは、獣の王との戦い以来だな!」
掲示板による情報拡散から始まった、王都集結。
ロマリアの街にはすでに、大量のプレイヤーが集まってきていた。
いくつもある地下への出入り口には、様々な装備をしたパーティが座り込み、スキルやアイテムなどの確認をしている。
マーちゃんを中心にした商人たちも集まり、対応も万全だ。
そんな光景にワクワクしながら、プレイヤーたちは地下に降りていく。
「メイちゃん追従部隊、出動だ!」
「「「おうっ!!」」」
暗い地下を、大量のプレイヤーが突き進む。
「…………ん?」
そんな中、その道に最初に気づいたのはレベル18の剣士だった。
まさにメイたちによる盛り上がりに誘われてやってきた、新規プレイヤーだ。
「おい! これじゃないか!?」
簡素だが手前に目立つ罠があるため、回避しようとすると、その陰にある道に気づけない。
マジシャンが行う視線誘導の方法で隠された、青銅の配管。
そして高レベル向け区域ではないため、『慣れた』プレイヤーは通らない場所。
そこはまだ、地図にも載っていない。
「6地区の12番付近に、未確認ルートの可能性ありだ!」
メイたちが見つけて以来、マップ作りを好むプレイヤーが王都地下も地道にマップ作成していたため、すでに『地区』と『番地』まで振り分けあり。
「6地区の12番付近に、未確認要素あり!」
あっという間に、伝わっていく情報。
最初に集まってきたパーティは、低レベルのプレイヤーたち。
新たな道を前に、今回の重要参考人である迷子ちゃんの到着を待つ。
「この感じ、覚えがあります……!」
低レベルパーティが開いた道に、大急ぎでやって来た迷子ちゃん運搬組。
青銅製の配管を見た迷子ちゃんは、大きくうなずく。
「進むぽよっ!」
「今はとにかく、使徒長たちを追うことが全てだ。可能性があるなら進むのみ」
「……俺のメイちゃんレーダーも、反応してきた」
「ならば出会う確率も上がってきますね」
迷子ちゃん運搬組は、迷子ちゃんを囲むようにして青銅の配管内を進む。
「皆さん、これを持っていてください」
「これは……【痺れ針】ではないか」
「どういうことぽよ?」
「はい。動けなければ迷子にもなれませんから……っ!」
「「「っ!?」」」
とんでもないこと言い出す迷子ちゃんに、皆噴き出す。
「な、なあ! この水音、外に流されるタイプの罠じゃないか?」
そんな中、追従の初級者が気づく。
聞こえてきたのは、激しい水流の音。
配管内を水で洗い流す罠は、そのままプレイヤーを外部に排出する可能性が高い。
「横道に逃げるぽよ!」
「横道だ! 横道に駆け込め!」
慌てるプレイヤーたち。
しかし迷子ちゃんは、足を止める。
「どうしたぽよ!? このタイプの罠は、逃げないと即死か外部に流されるぽよ!」
「……青銅の配管内で、水に流された覚えがあるんです」
「本当ぽよ……?」
「はい」
「……い、いくぽよっ! このまま流されて、先に進むぽよ―っ!」
迷子ちゃん運搬組は全員で迷子ちゃんをつかみ、そのまま水流に流される。
残されたプレイヤーも逃げ切れずに飲み込まれ、進む配管の中。
必死に流されるルートを確認しながら進行。
流されついた先は、使われてない地下水路の一角。
古い石積みと、水流だけの空間だ。
「……生きてるぞ! これは何かありそうだな!」
「やっぱり、この水路にも覚えがあります!」
「俺たちは引き返して、ルートを教えてくる!」
「お願いするぽよっ!」
さっそく初級者勢が、ここまでのルートの報告に走る。
迷子ちゃん運搬組は、記憶を頼りに静かな水路を進む。
並んだ魔法珠のランタンの中を進んで行くと、水路の下に潜るような道に続く。
そこからは広い一本道、その大きさは地下鉄のプラットホームほどか。
そして最奥には、両開きの大きな岩扉があった。
「これか……」
マウント氏はその光景に、深くうなずく。
「この作り、やはり遺跡を思い出すな」
樹氷の魔女はそう言って、静かに紋様ブロックの扉に触れた。
扉には、その半分以上を覆う植物の枝と葉。
「【凪一閃】!」
マウント氏の放つ振り払いが、枝を斬る。
「【三連射】【アイシクルエッジ】」
さらに樹氷の魔女が、氷の刃の三連発で続く。
「【砲弾跳躍】ぽよ!」
さらにスライムの突撃まで続いても、扉に動きはなし。
「ほとんど無傷か……このままでは進めそうにないな」
固く閉じられた扉。
どうやらたどり着いただけでは、先に進めない場所のようだ。
「そこで、これが役に立つのではないかと思いまして」
そう言って迷子ちゃんが取りだしたのは、ラプラタでツバメから受け取った【剪定ばさみ】
そっと近づき、枝の一つを斬る。
するとヒモが解けていくように、扉に絡みついていた枝が一斉に引いていく。
そしてそのまま迷子ちゃんは、両開きの扉を押してみる。
すると、鳴り始める重たい音。
紋様の描かれた大きな扉が、ゆっくりと開いていく。
「……ついにきたな」
重厚な扉が、地面を揺らしながら開いていく光景は、圧巻の一言。
「別の遺跡で得たアイテムが、こういう形で活きるんですね」
「これはもう、間違いないぽよ!」
「ここがクエストの入り口か。いよいよ始まるんだな……!」
「私たちはこの場所の情報の伝達に向かいます! トップ含め皆が集合できるように!」
「よろしく頼むぽよ!」
「お願いします!」
見つかった、三つ目の門へのルート。
この場所を目指して、集まってくるプレイヤーたち。
こうして掲示版組は、地下深部に踏み込んだ。
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