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967.本番

 必要な盗みは、まさかの二回。

 その事実に呆然とするツバメに、怪盗は笑いかける。


「君の見事な盗みの腕を、また見せて欲しいと思ってね」

「何者かに記憶を改ざんされてるわよ。もしくはキノコに記憶中枢をやられたか」


 ツバメの【スティール】を、『見事な腕』と言った怪盗。

 帝国での記憶が何者かに書き換えられてるとしか思えない言葉に、さすがに言わずにはいられない。


「……分かりました。帝国でのスティールを見てまだ私にということであれば、応えたいです」


 しかしツバメは、大きく息を吸い覚悟を決める。

【スティール】には、立ち向かわなければならない。

 するとレンが、一歩前に出た。


「ツバメ。大した変化はないかもしれないけど、これを持っていて」


 手渡したのは【真っ赤なリボン】

 長らくレンが着けてきた装飾品は、わずかに【幸運】が上昇する。


「乱数を変えるなんてことを考えるくらいだし、【幸運】の数値が違えば何かが変わるかもしれないでしょう」

「レンさん……」

「ツバメちゃん、これも使って!」

「ステータス上げの果実ですね。ありがとうございます」


 ツバメは三つ【桃】をかじって、さらに【幸運】をあげる。


「あ、あの、良かったらこの装飾品もどうぞ……っ」

「まもりさんまで、ありがとうございます」


 そしてまもりからは、【祝福のストール】を渡される。

 こうして大きく【幸運】をあげたツバメは、気合を入れ直す。


「皆さんの思い、確かに受け取りました。必ず、盗んでみせます……!」

「さあ行こう! 狙いはあたしたちで隙を作って、その隙に【スティール】を決めてもらう形だよ!」

「りょうかいですっ」


 紋様の描かれた広い部屋の中心には、石柱。

 石柱の中央部に掘られた紋様の起点にはめこまれた菱形の魔法石は、その半分が石柱に埋まっているため、手で外すことができない。

 そのため【スティール】が必要になるようだ。

 しかしこの部屋、床には円形の溝が無数に引かれ、召喚陣も柱の左右に二つあり。

 天井にも、魔法珠が埋め込まれている。

 妨害が入ることは間違いない。


「さあ行こうか。皆はあたしといっしょに妨害を止めてね! よーい、スタート!」

「【加速】【リブースト】!」


 ツバメはいきなり最高速で突入。

 全ての仕掛けを置き去りにして、石柱の前へ。


「世界の崩壊を防ぐため。皆さん思いを乗せたこのスキルで盗みを成功させます! 【スティール】!」


 熱いセリフ、そして見事な回避から放つ最高の【スティール】

 そして空っぽの手。

 今回もツバメは見事、華麗な失敗でスタートを切った。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」


 即座に【スティール】を連発し、勝負に出るツバメ。

 すると右側の召喚陣から現れた古代剣士ガーゴイルが、剣を手に襲い掛かってくる。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」


 ツバメは攻撃を右に左にかわしながら、【スティール】を連発。

 すると左の召喚陣から現れた重戦士ガーゴイルが、斧で大きな払いの一撃を放つ。


「【かぼう】【地壁の盾】!」

「【フリーズストライク】!」


 まもりが防御に入り、レンが魔法を撃つ。

 重戦士ガーゴイルは、粒子になって消えた。


「【トリックピアース】!」


 この隙に古代剣士ガーゴイルを、怪盗が突き刺し打倒。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 さらに天井の魔法珠が放つ、魔力光線。

 これをツバメは、細かな足の動きで回避して【スティール】に戻る。

 しかし敵がいなくなると途端に、足元の溝から伸び出すツル植物。


「っ!」


 天井に向けて伸びるツルが檻のようになり、ツバメを【スティール】の範囲外へ遠ざける。


「道を開けてくださーい!」


 メイはここで【密林の巫女】を使用。

 するとツル植物たちは一転、ツバメの前に道を開いていく。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 ツバメは再び【スティール】乱舞を続ける。

 ここでまた、召喚陣からガーゴイルが浮かび上がってきた。


「なるほどね、パターンが見えてきたわ!」


 この仕掛けはどうやら、最後のツル植物でプレイヤーを捕まえ、そこにガーゴイルと魔法珠による攻撃を入れようという形式のようだ。


「そういうことなら! 【魔力剣】!」


 レンは【低空高速飛行】で先行して、ガーゴイルたちを斬る。

 そしてそのまま、二つの陣の直上に【氷結のルーン】を設置。


「【クイックガード】【天雲の盾】!」


 続けてまもりが魔法珠の攻撃を防御して、ツバメが回避に使う余計な時間をカット。


「道を開けてくださーい!」


 最後に再び伸び出したツル植物を、メイが誘導する。

 本来であればドンドン植物が増えて邪魔になり、ガーゴイルが増え、さらに魔法珠に狙われるという厳しい仕掛け。

 メイたちは効率化を図り、手数を絞っていく。


「ここからは簡単ね。はい、凍って!」


 3ターン目、出てきたガーゴイルはルーンで生まれた氷剣に刺されて即打倒。

 ここでまたルーンを設置しておけば、ほとんど永久機関状態だ。


「【天雲の盾】!」

「止まってくださーい!」


 続く宝珠の攻撃には、まもりが対応。

 メイも剣を誘導灯のように振って、ツル植物を避ける。

 こうして怪盗が何もしなくても、ツバメがひたすら【スティール】を続けられる環境を構築した。

 新たな敵が出る度に怪盗がぴくっと動きかけるが、早々に片付けられてしまうためすぐ戻る。

 怪盗は無事、置物に。


「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

「発動!」

「【天雲の盾】!」

「道を開けてくださーい!」

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」


 終わらない【スティール】との戦い。

 響き渡るツバメの声が、だんだんお経のように聞こえ出す。

 するとまもりは自分のターンが終わったところで、小走りでツバメのもとへ。


「どうぞ……!」


 そしてマラソンの給水のように、持ってきたマカロンを差し出した。


「【スティール】【スティール】ありがとうございます【スティール】【スティール】おいしいです【スティール】【スティール】」


 そこからは皆、自分の仕事を正座で待ちながら、ツバメの【スティール】を応援する。


「左手で盗みながら、右手で食べられるようなスキルが欲しいですね……! 【天雲の盾】!」

「確かにそうかもっ。道を開けてくださーい!」

「とんでもなく強欲なスキルね、食べつつ盗むって……発動!」

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】」

「……レンちゃん、他にも何かできることはないかな」


 ひたすらに虚無顔のツバメを見て、メイが問いかける。


「今回は【幸運】も上げてるから、できることはちゃんとしてるのよね……だからあとは気持ちの問題」

「お、応援するというのはどうでしょうか」

「いいと思いますっ!」

「そうね……ツバメ」

「【スティール】【スティール】スティー……レンさん?」

「もっと肩の力を抜いて。ツバメだったらできるわ」

「は、はひっ、これまでどんな強敵も乗り越えてきた、ツバメさんならできますっ」

「まもりさん……」

「ツバメちゃんならできるよっ! 楽しくいきましょうっ!」

「メイさん……っ!」


 まるでカットインのように続いた、友情の確定演出。

 三人の言葉はツバメを感動させ、その手を止めた。


「……そうですね。私は忘れていました。盗めるかどうかだって、楽しさなんだということを。ただひたすらに【スティール】を連呼する機械になるのではなく……楽しまなくてはっ!」


 取り戻す黒目。

 ツバメは髪に付けた【真っ赤なリボン】に触れると、穏やかな笑顔で、あらためて【スティール】に向かう。

 もはやそこに、義務感も使命も焦りもない。


「いきます」


 初心に戻ったツバメ。

 澄んだ湖面のように静かな心持ちで、熟練の盗賊を思わせるクールな盗みを決める。


「――――【スティール】」

「……思い一つで、不運は変えられないのね」


 うんともすんとも言わない【スティール】に、静かに目を閉じるレン。

 ぴくぴくしている怪盗の姿が、とてもシュールだ。


「【スティール】【スティール】【スティール】! 【スティール】【スティール】【スティール】! 【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】ッ!!」


 ツバメの声はひたすら、魔法石の間に響き渡る――――。

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― 新着の感想 ―
[一言] スティール地獄再び(笑) 実は使い捨てのスティール確定アイテムとか有ったりしたら、ツバメちゃん、喜ぶだろうか?それとも膝から崩れ落ちるだろうか?
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