964.最後のキノコ
「よいしょっと」
「ありがとうございました」
「いえいえー」
【酩酊】のツバメは、メイに抱えられて吹き抜け穴を降下。
ちょっとした役得に、メイの肩を降りてもほほ笑みを浮かべたままだ。
こうして四人は無事、下階へとたどり着いた。
「ここも変化はなしね」
たくさんのキノコと胞子に埋め尽くされた、石造りの空間。
胞子がホコリのようにふわふわ舞う中を、四人はゆっくりと進行する。
「……妙に静かな、広い空間が続く感じですか」
「何かが待っているかもっ」
「そう考えるのが自然ね」
「あ、手の【部分痺れ】が直りました……っ」
ここで最初に、まもりの状態異常が回復。
安堵の息と共に、盾を装備する。
「っ!」
すると突然、メイが上方を向いた。
そこには吹き抜けではなく、老朽化による崩落で生まれた穴。
そこから何かが飛び降りてきた。
ドーンと、揺れる足元。
「え、えええええええーっ!?」
現れたのは、二階建ての一軒家並の高さを誇る大型マタンゴだった。
大マタンゴが『ボン』と身体を一度ふくらませると、大量の胞子が噴出。
「「「「っ!」」」」
思わず顔を隠すような姿勢を取る四人。すると。
「わー! 身体にキノコが生えてるよ!」
「HPが吸われてます!」
「そういう戦い方もあるのね!」
肩や頭、腕や背中に見る見る生えていくキノコが、HPを猛烈な速度で吸っていく。
これは『状態異常』ではないのか、メイの肩にまで三本のキノコが生えていた。
「こ、このキノコ、抜けません……っ」
今までに見たことのない攻撃に、驚くメイたち。
「「「「っ!!」」」」
するとさらに、付近に生えたキノコたちが光を放ち次々に爆発。
吹き抜ける突風に、慌てて身を低くする。
その隙に大型マタンゴは、大きく跳躍。
そのまま圧し掛かりにくる。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
メイは、まもりとレンの手を引き回避。
ツバメも明後日の方向に駆けることで難を逃れる。しかし。
「転がってくるの――っ!?」
そのまま倒れ込んだマタンゴは、キノコの下部に当たる石づきを中心に一回転。
「わっはー!」
メイとレン、まもりを弾き飛ばした。
「【スライディング】!」
笠と石づきの高低差によって生まれた隙間を、ツバメは運良く通過。
起き上がりと同時に、イチかバチか千鳥足のまま走り出す。
「【雷光閃火】!」
そしてさらに、短剣の刺突に成功するが――。
「っ!?」
その弾力を前に、刃が刺さらない。
ごく少ないダメージを与えただけで、ツバメは強く押し返されゴロゴロと転倒。
「メイはどこっ!?」
「はいっ」
「どれよ!?」
レンはすぐに『魔法撃ち返し攻撃』を狙おうとするが、【幻覚】のせいで「はいっ」と手を上げたメイが四人もいて困惑。
【幻覚】は、大マタンゴすら味方に見せている。
さすがにイチかバチかの攻撃はできず、魔法の使用を控えることに。
「つ、次の攻撃、来ますっ!」
この隙を突き、大マタンゴは大きくふくらむ。
そして付近が黄色く煙るほど、大量の胞子を放った。
「「っ!」」
すると【酩酊】の効果で上手に走れなかったツバメと、足の遅さゆえに回避ができなかったまもりがこれを被弾。
さらに身体からキノコが生え、HPの減少速度が上昇。
大マタンゴはツバメを狙って跳躍し、【圧し掛かり】で追撃を狙いにきた。
「【かばう】【地壁の盾】!」
これを受けたのはまもり。
「「っ!」」
ダメージは回避できたが、二人して弾かれ転がった。
大マタンゴは攻勢を続ける。
再び大きくふくらむと、噴き出した大量の白い胞子が、次々に小型マタンゴを生成。
駆け出した小型のマタンゴたちは、そのまま突撃してくる。
起き上がりにモタつくまもりは一転、窮地に追い込まれた。
「【瞬剣殺】!」
ツバメが前後不覚のまま放つ空刃で、これを上手に斬り払う。
円形の範囲攻撃によって、小型マタンゴたちの突撃を遅らせた。
「ありがとうございますっ! 【地壁の盾】!」
この隙に起き上がったまもりは盾で突撃からの【炸裂】を受けとめる。
だが小型マタンゴたちは、止まらない。
容赦なく突撃からの炸裂を仕掛けてくる。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾っ!」
次々に駆け込んでくるマタンゴたち、大型の本体はさらに胞子を噴き出そうとふくらんでいく。
「そ、そういうことでしたら……っ! 【不動】【コンティニューガード】【地壁の盾】――――【溜め防御】!」
ここでまもりは、新スキルを発動。
左手の盾による防御に集中し、右の盾を大きく引いた。
次々にぶつかっては、炸裂していく小型マタンゴたち。
その度に吹き荒れる衝撃にも、じっと我慢。
「いきますっ!」
まもりは防御を続け、十分に『溜め』ができたところで、掲げた右手の盾を全力で振り下ろす。
「【シールドバッシュ】!」
「「「ッ!?」」」
敵の攻撃を防御している間に、次の攻撃を『溜める』このスキル。
その火力に皆、思わず目を見張る。
前方に巻き起こった衝撃波は地を駆け、一発で小型マタンゴたちを一掃した。
「【シールドバッシュ】であの火力……面白くなりそう!」
思わず笑みがこぼれるレンのもとに、駆けてくるメイ。
「レンちゃんっ!」
「お願いできる? 【入替のルーン】!」
対象をメイにしてルーンを発動。
すぐにメイが走り出し、一直線に大型マタンゴのもとへ。
「【バンビステップ】!」
そして二度の【踏みつけ】をかわしたところで、声をあげる。
「いまですっ!」
「ルーン発動!」
メイに入れ替わる形で現れたのはレン。
この状況なら、攻撃対象を間違えることはない。
目前に見える、まもりの格好をした大型マタンゴに杖を突き出す。
「【フリーズブラスト】!」
ゼロ距離で放つ氷嵐で、そのまま大マタンゴを吹き飛ばした。
「メイ! 照準をお願いっ」
「りょうかいですっ!」
ゴロゴロと転がっていった大マタンゴが起き上がる。
その時すでに、メイはレンを後ろから支えるような形で、照準を合わせていた。
「……レンちゃん?」
レンがすぐさま追撃に入らなかったことに、メイは首を傾げる。
「多分次は胞子がくると思うんだけど……どう?」
「きたよっ!」
すると大マタンゴはレンの予想通り、付近一帯が白く煙るほど大量の胞子を噴出。
「この時を待ってたわ!」
レンは勝利を確信する。
「その胞子噴出を利用させてもらうわ! 【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
放たれた超高速の炎弾は、そのまま大マタンゴに直撃して、後方に火の粉をまき散らす。そして。
巻き起こる、粉塵爆発。
「「「ッ!?」」」
猛烈な勢いで吹き上がった炎が、爆発と共に広い範囲を焼き尽くした。
「すごーい……」
見れば壁一面のキノコや胞子は全て焼き尽くされ、黒ずんだ石壁の空間に早変わり。
一撃でHPゲージが消し飛んだ大マタンゴも、粉々になって消えた。
「手前で粉塵爆発の仕掛けを見せたのは、ここで利用できるからだったのですね」
「レ、レンさんすごいです……っ」
レンは指先に残る炎を噴き消し、余裕の笑みを見せるレンは、そのままメイと抱き合う。
ここでようやく、状態異常から解放。
身体に生えていたキノコもボロボロと崩れ落ち、無事に大マタンゴの打倒に成功した。
「あれは何かしら?」
すっかり胞子やキノコが消えた空間の端に、残された一つの輝き。
拾い上げると、それは小さな鍵だった。
「フフフ、これはツイてたわね。炎で焼き尽くす形じゃないと、見つけられなかったと思う」
そう言って、笑うレン。
「フフフフフ……」
「レンちゃん?」
「フフフフフフフ……」
「レンさん?」
「何か最後の最後に【笑い】にかかってるんだけど! しかも私のだけ笑い方が違う!」
まさかの『闇の魔導士笑い』に、愕然とするレン。
そんな姿に笑うメイたちは、無事キノコマップを抜け、さらなる深部へ足を伸ばすのだった。
誤字脱字やメモ残りのご報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




