962.王都地下を進みます!
「それでは、地下を進みましょうっ!」
見つけた王都地下の新ルート。
準備も無事終了し、再集合した四人。
メイが「おーっ!」と拳をあげると、レンたちも手にした武器を掲げる。
「これでここではなかったら、ちょっと恥ずかしいですね」
「その時はしれっと戻ってきましょう」
「は、はひっ」
四人は笑いながら枯れ井戸の中へ。
枝葉の檻を切って、続く道へと進む。
「でも、まもりの魔神の大剣を『当たりが出るギリギリまでハズレを出しておく』っていう準備には笑ったわね」
「だ、だいたい五連続で外したところで止めておきます」
そんなことを話しながら進む、石積みの地下道。
合間合間に埋め込まれた結晶灯篭が、橙の輝きを灯している。
「前の時とはまた、地下の雰囲気が違うねぇ」
「もともと遺跡があった場所の上に、王都を作ったんじゃないかしら」
「なるほどー」
「旧文明には、『ゼティアの門』を持つ国が三つあった。王都はその旧文明の一つを基盤にしたという感じですか」
「そう考えるのが自然でしょうね」
かなり広大だった、王都イベントの地下通路。
その時にはつながっていなかった場所、さらなる深部。
やはりワクワクが止まらない。
メイはさっそく尻尾をブンブン振り、それを見たツバメとまもりが頬を緩める。
ぶつかったのは、一つの下り階段。
石畳の床から、そのまま下っていくような作りをしている。
「……これはいきなり、きな臭いわね」
「こういう感じのダンジョンは初めてです」
踏み込もうとして、思わず一言。
階段には、カビのようにふわふわした乳白色の何かがびっしり。
そっと足を乗せると、粉がふわりと舞った。
「キノコ畑だ……っ!」
階段を降りた先、広がる石積みの空間には、胞子とキノコが隙間もないほどに生えている。
キノコは人間並みの高さのものから、椎茸くらいのものまで様々。
密集しているところもあれば、分散しているところもあり。
丸々とした形のものが多いせいか、どこか可愛い雰囲気もあるが、これだけ集まるとさすがに薄気味悪い。
「「「「…………」」」」
自然と、足並みがそーっとになる。
四人はなぜかここでもレンを先頭に、一歩ずつ前へ。
「「「「ッ!?」」」」
すると、しばらく進んだところで足元にあったキノコが突然爆発。
大量の白い胞子をまき散らした。
「いったん下がりましょう!」
しかし振り返った先のキノコも、また炸裂。
今度は目の前に、黄色い胞子が放出される。
振り返ったレンは後ろのメイをグイグイ押して、飛び交う胞子をかき分けキノコの少ない場所まで下がる。
「これ絶対何かあるやつでしょ! 見た感じ、奥の方でも黄色っぽい粉が噴き出してた。それぞれで状態異常を引き起こすって考えるのが普通だわ。メイ、とりあえず【原始肉】を使っておいて」
「りょうかいですっ……でもレンちゃん」
「どうしたの?」
メイは取りだした大きな【原始肉】を齧りつつ、告げる。
「さっきから話しかけてるそれ……大型のキノコだよ」
「…………」
早くもレン、【幻覚】にかかる。
「私も視界が揺れ出しました。これは【酩酊】ですね……」
「わ、私も【部位痺れ】でしょうか。腕が動きません」
胞子直撃のレンとツバメは、ハッキリと重めの状態異常だ。
「ある程度進んで、戻るには厳しくなってから状態異常に追い込む。これはなかなか厳しい仕掛けね」
こうしてレンがまた別のキノコに、苦笑いを向けた瞬間だった。
「ああっ、敵が来るよ!」
メイが迫る足音に気づく。
やって来たのは、大型のキノコに短い手と足が生えただけの濃桃色のマタンゴが五体。
四人はすぐさま並び、戦闘態勢に入る。
「落ち着けば、攻撃を当てるだけなら可能なはず……【電光石火】!」
駆け込んできた戦闘のマタンゴに、ツバメは【酩酊】のまま斬り抜けを仕掛ける。
「むぐっ」
しかし軌道は緩いカーブ。
そのままマタンゴに衝突して、弾かれ転がった。
それを見て、レンはすぐさま援護に入る。
「これは? これはマタンゴで大丈夫!?」
「そ、それはツバメさんですっ!」
しかしツバメがマタンゴに見えてしまい、別の個体に狙いを変更。
「これは? これはマタンゴで大丈夫なの!?」
「そ、それはメイさんです!」
「じゃあこれ! まもりにしか見えないけど! いけるわね!」
「それは私で合ってますーっ!」
慌てるまもりに、「くすくす」と笑うツバメ。
「おまかせくださいっ【バンビステップ】!」
駆け出したのはメイ。
手にした剣を、そのままマタンゴに振り下ろす。
「それーっ!」
しかしバイーン! と、剣が弾かれゴロゴロと後転。
「そ、その色のキノコには、物理は聞かないようですね……っ!」
「くすくす」
「まもり、こいつは良いのよね!」
「は、はひっ! 大丈夫ですっ!」
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
ようやくマタンゴに向けて、魔法を放つレン。
炎弾は見事に直撃。そのまま炎がドンと大きく燃え上がる。
「わあ! 爆発したぁぁぁぁ!」
巻き上がる大量の胞子に、付近が白く煙る。
「くすくすくす」
「ツバメ、今日はよく笑うわね! 確かに面白いけどっ!」
「いえ、勝手に笑ってしまいます」
「そういう状態異常もあるの!?」
キノコならではの異常【笑い】に、レンは思わず驚く。
「しかも状態異常の重ね掛け。これは早く倒さないとやっかいなことになるわ!」
レンはすぐさま杖を取り、マタンゴに向ける。
「そ、それはメイさんですー!」
「っ!」
なんとかレンの手を取ってあげたいが、痺れて動かないためそれも不可能。
レンは、ピタリと動きを止める。
「きゃあっ!」
そうしている間に、まもりがマタンゴの【タックル】を喰らって転倒。
思った以上に大変な状況だ。
しかしこの危機にレンは、一つの攻略法を思いつく。
「そうよ! 今杖を向けてるのがメイなら問題じゃない! 【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
そのまま【ファイアボルト】を、メイに向かって発射。
「そっか! 【装備変更】っ!」
一瞬誤射かと思ったメイ、その意図を察する。
その手に【魔断の棍棒】を握り、レンの放った炎弾を打ち返す。
「いきますっ! それそれそれそれっ!」
マタンゴを狙って打った炎弾は見事に直撃して炎上。
「まだまだ! 【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」
「それそれそれそれっ!」
「もう一回! 【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
「それそれそれそれーっ!」
ピッタリの呼吸で、全ての魔法弾をマタンゴに叩き込む見事な棍棒コントロール。
魔法が次々に炸裂し、噴き出す胞子に視界が遮られる。
しかし残りの一体は、この隙を突き特攻。
レンに突撃を仕掛ける。
「ええええーい!」
それを遮るシンプルなタックルを、横からぶつけるまもり。
転がったマタンゴに、レンが手を向ける。
「いいのよね? これ撃って大丈夫なのよね!? 見た目はツバメだけどいいのよね!?」
「「「だいじょうぶですっ!」」」
「【フレアストライク】!」
三人の声が響き、レンは炎砲弾を発射。
全てのマタンゴが、粒子となって消えた。
四人はようやくの安堵に、笑い出す。
「ふふっ、面白かったわね」
「あははっ、本当だね」
楽しそうなレンに、笑い返すメイ。
「くすくすくすくす」
「お、おかしいですね。あははははっ」
「……まもり?」
「あははははははははははっ」
「一人【笑い】の状態異常が増えてる!」
さらにまもりまで【笑い】を喰らっている状態に気づき、メイとレンが驚愕する。
こうして新たな地下進行は、賑やかなスタートを切った。
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