961.入口
「ありがとうございました。これでニコラスの実を研究に使うことができます!」
そう言ってトミーは、新たな商品を持ってきた。
【栄養剤】:一般的な植物を大きく育てることができる。
「おそらくハウジングで、『この木をそのまま大きくしたい』みたいな時に使うアイテムね」
「メイさんなら、何かしら違った使い方ができそうです」
こうして報酬をもらったメイたちだが、話はこれだけで終わらない。
ドラゴンの襲来は、ミッション判定になっていたようだ。
「そういえば。実は皆さんの活躍以降、時々王都地下にも植物がないか見にいっているのです。そうしたら偶然、見かけない地下への道を見つけたんです」
その言葉に、思わず顔を見合わせる四人。
トミーは拳ほどの大きさのブロックに巻きついた、一本の枝葉を持ってきた。
「これはそこにあった植物を、ひと切れだけ持ち返ったものですが……異常に硬く、火で焼いてもビクともしません。ブロックからはがそうとしても、形状を記憶しているかのように元に戻ってしまう。これまで見てきたどの植物とも違っています」
「このブロック、遺跡みたいな紋様が入ってるね」
「ちなみに、その道はどこにあったの?」
「王都の西端、そこにある地下道です。ただ私が見つけた道は二つの区画を結ぶだけのものでした。ただその隣にあった枯れ井戸は、どこかにつながっているのではないかと思います」
「出てきたわね、情報が。さっそく行ってみましょうか」
「は、はひっ」
こうして新たな情報を得たメイたちは、トミーの言葉通り王都の西端へ向かうことにした。
『旧市街』、そんな言葉が思い浮かぶ古い建物の並び。
寂れた区画には、一つの古井戸があった。
「これは、かなり深そうね」
すっかり丸くなった石積みの井戸は、底が見えないくらいに深い。
このホコリっぽさは、もう長らく使われていない証拠だろう。
そしてそれは、一見すれば何てことのないオブジェクトだ。
「さて、どんなものかしら【浮遊】」
レンは古井戸の縁に立つと、そのまま【浮遊】で下ってみることにした。
メイに手を振り返しながら、ゆっくりと降りていく。
「魔物や罠のある世界で、こういう狭いところを下るのって緊張感高くてドキドキするわね」
照明には、久しぶりの松明。
何かあっても逃げ場のない状況は、緊張感を高めていく。
長い下りは、下手に飛び降りれば落下死してしまうほどだ。
「思った以上に深かったわね」
しばらく降りていくと、すっかり干上がった井戸の底にたどり着いた。
「……なるほど。この結晶が壊れて、枯れ井戸になったのね」
元々は旧文明の噴水か何かだったのか。
よく見ると、井戸の底面に埋められた結晶が割れている。
「それだけじゃない。この紋様、間違いないわ……」
そしてすっかり砂やホコリで汚れた壁を払うと、そこには紋様入りのブロック。
壁に触れるとブロックが動き出し、隠し通路を開いた。
「魔力の高さで反応する感じかしら。発見には遺跡のシステムを知っている上にレベルも求められる。そんな感じね」
レンはワクワクに笑みを浮かべながら、杖を掲げる。
「それじゃあまずは……【魔砲術】【ファイアボルト】!」
真上に向けて放つ『炎』は良し、『氷』は悪しの合図。
「よいしょっ【ターザンロープ】!」
まもりとツバメを抱え、途中まではロープ。
そこからは一気に落下。
メイは二人を抱えたまま、気合の着地を決めた。
「おまたせしましたっ」
「隠し通路があったわ。しかも紋様入りの」
「おおーっ!」
「さっそく中を、確認してみましょうか」
四人はそのまま、古い紋様ブロックの道を進む。
たどり着いたのは、一つの部屋。
これまでの遺跡よりも古い雰囲気の部屋には、木製のデスクと数脚の椅子。
その上には、忘れ去られた一つの木箱が置かれていた。
「さて、中身は何かしら」
「なんでしょうか」
「ドキドキしちゃうねっ」
「ご、ごくり」
松明を掲げると、皆集まってくる。
期待と共に向けられる視線。
怪しい箱の中身は――。
【バナナの皮】:踏むと滑って転ぶ。
「「「あはははははっ」」」
これには笑うしかないメイたち。
「まあ、これはメイかしら」
「メイさんですね」
「は、はひっ」
「……これを使ったら、野生ギャグ漫画みたいにならない……?」
「「「…………」」」
「ならない」とは言えない三人。
メイは渋々といった感じで受け取る。
「こ、ここから進む形ではなかったんですね」
箱の中身はアイテム。
そしてこの部屋から続く廊下には、先ほどトミーが見せてくれた植物のカーテンに封じられている。
他に道はない。
「……一応攻撃だけしておきましょうか【魔力剣】!」
レンはびっしりと生えた枝葉を斬り払う。
しかし外傷はわずか。
「傷が埋まってしまいました」
それはもはや、システム的に『帰還』を強制されているような感じだ。
普通に考えれば、この場所の存在意義は【バナナの皮】でズッコケるため。
お遊び的な、『スカシ』の空間と考えるべきだろう。
「でもなんか気になるのよね。この植物の『急速』感。このオチだけなら植物で塞ぐ理由がないでしょう?」
「た、確かにそうですねっ」
まだ納得していない感じのレンに、まもりもうなずく。
するとツバメが、不意に思い出した。
「以前ラプラタで見つけた【剪定ばさみ】……使ってみましょうか」
ツバメはラプラタの植物園を復活させた際に手に入れた【剪定ばさみ】を取り出す。
枝にハサミを入れてみると、驚くほど簡単に切れた。
そして元には戻らない。
「そのアイテム、よく思い出したわね……! それは旧文明の遺品。同じく旧文明の植物をカットするのに必要なんだわ」
「おおーっ!」
ラプラタのロボットも当然、旧文明の遺品。
改良植物でも切れるハサミは、庭師である彼らの必需品なのだろう。
「この宝箱のための隠し部屋かと思わせて、その奥にもう一つっていう仕掛けの部屋だったのね」
「一つ【隠し要素】を見つけたら、そこで納得してしまう心理を突いた罠でしたね」
「こ、こういうパターンもあるんですね……!」
「すごーい! こんなの全然予想しなかったよー!」
ワクワクの展開に、思わず尻尾をブンブンさせるメイ。
「ここからは、攻略に入る形になるわ」
「いよいよだねっ」
「はひっ」
「それじゃあ色々と準備を済ませてから、本格的な探索といきましょうか」
「それがいいですね!」
「りょうかいですっ!」
たくさんのプレイヤーが最後の門を探す中、新たなルートを見つけた四人。
二度目の王都地下探索を前に、準備に向かうことにした。
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