960.意外なスタート地点
メイの【呼び寄せの号令】でやってきた動物たち。
その中から、一羽の鳥が気づいたポイント。
「追いかけましょうっ!」
「了解です」
メイたち前衛組は、さっそく屋根を飛び跳ねていく。
レンはまもりの手を引き、【浮遊】と【低空高速飛行】を使ってその後を追う。
足元を見れば、第三の門の情報を求めて、王都に集まってきたプレイヤーたち。
大通りは、大きな賑わいの中にある。
「あっ! メイちゃんだ!」
「メイですっ!」
高所を駆けて行くメイたちに気付いたプレイヤーに、手を振り返す。
「使徒長ー!」
「誰のことかしら?」
メイたちが動物と一緒に屋根を駆けて行く姿に、見惚れる通行人たち。
そんな大通りの喧噪から離れるように、四人は王都の街はずれへ。
「あれっ、あのおうちは……」
【呼び寄せの号令】で集まってきた動物たちが向かったのは、植物学者トミーの研究所だった。
「みんなありがとーっ!」
集まってきた動物たちと戯れるメイと、その姿に目を細めるツバメとまもり。
「動物さんたちの目的地はここでしたか」
「実は王都でも、かなり大事なNPCだったのね」
四人は、あっという間に動物たちの集会場になった研究所に踏み込む。
まだメイの肩に乗ったままでいる動物ごと、トミーのもとへ。
「もがごごごー!」
メイの顔に張り付いてたリスをツバメがはがすと、トミーもこちらに気づいた。
「これはメイさん、こんにちは」
ハウジング用の植物やその種を販売するNPCでもあるトミーは、ここから商売の話になる。
しかし、今回は違っていた。
「とても良いタイミングでお会いすることができました。実は本日、裏手の植物園で育てていたニコラスの木が実をつけるのです。十年に一度、たった一つだけ生るその実は、研究のためのものなのですが……それを狙いに来る動物や魔物が付近をウロウロしていまして。彼らから実を守って欲しいのです」
「フルーツディフェンスですか」
「実が育ち切って落ちるまでは短い時間なので、皆さんならきっと……!」
「おまかせくださいっ!」
普段は開いていない研究所の扉を通って裏手に回ると、そこは学校の体育館ほどの広さの植物園。
壁際に様々な植物が並び、中心には高さ3メートルほどの木がただ一本。
そこには、一個の実がなっている。
「葉がないのは、全ての栄養素を実に送るためのようです。そしてこの実が緑から深紅に変わっていくのですが……この瞬間をたくさんの動物や魔物が狙います。防衛、よろしくお願いいたします」
「了解しました」
「攻撃が当たると、その衝撃で実が落ちてしまう可能性もあるので、気を付けてください」
そう言って下がるトミー。
そして、ニコラスの実が色づき始めた。
「きたよっ!」
「数……多くない!?」
「そ、空が灰色に……っ」
メイが指さした空には、実を狙う鳥型の魔物たち。
大きさは鳩程度とはいえ、いきなり数百に及ぶ数の敵が、一斉に木の実を狙って襲撃してくる。
「ここは任せて! 【フレアバースト】! まだまだ! 【フリーズブラスト】!」
すぐさま範囲効果の高い魔法で、鳥型の魔物を一網打尽。
「【瞬剣殺】!」
運良く隙間を抜けた個体も、ツバメの放つ空刃が払って打倒。
するとさらに、空を覆い隠すほどの鳥の一団が飛来。
今度は1000に届こうかという大軍だ。
「お、恐ろしい数です……っ」
「でもHPゲージがない。これは打倒じゃなくても、そらせばいいんじゃない? 【フレアストライク】!」
まるで河の流れのようになって迫る鳥の群れの前に、放つ炎砲弾が炸裂。
すると鳥の群れは大きくルートを変更して、再び木の実の方へ。
見ればその背後には、明らかに鳥たちをオトリにした魔物の姿がある。
「あ、足元からも来てます……っ! こっちもすごい数です!」
さらに足元を駆けてくるげっ歯類。
その背後にも魔物の姿が見える。
「これ、面倒なことになるわ……!」
「数が多すぎますね……っ!」
HPゲージのない動物たちを前衛代わりにして、本命の魔物が木の実を狙う。
その狙いに気づいたレンは急いで杖を構え直す。しかし。
「こっちはダメでーす!」
メイが剣を『誘導灯』のように振るうと、鳥たちはその通りに飛行。
そのまま木を避けるようにして、空へ返っていった。
「すごい……鳥を指揮しているみたいです!」
続いてメイは、押し寄せてくるげっ歯類に向かい合う。
「この先通れませーん! そのまま向こうからお帰りくださーい!」
さらに足元を駆けてきたげっ歯類たちも、メイの誘導通りにUターン。
そのまま植物園を出ていく。
こうなると、動物たちの混在によってプレイヤーが困っているところに出てくるはずの魔物が、見え見えの状態でやってくることになる。
「これなら余裕だわ! 【フレアストライク】!」
本来動物たちが邪魔になり、その隙を突く形で木を登って実を奪うのが狙いだった『白亜狼』
しかし素直に木に向かった丸裸の白亜狼は、その背をシンプルに撃たれて転がる。
滑空してくる大型の『石頭鷲』も、その爪でまもりを狙うが、これも丸見えだ。
「【地壁の盾】!」
まもりは左の盾で迫る獣の一撃をなんなく受け、右の盾を振り下ろす。
「【シールドバッシュ】!」
「【電光石火】!」
これも問題なく打倒。
「ふふっ、まさか付近を飛び回って駆け回るはずの動物たちが、即直帰するとは思わなかったでしょうね!」
「メイさんの動物誘導のおかげで余裕です。どんな魔物でも問題ありません」
「こ、これくらいならなんとか……っ」
そう言って三人が笑い合うと、聞こえてきた翼の音。
三人は髪を風に揺らしながら、ゆっくりと視線をあげる。
「確かにどんな魔物でもって言ったけど……王都の植物園に翼竜二匹はやりすぎでしょ!」
「お、思った以上の規模です……っ!」
「「「「ッ!!」」」」
現れた赤と黒の翼竜。
滑空から放たれる赤竜の爪攻撃を、四人一緒に『伏せ』の姿勢でやり過ごす。
すると二頭目の黒竜が、ブレスを吐きながら迫り来る。
「ブレスはマズいです……っ! 【投擲】ッ!」
ツバメはすぐさま【雷ブレード】で硬直を取り、炎や暴風による実の落下を防ぐ。
黒竜は翼を広げて滑空。
空に登って体勢を立て直す。
「やっぱり竜種は迫力が段違いです!」
「ツバメ、ここで使ってみない?」
「わかりました、いきましょう」
「高速【誘導弾】【ファイアボルト】!」
レンはターゲットを自分に向けるため、黒竜に炎弾をぶつけた。
そしてすぐさまツバメにルーンを施し、飛来する黒竜を待つ。
「いくわよ!」
そしてそのまま、空中から圧し掛かるように迫る黒竜の剛爪を、その身に受ける瞬間。
「【入替のルーン】!」
発動と同時にレンの型が消え、代わりにツバメが現れる。
見事に二人の居場所が入れ替わった形だ。
そしてツバメはそのまま、黒竜の飛び掛かり爪に切り裂かれた。
「それは、【残像】です」
黒竜の背後に現れたツバメがそうつぶやくと、斬られたツバメの【残像】が【狐火虚像】が爆発。
青い炎を巻き上げる。
思わぬ爆発に転がった黒竜に、レンが杖を向けた。
「【フリーズブラスト】!」
うなずき合うレンとツバメ。
吹き荒れる氷嵐に吹き飛ばされた黒竜は、付近の建物に頭から突撃。
オブジェのような格好のまま、動かなくなった。
「【獅子霊の盾】!」
一方まもりは赤竜の燃える灼熱爪による一撃を目前に、盾から巨獅子の頭部を顕現。
その首元に喰らいついたところ狙って、地面に叩きつけようとするが――。
「あ、ダ、ダメですっ!」
縦回転の叩きつけは木の実にぶつかる可能性が高いことに気づき、慌ててその場に停止。
赤竜の処遇に困っていると、そこに駆け付けたのはメイ。
「いきますっ!」
その尾をつかみ、スキルを発動する。
「【大旋風】っ!」
その場でグルグルと回転し、遠心力をつける。
「それええええええ――――っ!!」
王都外目がけて、そのまま赤竜をぶん投げた。
赤い竜は街の屋根を水切りの石のようにバウンドして飛んでいき、そのまま王都の外へ。
「「「「…………」」」」
木の実が色づく前の打倒。
そのため生まれる、想定外の空き時間。
予想外の状況になってしまったためか、勝利判定に時間がかかり、静まり返る植物園。
真紅に染まったニコラスの実が、木から落ちたところでクエスト終了。
すでに魔物の襲来は終わっていたのに、無言で待っていたトミーがようやく駆け出してきた。
「……ありがとうございました! これで新たな研究ができそうです!」
そして木の実を手に取り、歓喜の声をあげる。
「この色んなものが止まってる時間は、なんか慣れないわね」
「本当ですね。何かバグってしまったりしていないかドキドキしてしまいます」
そう言って笑う、レンとツバメだった。
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