955.たまちゃんと報酬確認
「【バンビステップ】」
華麗な足の運びで、堤防の上を駆けるメイ。
「それっ【アクロバット】」
見事な着地を決めると、ツバメとまもりが拍手を送る。
いつも通り、港町ラフテリアの堤防の上で再会した四人。
予定時間より早い集合も、毎回のことだ。
「それじゃあ恒例の、広報誌確認からいきましょうか」
広報誌を取りだしたレンが堤防に座ると、横に並んだ三人が肩を寄せ合うようになる。
表紙は、枝垂れ桜の下のメイとたまちゃん。
嵐山郷の和装たすき掛け姿の四人や、食べ物を抱えて歩く満面の笑みのまもりなども続けて掲載されている。
「ツバメはカルタの真剣な横顔がいいわね」
「じゅ、呪符のウォータースライダーも、コミカルで楽しいです……っ」
「メイさんが武御雷を投げ飛ばす瞬間も、たまりませんね」
「この闇のドラゴンの正体は……!? って、なんで私だけ『あおり文』を入れるのよ!」
「わー! やっぱりある――っ!」
楽しく眺めていくと、メイが悲鳴を上げた。
そこには満月の下、両手バナナで覚悟を決めるメイの姿。
そして【王者のマント】に四足歩行という野生児スタイルで、八岐大蛇を翻弄する姿も。
「これは野生児大神っぽいわねぇ……」
「か、カッコいいです……っ」
「資料部分には今回の『流れ』についても説明が有るから、分かりやすいわね」
「最後に行われた黒仮面の宣言もあり、各所が盛り上がったようですね」
「ど、怒涛の展開でした……っ」
「でも私には、メイとツバメがパーティーサングラスをしたまま帰ったのが一番の衝撃だったわ」
「レンちゃんは、どうしてしなかったの?」
「最近まで儀式をしてた娘が急にパーティーサングラスで帰ってきたら、親がショック死するかもしれないでしょう?」
自分で言って、レンは苦笑い。
「さて、それじゃあそろそろ京に行きましょうか」
「りょうかいですっ」
四人は立ち上がると、伸びを一つ。
ポータルでヤマトの京へと向かう
「わあーっ! お昼は混んでるんだね!」
集まった多くのプレイヤーに、メイが驚きの声をあげた。
今回は満開の桜に加えて半壊の京も見られるということで、たくさんの人が集まってるようだ。
心なしか、瓦礫から瓦礫へ跳ぶプレイヤーが多くみられるのは、メイの影響。
八岐大蛇の首を駆ける動画は目下、驚異的な人気だ。
四人は不思議な風情を感じる瓦礫の京を進み、枝垂れ桜のもとへ。
「たまちゃん!」
「その通りじゃ。たまちゃんと呼んでくれっ」
振り返った狐少女は可愛くウィンクを決めると、「ほう?」と目を見開いた。
「その耳と尻尾……九尾を退けたか。大したものじゃのう」
「……あれ?」
「このセリフ、最初にあった時と同じ……?」
メイたちは、狐少女の言葉に首を傾げる。
すると少女は、楽しげに笑いだした。
「わはははは、どうじゃ? るーぷしたかと思ったじゃろ?」
「これは一本取られました」
「さ、さすがウカノミタマさんですね……っ」
イタズラな笑みを浮かべるたまちゃん。
見れば近くの芝では、葛葉が投げた鞠を犬神が渋々取りに行く姿が見られる。
どうやら問題なく、物語は展開しているようだ。
こちらに気づいた葛葉たちがやって来ると、たまちゃんが再び話し出す。
「ぬしらのおかげで、京最大の危機を乗り越えることができた。そこでじゃ、わらわたちと明光で礼を用意したぞ!」
こうして、全員で御所へ。
「今度は顔ぱすじゃ」
そう言って、当然とばかりに守衛の前を素通りする。
「誰ですか?」
「ぬなっ!?」
そしてどうやらまだ話がちゃんと通っていないらしく、しょぼんと尾を垂らすのだった。
結局葛葉の顔パスで、あらためて御所の内部へ。
「うおおおおおおーっ!?」
そこに転がって来たのは、一人のプレイヤー。
見れば腕を丸太のように太くした村田麻呂が、笑みを浮かべている。
「そちらのおかげで、対戦相手に困らなくなったでおじゃるぞ!」
どうやらカルタは、ミニゲームとしても解放されたようだ。
「えくすとりーむカルタは、やはり過激ですね」
プレイヤーたちの楽しそうな声を聴きながら、メイたちは荒涼殿へと進む。
そこには、明光と三人の親王が待っていた。
「よくぞ来てくれた」
明光天皇は、うれしそうに笑う。
「この度の危機は、まさにヤマトの存続を賭けた戦いとなった。京を救ってくれたヤマトの英雄に感謝を」
明光がそう言うと、女中たちが葛籠を持ってやってきた。
「報酬確認の時間ですね」
「た、楽しみですっ」
まずはまもり。
カゴを開くと、そこには一冊のスキルブック。
【溜め防御】:盾による防御中に、次の攻撃の溜めが可能となる。
「いいじゃない! 盾で受けてからの反撃が強化される。これは攻撃スキルの火力向上と考えてよさそうね」
「ど、どれくらい強化できるのか楽しみです……!」
歓喜の声をあげるまもり。
次はツバメの番だ。
【狐火虚像】:虚像系スキルを狐火によって生み出し、爆発炎上させる。
「なるほど……【残像】に反撃要素が着くといった感じでしょうか」
「これ、分身に攻撃要素が乗る可能性もあるんじゃない?」
敵をさらに翻弄できそうなスキルに、思わずワクワクするツバメ。
「それじゃあ次は私ね」
【入替のルーン】:刻んだ相手と任意のタイミングで位置を入れ替える。ただし距離が遠い者とは不可能。
「なるほど。まずは色々試しを入れて使ってみたいわね。足の遅い私としては、面白い感じになりそうだけど」
レンの新スキルも、少し変わった内容だ。
あれこれと使い方を考えて、さっそくかすかな笑みを浮かべる。
「最後はわたしだねっ! ……あれ?」
続くメイがカゴを開く。
しかしその中身は空っぽだった。
「ぬしは良い装備品を持っておる。それを少し貸してみよ」
そう言ってたまちゃんはメイから【狼耳・尻尾】を受け取ると、目を閉じて何やら祈る。
すると【狼耳・尻尾】に光が宿り、スキルが強化された。
【群れ狩りⅡ】:召喚時に召喚者自身も動けるようになる。
「……これはすごいことになるわね。召喚した大型動物たちを引き連れて、メイも一緒に攻撃できるってことでしょう?」
「とてつもない迫力になりそうです……」
「た、楽しみですね……っ!」
最後に動物たちを率いるメイという凄まじい画を想像させながら、報酬タイムは終了。
「これからは冒険者……いや。京の武神たる汝らのような強さを求めて鍛え、明光を守る剣となろう」
猛長親王がそう言うと、冷泉と桔梗も静かにうなずく。
これからの京は、この結束によって守られていくのだろう。
「今汝らの伝説を、歴史書の一節としてまとめているところだ。麻呂にもカルタとして用意させている」
「や、野生児尊じゃないよね……?」
「どうかしら……」
「カルタに『野生児の~』みたいな読み札が増えるのでしょうか」
「ちょ、ちょっと見てみたいです」
一仕事終えた感じで、笑みを見せる明光。
これにて、京での流れは全て終了だ。
すると、たまちゃんが一歩前に出た。
「そうじゃ、せっかくじゃし桜でも見に行かぬか?」
「……あら、これはちょっとめずらしい展開ね」
一つの大きなクエストを終えた後、そのカギとなるNPCが新たな提案を行うのはなかなかないことだ。
四人はたまちゃんの後に続く形で御所を出て、街の中心部へと戻ることにした。
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