950.管理者
「さて、これで一段落だけど……たまちゃんは?」
当りを見回すレン。
八岐大蛇が倒され、真非等が倒れたことで月が姿をゆっくりと戻していく。
冥界の降臨が、終わろうとしている。
「待つのじゃ! やはり何者かが動いておる!」
「……アサシンたちでしょうね」
「冥界の降臨の狙いはやはり、一つではないのかも知れぬ! 力の宝珠を真非等に渡したもう一人の首謀者は、『向こう』へ行こうとしておる!」
「向こうへ行くと、どうなるのですか?」
「生きている者であれば、冥界と現世の隙間に潜り込むような形になる」
「やっぱり……!」
「首謀者の一端を、このまま逃がすような真似をするものか! 【破】っ!」
たまちゃんは指を二本立てた印を結び、一喝。
すると付近の青白い霧が吹き飛び、冥界の影響が完全に消え去った。
「姿を現すがいい! ぬしらは何を狙い、冥界を開かせた!?」
問い詰めるたまちゃん。
そこに現れたのは、四人の黒づくめ。そして。
「アサシンと、鍵の青年……」
ホログラムで世界の危機を訴え続けていた、白の拘束着の青年。
レンはその姿を見て、理解する。
「やっぱりゼティアの門の鍵となる青年を、冥界と現世の間に隠すつもりでいたみたいね」
「もしやこやつらが、ぬしたちの探していたものか?」
「そういうことになります」
「あと一歩で『狭間』に身を隠せるところだったというのに忌々しい……我欲で世界に危機を呼ぶ、悪魔どもめ」
アサシン組織の長である外套の人物はそう言って、片手をこちらに向けて伸ばす。
「鍵は渡さぬ」
どうやらこれが、戦闘態勢のようだ。
「八岐大蛇の後に戦闘って、厳しくない?」
「はい。HPもMPも回復しているわけではありませんし、各種ク-ルタイムも残っています。つらいところですね」
鍵の青年を取り戻す好機とはいえ、さすがに苦笑いのレン。
「消えろ。我欲に溺れる悪魔ども」
アサシンリーダーはそう言って、手を握る。
するとメイたちの間に、魔力が集束。
「【不動】【天雲の盾】!」
まもりが即座に前に立ち、メイたちはその背後へ。
巻き起こる盛大な爆発を、無傷で耐え伸びる。
直後、まもりの後ろから即座に飛び出すメイとツバメ。
ツバメの斬りかかりを、アサシンリーダーは速いバックステップでかわす。
「【フルスイング】!」
即座にツバメを追い越す形で、メイが剣を振り下ろす。
「【手刀回転そらし】」
「うええっ!?」
あげた右手を、12時から6時の方向へ回転。
剣の側面を手刀で押し出すような形で、メイの一撃をそらす。
「【加速】【リブースト】!」
そこへ続くツバメの刺突。
「【剛指白刃取り】」
なんとこれを、指二本で挟んで止める。
そのままワイパーのように手を動かすと、ツバメを放り投げた。
続けて空いた手を上げ、パチンと指を鳴らす。
するとリーダーを中心に巻き起こる爆発。
「「っ!!」」
メイとツバメは慌てて防御。
しかしその火力に、大きく後退させられた。
さらにリーダーは指さしで魔法を発動。
メイたちの間に、巻き起こる爆発。
「【不動】【天雲の盾】!」
「【フレアストライク】!」
魔法を受けたまもりの背後から、放つレンの反撃。
リーダーは伸ばした手を開き、掌を突き出す。
すると生まれた魔力の盾が、炎砲弾を弾いた。
リーダーは、まもりに向けて高速で突進。
「【天雲の盾】!」
突き出された手に、イチかバチかスキルを使用。しかし。
「っ!?」
リーダーは盾の表面にタッチ。
するとまもりは強制転移で中空へ。
空へ向けて差す指が、再び爆発を起こす。
「きゃあっ!」
まもりは盾をリーダーの方に向けていたため、直撃は受けなかったが落下して転がる。
「【加速】」
再び迫るツバメ。
リーダーが手を伸ばしたところでスキルを発動。
「【スライディング】【反転】【紫電】!」
「ッ!?」
足元を潜ってからの反転攻撃。
パリィ系スキルの弱点である、近接異常攻撃で隙を生み出す。
「【ターザンロープ】!」
ここでメイはアイテムによる攻撃を選択。
そのままリーダーを、空へ投げ上げる。
もちろん狙いは意趣返しだ。
「【フレアバースト】!」
空中で無防備状態となったリーダーに、爆炎が炸裂する。
こうしてアサシンリーダーのHPが、1割ほど減ったところで――。
「――――この時を待っていた」
「……えっ!?」
急にメイが、動きを止めた。
その視界に映ったのは、濃灰色に赤の線が走った制服を着た兵士たち。
半壊した建物影から出てきた黒仮面が紫色の結晶を輝かせると、猛スピードでその腕が結晶化。
巨大な結晶碗は護衛のアサシンたちを弾き飛ばし、そのまま『鍵』の青年をつかみ取る。
「させるか……!」
味方を吹き飛ばされたアサシンリーダーは即座に戦いを切り上げ、黒仮面たちから『鍵』の青年を奪い返そうと超加速。
しかし黒仮面の手に輝く橙色の結晶が毒液をまき散らす。
「なんだ、このおぞましい兵器は……」
石畳を溶かし、土を腐らせていく新たな結晶兵器にリーダーは呆然。
足止めを喰らった。
「気に入ってもらえたようで何よりだ……ようやくゼティアの鍵が手に入った。これで門が開く。我らは結晶の力で異世界の魔物を打ち倒し、新たな兵器を生み出すのだ。そしてこの世界も異世界も、全てを手中に収める!」
勝利を確信したかのような、傲慢な声色で黒仮面は告げる。
「案ずるな、世界は終わりなどしない。我らが新たな王となり治めるのだからな。貴様らは大人しく、新世界の誕生を拝むがいい」
そう言って水色結晶を輝かせると、吹き上がる猛烈な飛沫。
雨となって降り注ぎ、地面を濡らす。
そして雨が上がった時にはすでに、黒仮面たちはその姿を消していた。
「黒仮面たちも、隠れて鍵の青年を探していたのね」
「こ、これでゼティアの門を開くための、流れができてしまいました」
「大変なことになりそうだね……」
「もはや猶予はない。持てる全てを投じて、ゼティアの開放を防ぐのみ……必ず止めてみせる。二度目の世界の崩壊を」
リーダーはようやく起き上がったアサシンたちを引きつれ、宝珠でこの場を去っていく。
「な、なんだか、いよいよって感じですね……!」
「本当だね……っ」
夜の闇に消えていった黒仮面と、アサシン組織。
京の夜に浮かぶ満月の下、動き出した世界の危機に思わずドキドキしてしまうメイたち。
そして新たなクエストはアサシン組織から――――世界に向けて発信されることになる。
ご感想いただきました! ありがとうございます」
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




