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949.反則返し

 向かい合うメイと、八岐大蛇。

 先行するのは、長めの硬直を終えた八岐大蛇だ。

 放たれる八つ同時の【大火炎弾】

 それが合図。


「【装備変更】【バンビステップ】…………よーい、ドン!」


 一斉に迫る業火を、【鹿角】メイは華麗なステップで次々かわしながら接近。


「速っ!?」

「あの大きさの火炎弾をかわしながらあんな速度、可能なのか……!?」


 驚きの声の中、続くのは【溶岩弾】

 炸裂によって振り落ちてくる雨が発生する前に加速して、【溶岩弾】の下を駆け抜ける。

 続く四つの炎球は、炎が駆け抜ける【火之夜藝走駆】のもの。

 ここでメイは、崩れた民家の壁を蹴り上がって屋根の上へ。

 四連の【炎球】が十字型の炎路を生み出す中、満月の下を駆ける動物のような美しい走りで接近。

 いよいよ距離を縮めたメイに放つ【火産霊紅蓮華】は、八体同時の全力ブレス。

 視界を白く焼くほどの爆炎が、容赦なく巨大な炎柱を突き立てる。


「効きませんっ!」


 だがそれも、【王者のマント】に払われる。

 マントをはためかせながら接近するメイに、ついに蛇龍は真正面から攻撃を開始。


「【装備変更】【アクロバット】!」


 その口内に輝く炎を見て、【爆炎喰らいつき】と判断した【猫耳】メイは跳躍。


「【モンキークライム】!」


 前方への宙返りで回避を決めると、なんとそのまま八岐大蛇の首に着地。

 そのまま首の上を駆けていく。


「「「おおッ!?」」」


 まさかの戦い方。

 期待を大きく越えていくメイに、思わず拳を握り歓喜する観戦者たち。

 迫るのは二つの頭の【爆炎喰らいつき】


「【ラビットジャンプ】!」


 メイは見えた別の首へと跳躍して回避。

 しかしそこに迫るのは、二つの炎弾。


「がおおおおおおおお――――っ!!」


【雄叫び】で大炎弾をかき消す。

 そしてその瞬間を狙った蛇龍の【爆炎喰らいつき】を、ターンでかわして剣を強く握る。


「【フルスイング】!」

「「「うおおおおおお――――っ!!」」」


 頭部を斬り飛ばす一撃に、上がる歓声。

 放たれた大炎弾に気づいたメイは跳躍し、さらに隣の首を足場にして再跳躍。


「【フルスイング】!」


 まさに炎弾を吐いたばかりの頭部を、斬り飛ばした。

 そんなメイの上部に回った三つ目の頭部が放つブレスを【王者のマント】で防ぐと、左右から同時に迫る【爆炎喰らいつき】

 メイはしっかり、蛇龍たちを引き付けたところで――。


「【フルスイング】!」

「「「うおおおおおおお――――っ!!」」」


 皆、叫ばずにはいられない。

 回転斬りで同時に二つ、頭部を斬り飛ばしたメイ。

 一気に頭部を半減させた八岐大蛇は、高く首を掲げて火炎放射による反撃を試みる。

 しかし【モンキークライム】には関係なし。

 メイは一直線に蛇龍の首を駆け登り、頭部に到達。


「【ラビットジャンプ】!」


 そのまま垂直に高く飛び、青い満月の夜空に躍り出る。


「【アクロバット】からの――」


 そして空中で華麗に一回転。

 落下の勢いに任せて、真下の蛇龍に剣を振り下ろす。


「【フルスイング】だああああ――っ!」


 弾け飛ぶ五つ目の頭部。


「「「うおおおおおおおおおおお――――っ!!」」」


 それこそ神話のような戦いを前に、観戦者たちは熱狂するほかない。

 だがそんな中でも、レンは冷静に各頭部の動きを確認。

 大きな跳躍からの一撃を決めたメイに【溶岩弾】を放とうとしている頭部を見つけ、杖を向ける。


「高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 放たれた氷弾は六つ目の頭部を弾き、【溶岩弾】を停止させた。

 するとそれに反応した頭が二つ、一転レンを狙って急速接近。


「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 飛来する氷弾をかわしながら、【爆炎喰らいつき】で迫る。

 だがレンは動かない。


「お、おいっ!」


 そのあまりの無防備さに、不安になる観戦者たち。

 右の蛇龍はそのまま、レンに喰らいつき――。


「【サクリファイス】【水月】」


 これでツバメの残りHPは1割。

 アゴ下から頭を貫くように放たれた長い水刃に、蛇龍は串刺しにされた。

 月に刺さりそうなほどの水刃は六つ目の頭部と共に砕け散り、飛沫となって消える。


「【獅子霊の盾】!」


 一方左の蛇龍はレンに牙が触れる直前、まもりの盾から現れた巨大な獅子に首元を噛みつかれて強制制止。

 そのまま地面に叩きつけられた。

 レンは、優雅に振り返る。


「【魔眼開放】」


 そしてその右目を、金色に輝かせる。


「ちはやぶる、神代も聞かず、夜の京。闇の音色に、龍燃ゆるとは――」


 不思議なことが多い神々の時代ですら、聞いたことのない奇跡。

 そんな上の句で始まった詠唱。

 足元に輝く魔法陣は、緩やかに回転を開始する。

 石畳みに叩きつけられた頭部に向かって悠然と歩みを進めたレンは、その手に生み出した闇の細剣を突き刺した。


「――――【ナイトメア】」


 一転、付近から一斉に集まった闇色の輝きが集束。

 蛇龍の頭部を数十センチほどの球体にまで収縮させた後、一瞬の制止。

 魔力の円環を二度ほど放った後、臨界を迎えたエネルギーが爆発を巻き起こした。

 すでに背を向けていたレンの髪が揺れ、魔眼の金光が妖しく光る。


「――――永遠の眠りに、ふさわしき悪夢を」


 詠唱が間に合って、密かに喜ぶツバメは小さくガッツポーズ。

 白目をむくレンの背後で、7つ目の頭が消滅した。

 これで残った頭は、1つだけ。

 逃げるように、高速で本体のもとへ下がっていく。

 そしてその首を持ち上げると、天を向いた。


「ギャアアアアアアアアアア――――――ッ!!」


 猛烈な咆哮と共に放つのは、最終奥義。


「……なに?」


 八岐大蛇の本体から、京の南西部を丸々覆うほどのヒビが入る。

 蜘蛛の巣のようなヒビに走る、溶岩の輝き。

【禍津火大神】(マガツヒオオミカミ)は、ヒビから一斉に溶岩を噴出し、付近一帯を容赦なく焼き尽くす一撃だ。

 建物すら突き破って吹き上がるその一撃には、安全地帯が見受けられない。

 皆大慌てで、防御態勢を取る。


「……いきますっ」


 ヒビの目の細かさ、そしてグラグラと揺れ出す大地。

 誰もがその最終奥義の恐ろしさを肌に感じたところで、溶岩が一斉に噴き出した。

 メイは、再び走り出す。


「【裸足の女神】!」


 網の目のように張られたヒビから、豪快に吹き出す溶岩。

 メイはその隙間を駆けて行く。

 すると一段階、吹き出しが激しくなった。

 隙間が大きく減り、溶岩の壁を突き破って駆ける必要を迫られる。


「【野生回帰】ッ!」


 ここでメイは装備品を全解除して、速度を上昇。

 溶岩は、触れている時間によってHPが減少する。

 すでにHPが2割強ほどのメイはさらに、『溶岩に触れる時間』を極限まで短縮することを決意。


「からの……よ、よ、【四足歩行】だああああ――――っ!!」


 溶岩壁の隙間を駆け、貫き、メイは八岐大蛇のもとへと駆けていく。

 その速度はもはや、残像にしか見えないほど。

 直線ではなく、吹き上がる溶岩の隙間を左右にかわしながらにもかかわらず、光のように速い。

 溶岩壁は時に回避を許さない立ち塞がり方をするが、溶岩に触れた時間が短すぎるため、HPの減少はせいぜい1ケタ。

 その事に気づいたメイは、すべての溶岩壁をぶち破って最奥の本体のもとへ。

 常識外れの特攻。

 もはや玉座の目前まで踏み込まれた八岐大蛇に、逃げ場などなし。

 慌てて最後のブレスで対抗しようとするが、メイは両手で持った剣を、そのまま大きく振り上げる。


「全力疾走【ソードバッシュ】だああああああああ――――ッ!!」


 豪快に振り上げられた剣から走る激しい衝撃波が、京の夜空を登っていく。

 最後に残った頭部を、吹き飛ばす一撃。

 遅れて町に吹き荒れる風が、今まさに吹き上がっていた溶岩を霧散させ、各所を燃やしていた火を一斉にかき消す。

 すると全ての頭を失った八岐大蛇も遅れて崩れ落ち、HPゲージ全損。

 その姿をゆっくりと、粒子に変えて消えていった。


「メイーっ!」


 振り返ったメイのもとに駆けてくる、ツバメ、レン、まもり。

 そのまま四人、思いっきり抱き合う。


「やったわね! 【蓄食】増加の威力、しっかり見させてもらったわ!」

「圧倒的な動き、最高でした!」

「は、はひっ! カッコよかったです!」

「ありがとーっ!」


 笑い合うメイたち。

 そしてここまできてようやく、呆然としていた観戦者たちも我に返る。


「オ、オオ……」

「オオオ、オオオオオ……」


 少しずつ湧き上がっていく声が、一つになっていく。


「「「ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!」」」


 そして京の夜に、大きな歓声が沸き上がった。

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[一言] 論理クイズの第5のヒント 数学系・IT系の人なら少し有利 問題文を 「全く同じ情報を受け取ってもBとCで得る情報が異なる」 と考えるのではなく、 「Bが「Aの発言」から引き出した情報を、C…
[一言] 今回の戦い、確実に公式動画に乗って盛り上がること間違いなし。
[一言] あ、これ詠唱してるのツバメがレンの動きに合わせてるのかヽ(´ー`)ノ
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