947.反則
【世界樹の実】によって、大きく【腕力】をあげたメイ。
その怒涛の攻勢はなんと、八岐大蛇の頭部を一気に4つ斬り飛ばした。
レンの予想通り総合ゲージが半分ほどに減り、八岐大蛇は目を煌々と輝かせる。
「よっと!」
放たれる大炎弾をかわせば、自然と四人の間に距離が生まれる。
そこに迫るのは、先ほどまでの勢いを大きく上回る、荒々しい喰らいつき。
「当たりません……っ!」
民家の壁ごと嚙み潰して迫る喰らいつきを、ツバメがかわす。
隙はごく僅少。
すぐさま二度三度と、連続の接近喰らいつきに続けるバックステップ。
下がった先で、付近を確認。
予想通り左方から来ていた蛇龍の喰らいつきを、さらにバックステップで回避する。
「……?」
そこで感じる違和感。
付近の建物の残骸たちが、激しい音を鳴らし出す。
「ッ!!」
二匹目の蛇龍は単純に左側から来てたのではなく、右側から大きく回り込んでツバメの左に出てきていた。
当然ツバメは、蛇龍の首に『取り囲まれた』状態。
獲物を絞め殺す蛇のように、一気にその輪が狭まっていく。
「まさかこのような攻撃で来るとは……っ! 【跳躍】!」
このままでは巻き取られ、潰されてしまう。
ツバメはたまらず高いジャンプでこれを回避。
しかしこの隙を当然、残った頭部は逃さない。
放たれる大炎弾は、そのままツバメに直撃。
「ああああっ!」
空中ではまもりの防御も届かず、直撃して落下。
地を転がり3割近いダメージを受けた。
頭の数が減ったことで、攻勢に出る八岐大蛇。
ツバメが弾かれ転がったのを見て、その狙いをメイに変更。
一つ目の頭部が接近しながら、放つ大炎弾。
これをメイが早い移動で回避したところに、迫る二つ目の頭部の喰らいつき。
「【アクロバット】」
大きなバク宙でかわすと、頭上にはすでに三つ目の頭部。
吐き出す激しいブレスに対し、メイはすぐさま【王者のマント】を払って炎をかき消す。
「っ!」
しかしその瞬間を狙った、四つ目の頭部。
間髪置かない連携は、回避を許さない。
「【フリーズストライク】!」
だがレンの魔法が間に合い、直撃を受けた頭部は攻撃の軌道がずれた。
メイは蛇龍の角に斬られたが、ダメージは軽傷。
「レンちゃん、ありがとう!」
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
残った頭部は、止まることがない。
メイへの一連の攻撃の流れの直後、二つの頭部が再びツバメへの攻撃を開始。
交互の喰らいつきが迫る中、ツバメはジグザグ走行でこれを回避。
隣りで炸裂した大炎弾の飛沫を、浴びながら一回転。
「【投擲】!」
小さな神社の前に置かれた門をぶち抜いて迫る頭部に、振り返りながら投じる【雷ダガー】
頭の一つが動きを止め、残るは一つ。
ツバメはそのまま駆け、一本道の途中で急停止。
その背は、迫る蛇龍に向けたまま。
「一対一を作れれば、私にも――」
月を背にして走っていたツバメは、今まさに自分を喰おうと背後から迫る蛇龍の位置を、影で判断。
振り返りと同時に抜刀する。
「――――【斬鉄剣】」
背中に目でもついているのかというような、完璧なタイミングで放たれた一撃。
すでに喰らいつきのモーションに入っていた蛇龍に、回避は不可能だ。
描かれる白刃の弧は、付近の建物と同時に頭部を斬り飛ばし、そのHPは8割強ほど減少。
「メイさんの火力は、やはり圧倒的ですね」
この頭部を一撃で打倒するメイにあらためて感嘆しながら、【村雨】を鞘に戻す。
「【クイックガード】!」
一方まもりは、残る二つの頭部による攻勢に対応する。
「【地壁の盾】【天雲の盾】【地壁の盾】!」
喰らいつき、炎弾、喰らいつきという流れに、しっかり合わせて盾防御。
するとその背後にいたレンが、杖を向け魔法を発動。
「ありがとうまもり! 【魔力蝶】!」
上位上級魔法特有の発動時間を、しっかり稼いだまもりに告げる。
放つ大量の黒い輝きは夜空を妖しく舞い、逃げ遅れた二頭目の蛇龍の頭部に群がる。
次々に炸裂する魔力の蝶は、あっという間にそのHPを7割ほど削り取った。
メイたちの勢いは止まらない。
残った一体にも、召喚で攻勢をかける。
「【装備変更】! それではご両人一緒に! ――――クジラさん、クマさん、よろしくお願いいたしますっ!」
【狼耳】に装備を変えて【群れ狩り】を発動。
現れた二つの魔法陣から、飛び出したのは巨大なクジラ。
京の月夜を舞い、そのまま四つ目の蛇龍に激突。
そこに駆けてくるのは、白の羽織に紫の袴を履いた、陰陽師姿の巨グマ。
フワフワと浮遊しながら後をついてくる犬神子グマと共に、天高く跳躍。
両手に取りだした大量の護符を、煌々と輝かせた後に全部捨て、【グレート・ベアクロー】を叩き込む。
こうして四つ目の頭部も、瀕死に追い込んだ。
「やっぱり【群れ狩り】はいいわね……! このままHPの減った頭を落として、一気に勝負をつけ――」
蛇龍に追われたばかりのツバメが、詠唱が間に合わずにひっそり悔しがる中。
追い込まれ出した八岐大蛇は、慌てて下げた四つの頭部を、高く掲げた。
その口内は、煌々と輝く赤熱。
「何か、すごいのがきそう……!」
夜空に浮かぶ四つの赤い光。
その異様な雰囲気に、思わずメイがつぶやく。
直後、放たれた炎球は直径2メートルほどの球体。
なぜかメイたちを直接狙わず、道の真ん中に着弾して強烈な熱波を走らせる。
「まさか……!」
頬を焼く熱風に、レンがこの後の展開を予想。
「いますぐ横道に逃げて!」
碁盤目状の町並み。
レンが叫んだ直後、長さ2百メートルほどの道を猛火が、真っ直ぐに駆け抜けていった。
四人はギリギリで横道に入ったためダメージを免れたが、二つ目の炎球はその横道を狙って放たれる。
「「「「ッ!!」」」」
先ほどが縦に駆ける炎なら、今度は横。
メイやツバメは建物上部への飛び上がりを考えるも、跳躍先に炎球を放たれた場合の攻撃範囲が読めず、大人しく縦の道に駆け戻る。
するとすぐさま放たれる、縦の炎球。
そして四人が縦と横の回避をすぐに切り替えられる、十字路の中心という安全地帯に気づいたところで――。
「そうなるわよね……っ!」
十字路の中心を狙って放たれる炎球。
炸裂した炎は、十字に駆ける豪炎を巻き起こす。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
【火之夜藝走駆】(ほのやぎそうく)で生まれる爆炎には高さもあり、メイはレンとまもりを抱えてイチかバチか建物側への跳躍。
ツバメもそれに続く。
しかし残った三つの頭が、同時に吐き出す大火炎弾。
「わあああああ――――っ!」
「きゃあああああ――――っ!」
「きゃあっ!」
空中で生まれた爆発には、回避も防御もなし。
三人は爆炎に吹き飛ばされ、メイ2割、まもり3割、レンは4割に迫るダメージとなった。
そのまま地面を転がった三人のもとに、ギリギリ炎が届かず助かったツバメが駆け寄る。
次の手を把握するため、その視線はあくまで八岐大蛇に向けながら。
「動きはなさそうです」
心配された追撃はなく、安堵の息をつくツバメ。しかし。
「……待ってください!」
事態は最悪の展開を迎える。
「ボ、ボスの……回復ですか?」
これには、まもりも呆然とする。
すでに斬れ飛んでいた4つの頭部が、再生を始めた。
追撃を行わなかったのは、再生を行うため。
そして早くも8つに戻った蛇龍の頭は、同時にその口内を紅蓮に輝かせる。
8体が同時に吐き出すブレスは、噴き出す暴風と猛火が混ざる一撃。
もはや回避の隙間などなし。
「いーちゃん!」
メイはすぐさま暴風を吹かせるが、8体分の炎を返すには効果時間が足りない。
いーちゃんの吹かせた風が消え、そのまま八岐大蛇の豪炎はメイたちの元を通り過ぎていく。
「わあああああ――っ!」
四人は焼かれ、転がる。
各自が2割ほどHPを奪われ、付近は完全な火の海。
「……おそらく、断続的に倒し続けないとダメなんだわ。一定以上時間が経っても首の数が減らない状態で、今みたいな『隙』を与えてしまうと、追撃ではなく再生を選ぶ」
レンの予想は正解だ。
頭が減ってから一定以上の時間、新たな首を減らせずにいると、八岐大蛇は再生に舵を切る。
【火之夜藝走駆】はどうしても、八岐大蛇から距離を取っての回避になりがちため、現状はまさに狙い通りといった状況だろう。
メイが斬り飛ばした四つの頭部は元に戻り、総合ゲージもほぼ完全回復。
「ひ、ひどい……ボスの回復は……っ!」
「この大きさと規模だもんなぁ。やっぱり4人じゃ無理があるのか?」
「この感じだと、30人から40人は欲しいところだな」
「どう考えても、いくつかにパーティを分けて敵の攻撃を分散する必要があるよな」
異常な巨体と、再生能力。
恐ろしい敵を前に、観戦者たちも戦慄するしかない状況だ。
「……いいわ」
レンは息をつく。
「こういうのは自動回復を使う敵が『間に合わない』火力で叩くっていうのが定番。私はそういう展開好きだし、たった四人だけど、一人で百獣を従えるメイもいるんだもの。これくらいのハンデは差し上げるわ」
これまでの戦いを無為にする、敵ボスの再生回復。
最悪の事態にいまだざわめく観客たちの中、完全回復を果たした八岐大蛇はさらに火力をあげてくるだろう。
『反則』と言っていい事態にさすがに皆衝撃を受けるが、レンは笑う。
「メイ……まだ試してないやつ、いってみましょうか」
「りょうかいですっ!」
気合の入るレンに、笑い返すメイ。
「あとはタイミングだけよ」
『反則』度合いでなら、もちろんこちらも負けてはいない。
「さてその頭、八つで足りるかしら……?」
そう言ってレンは、メイの肩に両手を乗せた。
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