946.八岐大蛇
ヤマトの帝となるため、三種の神器である【天叢雲剣】を狙った藤原真非等。
冥界から暗徳天皇を呼び出すことに成功したが、その正体はなんと八岐大蛇だった。
「……喰ってやる。今度こそヤマトの全てを、喰って喰って喰い尽くしてやる……!」
赤く輝く目に、苔の生えた角。
八つの長い首を持つ蛇龍は、圧倒的な大きさ。
その巨大さはもう、全体像が把握できないほどだ。
「これは……」
「今まで見てきた魔物の中でも、最大級ね」
「お、驚きました」
「すごーい!」
碁盤目状に建物が並ぶ、京の町。
現れた古代の魔物。
その長い八つの首を真っ直ぐに持ち上げると、夜空を遮るほどになる。
「とんでもない相手ぽよっ!」
「さすがメイちゃん、スケールがすごい……!」
「フフフ。使徒長の相手には、これくらいが相応しいということか」
現れた敵の大物さに、観客たちはもちろん掲示板組も大興奮。
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!」
青い満月の下、八つの頭部が同時に咆哮をあげる。
その赤い目がメイたちに向けられ、始まる戦い。
八つの頭部が、一斉にその大きな口を開く。
「「「「っ!!!」」」」
八体同時の大炎弾攻撃。
一つ数メートルという大きさの炎弾が、八つまとめて降り注ぐ。
「あいさつ代わりって感じ!? ずいぶん豪華じゃないっ!」
「レ、レンさんっ! 【天雲の盾】っ!」
まもりはすぐさまレンの前に立ち、防御に入る。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
メイとツバメは、高速移動で距離を取り回避。
直後、降り注いだ八つの炎弾が炸裂して盛大に猛火を巻き起こした。
その炎の大きさに観戦者たちが、思わず驚きの声をあげる。
「ッ!?」
炎が収まり出したその瞬間、その中から飛び出してきたのは蛇龍の頭部。
人間一人など余裕で飲み込めるほどのアギトを開き、低い位置を高速で接近してくる。
メイはこれを、横へのステップでかわす。
すると続けざまに、同じく炎の中を追いかけるようにして現れた二つ目の顔が、喰らいつきにきた。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
メイはしっかり三頭目の気配がないことを確認して、回避。
大きな後方跳躍で、距離を取る。
「ッ!?」
そして、驚きに尻尾を突き立てる。
下がったメイの横にあった建物に、突然大穴が開いた。
民家を突き破って出てきたのは、三つ目の蛇龍の頭部。
長い牙の並んだ口を開き、喰らいつきにくる。
「【アクロバット】!」
いち早く気づいたメイはこれをスレスレをかわすが、足を弾かれ軽いダメージを受けた。
「メイさん!」
「ツバメちゃんっ!」
メイを心配して出た声に、しかしメイは緊急を伝えるような声で返した。
その視線は後方。
振り返ると四つ目の蛇龍の頭部が、なんと碁盤目状の町の『後方』から回り込んできていた。
敵の大きさや戦いの規模が、並の大ボスとは違うことを知らしめるような攻撃に、驚くツバメ。
慌てて回避するが、通り過ぎる蛇龍の角に肩を斬られる。
「助かりました! 今までの常識がそのまま通じる相手ではないようですね……!」
それでも、直撃を避けられたことに安堵。
すると残った三つの頭部が、再び放つ火炎弾。
今度はレンとまもりが下がり、メイとツバメのいるところまでラインを下げていく。
放たれた火炎弾は道にぶつかり弾け、街に次々と火事の炎を灯していく。
「「っ!!」」
レンとまもりを追いかけてきたのは、一つの頭部。
【火炎放射】しながらの接近という攻撃に、さすがに二人は息を飲む。
道のほとんどを塞ぐ広さの火炎放射。
これをかわすには次の角まで行くか、速く高い跳躍が必要だろう。
二人には厳しい状態だ。
「おねがい! いーちゃん!」
「これはっ! 【不動】【天雲の盾】!」
まもりの防御は、的確で速い。
吹き荒れる暴風が火炎放射の炎を払い、迫る蛇龍の頭部も同時に止める。
対してまもりは盾を『メイの方に向ける』ことで、暴風による転倒を防いでみせた。
「二人とも、助かったわ!」
見事な防御連携。
レンは二人にお礼を言いつつ振り返り、杖を構える。
「本体まではずいぶん距離があるけど! 【魔砲術】【フリーズストライク】!
恐ろしい長さの首を持つ八岐大蛇だが、その巨体ゆえに本体への攻撃は容易。
レンは遠距離魔法攻撃で八岐大蛇の身体を狙い、氷砲弾を炸裂させた。
ダメージは1割にも満たないが、素の状態の単体攻撃で3%ほどのダメージになるのなら悪くない。
レンが続けての攻撃を狙い――――その手を静かに下ろした。
「……そういうことね」
八岐大蛇との戦い、そのシステムに気づく。
本体に与えた傷は、あっという間に再生回復。
「おそらく本体への攻撃はいくらしても倒せない。あくまで頭を潰せってことね」
一つ一つの頭部にもHPゲージがあり、そして『総合HPゲージ』が本体にある。
このパターンは、頭部を潰すほどに総合ゲージが大きく減る形式だろう。
「炎弾、くるよっ!」
蛇龍の頭部が四つ、一斉に吐き出す大炎弾。
これをメイとツバメは足でかわし、跳ねる炎をまもりが盾で防ぐ。
「【バンビステップ】!」
メイは走り出し、蛇龍たちの火炎放射の的になる。
四体の頭が同時に火炎を吐きながら迫る状況は、炎のローラー作戦状態。
しかしメイは建物から建物へと跳ぶ、三次元の動きで隙間を抜けていく。
「いーちゃん!」
そこを狙う五つ目の頭部が吐き出した大炎弾も、屋根を駆ける暴風が軌道を変える。
すると火炎放射を終えた頭部が、口内に炎を『溜め』始めた。
【火産霊連華】(ほむすびれんげ)は、四体の頭部が放つ灼熱ブレス。
互いを追い抜き合うような形で迫る頭部が、口内の紅蓮の輝きを放つ。
町を丸ごと焼いてしまうのではないかという巨大な炎が容赦なくメイを飲み込み、観戦者たちが息を飲む。しかし。
「効きませんっ!」
メイはこれを【王者のマント】で払う。
舞い散る火花。
生まれた隙を突くのはツバメだ。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】【跳躍】!」
屋根の上を、高速で駆け抜けジャンプ。
「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
四連続の水刃で、一番低い場所にいた頭部を切り裂く。
「【フリーズブラスト】!」
すぐさまレンが続き、凍結が成立。
「【ターザンロープ】!」
するとメイがロープを投じ、凍結中の首に引っ掛けた。
「せーのっ! それええええっ!」
力任せに引っ張ると、凍結蛇龍はその頭を地面に叩きつけられる。
「い、いきますっ! 【シールドバッシュ】!」
そこに駆け付けたのはまもり。
「なんだこの連携っ!?」
「こんな流れ、よく即興で思いつくな!」
早くもその見事な連携で、観戦者たちを虜にするメイたち。
蛇龍の頭部は、今の流れで4割強ほどHP減少。
燃え盛る京の町。
八岐大蛇は一つの頭部が高いダメージを受けたことで、残る七つの頭部を集合。
「ギュアアアアアアアア――――ッ!!」
一斉に猛烈な咆哮をあげる。
すると町会一つを丸々治めるほどの広範囲に、大量の火花が滞留。
パチパチと、嫌な音を響かせ始める。
「……おそらく火花の舞ってる範囲が爆発炎上するやつね。全方向の範囲攻撃だし、逃げるのはもちろん盾防御も厳しいと思う」
「恐ろしい攻撃ですね」
「反撃を狙ったイチかバチの賭けをするなら、まもりに抱き着いてこらえる形だけど……」
「わ、私ですか……っ!?」
もちろん何をするのかは分かっているが、それで大丈夫かという自信は持てないまもり。
「まあダメならその時考えましょう。うまくいったらメイ、思いっきり反撃よろしくね」
「りょうかいですっ!」
「きますっ!」
火花の音が大きくなり、メイたちはまもりにギュッと強く抱き着く。
「――――【加具土炎舞】(かぐつちえんぶ)」
カッと猛烈な輝きから、付近一帯が一瞬のホワイトアウト。
遅れて、影すら焼き尽くす豪火が天を焼く。
「いいいいいきますっ! 【水球の守り】っ!」
生み出す水のバリアはまもりを中心に生まれ、抱き合う四人を包み込む。
迫る灼熱は容赦なくメイたちを飲み込み、脅威の範囲攻撃が付近一帯を炎の海に変える。
水の守りは、強烈な熱波に焼かれて消えた。
しかし、ダメージはなし。
海の王が残した技は、メイたちを見事に守り抜いた。
「――――【バンビステップ】」
メイは走り出していた。
その手には、早くも握られた【世界樹の実】
かじりつき、その【腕力】を大きく向上させる。
半壊した建物の壁を蹴り、崩れず残った屋根を飛び越え、硬直中の八岐大蛇の首に狙いをつける。
「【ラビットジャンプ】! からの――――【フルスイング】!」
一撃で斬り飛ばされる、蛇龍の頭部。
メイは止まらず屋根を疾走。
すぐさま次の首のもとへ駆けつけ、再び跳躍。
「【フルスイング】!」
二つ目の頭を飛ばしたところで、動き出した頭部の一つが【喰らいつき】に接近。
「もう一回【フルスイング】だーっ!!」
三連続の豪快な斬り飛ばし。
しかしその隙を突き、迫る四つ目の頭部。
先ほどレンたちとの連携でHPを減らした蛇龍の口内には、輝く炎。
目前で炎弾を吐き出してくるか、それとも【爆炎喰らいつき】か。
迫られる選択は、どちらでも回避。
悩むメイに見えたのは、爆炎によって崩れた五重塔の屋根部分。
「これだーっ!」
メイはその角をつかむと、頭部に向けて狙いをつける。
「…………ゴ、【ゴリラアーム】からの、【大旋風】だああああ――っ!!」
その場で屋根を持ち上げ、全力で三回転。
迫る頭部に、五重の塔の一角を真上から叩きつけた。
盛大な破砕音と共に、砕けて散る屋根。
こうして八岐大蛇の、四つ目の頭が潰され消える。
「……す、すっげええええええ――――っ!!」
「そうだよ! これこそメイちゃんの戦いだよなあっ!」
「これ、どっちが荒れ狂う神なんだ……!?」
その戦いはもはや、神と神のぶつかり合い。
「…………ぽよー」
あまりに凄まじい火力と迫力に、さすがのスライムちゃんですら言葉を失うのだった。
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