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944.タケミカヅチ

「……得意は剣より『召喚』だったのね」


 現れた『武御雷』は体高3メートルほど。

 和の鎧に白の毛皮を巻き、刀を持った人型の召喚神。

 ゴーレムのように厚い体格。

 紅色の兜に隠れた目が、怪しく光る。


「これはまた、人の身には過ぎた術じゃな」

「そんなことはありませんよ。これから僕はヤマトの帝になるのですから、むしろふさわしいのです」


 そう言って、真非等は笑う。


「刹那たちの大罪悪魔だけじゃなく、武神のパターンもあるわけね……ちょっとカッコいいかも」


 武者型の召喚、しかも古き神。

 その迫力に、レンは思わず息を飲む。


「気を付けて。武御雷は剣の神かつ雷神だから、間違いなく雷による攻撃も入ってくるはずよ」

「りょうかいですっ」


 手にした大柄な刀。

 武御雷は左足を前に出し、刀を引く形で構える。

 その威容に、さらに増えた観戦者たちも感嘆する。


「さあ、始めましょう」


 真非等のその一言で、武御雷が動き出す。

 ドン! と、地面が揺れるほどの踏み込みから接近。

 そしてそのまま、その長い刀を振り下ろす。


「ち、【地壁の盾】っ!」


 これを受けるのはまもり。

 敵の迫力に飲まれながらも、防御は見事に成功。

 しかし単純な振り降ろしにもかかわらず、その威力はすさまじい。


「っ!」


 生まれた衝撃波もあり、まもりは大きく弾かれ下がる。

 この隙を突き、駆けてくるのはメイとつばめ。

 対して武御雷は、手にした刀を振るって応戦。

 剛腕によって振るわれる刃を、二人はしっかり見定めて回避する。


「これはなかなか……っ」


 一撃ごとに吹き荒れる風に、ツバメの髪が大きく揺れる。

 やはり武御雷は、剛の召喚神。

 荒々しく振るわれる刀に、接近を妨げられる。


「【雷法斬】」

「「っ!?」」


 両手で掲げた刀に、落ちる雷。

 視界を焼くほどの雷光が、煌々と白く輝く。


「剣の軌道に注意するのじゃ! 回避しても『軌道付近』にいれば感電してしまうぞ!」


 たまちゃんの言葉に、メイとツバメは直撃を避けつつ防御態勢を取る。


「「っ!!」」


 回避では感電の可能性あり、防御でも大きくのけ反るほどの火力。

 そんな一撃に、二人は体勢を崩した。


「【瞬影】」


 この隙を狙いに走るのは、真非等。


「そうはいかないわ! 連続魔法【誘導弾】【フレアアロー】!」

「くっ!」


 しかしレンが接近を許さない。

 真非等は足を止め、迫る炎矢を開いた傘で防御。

 一方武御雷は再び刀を振り上げ、【雷法斬】を放つ。


「【不動】【天雲の盾】!」


 今度はまもりが受け止めた。

 大きな刀とまもりの盾がぶつかり、凄絶な雷光を輝かせる。


「ど、怒涛の展開だな」

「ああ……」


 その激しさに、観戦者たちは息をするのも忘れてしまう。


「【加速】」


 この見事な防御の隙を突き、駆け出していたのはツバメ。


「【跳躍】【回天】!」


 長い距離を跳び、そのまま空中で一回転して放つ【村雨】の一撃が武御雷の肩口に決まる。


「ダメージ……こんなに低いのですか……!?」

「剣の切っ先に乗っても刺さらなかったっていう逸話から生まれた耐性ね! ここは、魔法が鍵になる……っ!」


 思わぬ高い耐性を見せた武御雷。

 またもその右手を、高く掲げる。


「【震天大雷】」


 夜空に輝くまばゆい白光に、思わず顔をあげた。

 すさまじい勢いで雷鳴が鳴り、付近一帯に容赦ない轟雷が落ちる。

 回避の難しい落雷の雨に、皆が立ち止まっての防御を選択。そんな中。


「【コンティニューガード】【天雲の盾】! 【チャリオット】!」


 まもりは盾を掲げて突き進む。

 一発、二発、そして三発と落ちる落雷は確かにまもりの盾を打つが、それでも止まらない。

 世紀末を思わせる激しい落雷の中を駆け抜けたまもりは、そのまま武御雷のもとへ。


「【シールドバッシュ】!」


 左手に持った二つ目の盾を振り回して敵の体勢を崩す。


「すごい……! ここは絶対に攻撃を成功させないと……っ!」


 まもりの見事な反撃で生まれた隙。

 そしてこの戦いは、魔法が鍵になる。

 レンは【常闇の眼帯】と【宵闇の包帯】を取り払い、掲げた杖を振り下ろすようにして武御雷に向ける。


「【フレアバースト】!」


 放つ四連発の爆炎は、夜空を駆け直撃。

 真紅の炎が炸裂し、闇夜ごと武御雷を焼き尽くす。


「これで4割減、やっぱりカギは魔法ね……!」

「うおお……っ」


 血のついた剣を払うような素振りで杖を振り下ろすレンの姿に、思わずもらす歓声。


「へえ、想像以上の難敵ですね。ならば、これならどうです?」


 真非等が呼びかける。

 すると武御雷は走り出し、手にした剣をメイに向けて振り払う。


「【ラビットジャンプ】!」


 これをメイはスレスレの高さで跳んで回避。

 返す刃も身を低くすることでかわしてみせた。


「【氷霊剛腕】」


 すると武御雷は空いた左手を掲げ、一瞬で巨大な氷の腕に変えた。

 迫る、氷腕による叩きつけ。

 これをメイはしっかり見定めて、『指の隙間』を抜けるという驚異的な回避を披露。

 そのまま【アクロバット】によるバク転で体勢を整える。


「【瞬影】」


 だがこの瞬間を狙って動いていたのは、真非等。

 番傘から引き抜いた仕込み刀で、メイを狙いに行く。


「させぬっ! 【狐火弾】!」

「くああっ!」


 これをたまちゃんが、青い炎弾を直撃させて弾き飛ばした。


「たまちゃんありがとーっ!」


 カウンターを喰らった真非等が転倒したことで、メイは再び武御雷と向かい合う。

 剣ではダメージが取りにくい相手。

 迫るメイに対し、武御雷はここで再び素手による攻勢を選択。

【腕力】を大きく上げる【極腕】による『つかみ』で、メイに攻撃を仕掛ける。

 するとメイも、これに真っ向からぶつかりに行く。


「お、おい! なんだこれ!?」


 あがる驚愕の声。

 3メートルに迫ろうかと巨大な武御雷とメイが真正面からぶつかり、互いをつかみ合う。

 相撲の開祖とされる武御雷を相手に、まさに『立ち合い』のような状況になったメイ。

 だが武御雷は、脅威の腕力を誇る武神だ。


「う、うわわわわわっ!」


 一気にメイを押し出していく。


「メイちゃん!」

「メイちゃん負けるな!」


 下がっていく足、自然と熱くなる声援。

 抱え上げようとする武御雷の力で、ついにメイのカカトが軽く浮き出した。

 ここでメイは、全力を解放する。


「……【ゴリラアーム】」


 力関係が、一気に逆転する。

 武御雷とつかみ合ったままのメイは、なんと一転して相手を押し返し始める。

 一歩ずつ、しかし確かに踏み出してくるメイに、武御雷は後退。


「いきます……っ!!」


 そして武御雷を十分に押し下げたところで、メイは両手で敵の右腕をつかみ、強引に背負い投げにいく。


「そぉぉぉぉれええええええええ――――っ!!」

「「「「ッ!?」」」」


 豪快に一回転した武御雷は、床石に叩きつけられ盛大に砂ぼこりをあげると、大きく跳ね上がった。

 観戦者たちだけでなく、ツバメも、まもりも、たまちゃんすら呆然とするメイの背負い投げ。

 そんな中でもレンは、杖を構えていた。


「ここっ! 【フレアバースト】!」

「【狐火砲】じゃ!」


 レンの動きに反応するように、たまちゃんも『青いフレアバースト』で追撃。

 跳ね上がり、隙だらけになったところに赤と青の爆炎を叩き込む。

 こうして武御雷のHPを半分を、3割近くまで減らすことに成功。

 掲示板組でさえ言葉を失う、豪快過ぎる展開だ。


「オ、オオオ、オオオオオオオ――――ッ!!」


 しかしHPが大きく減ったことで、雷神は荒れ狂う。

 目を開いているのも大変な、【震天大雷】の連続使用。

 それが止まった瞬間、迫り来る武御雷の刀。

 これをメイがかわすと、再び巻き起こる落雷の乱舞。


「ちょっと! これはさすがに厳しすぎるんじゃない!?」


 荒ぶる神の攻撃は、掻い潜る隙間すらない。


「……任せよ! わらわが隙を作る!」


 するとそう言って前に出たのは、たまちゃん。


「【変化】!」


 そう言って武御雷の前に出たたまちゃんは、巨大な狐に変身。

 浮かび上がった無数の【狐火】で、集中砲火を放つ。

 しかし武御雷は、ダメージを受けながらも突進。

 そのまま太刀で、たまちゃんを一刀両断した。


「たまちゃん!?」


 思わず悲鳴を上げるメイ。


「なんじゃ?」

「……えっ?」


 しれっと横から出てきた、たまちゃんのウィンクに驚くメイ。

 すると【まやかし】で生み出された大狐が、爆発炎上。

 青い炎が、武御雷を焼いていく。


「さあ今じゃ! 攻撃を集中せい!」

「【加速】【稲妻】!」


 一番槍はツバメの斬り抜け。

 雷光を描く高速の一撃は、一瞬で敵を置き去りにして駆け抜ける。


「【フリーズブラスト】!」


 続くのはレン。

 氷嵐が直撃し、あらためて武御雷の体勢が崩れる。

 そこに駆けつけるのは、たまちゃんとメイ。


「【狐火九連】!」


 たまちゃんは、華麗な跳躍で夜空に舞う。

 大きく膨らんだ尻尾。

 放つ九連続の青い炎は弧を描いて敵に激突し、盛大に青い火の粉を巻き上げて炸裂。


「【装備変更】【ラビットジャンプ】!」


 月夜に躍り出たメイの装備が、【猫耳】から【狐耳】に変わる。

 いまだ【狐火九連】の火の粉が舞い散る中、掲げる剣。


「ジャンピング【ソードバッシュ】……エクスプロードだぁぁぁぁ――――!!」


 衝撃波が巻き上げた青の炎は天高く舞い上がり、付近一帯を青白く照らし出す。

 武御雷は粒子となって消え、たまちゃんは得意の両手で狐を作って決めのウィンク。

 遅れて着地したメイが同じく両手に狐を作れば、ポーズは完璧だ。


「「「お、おお、おおおおおおおおおお――――っ!!」」」

「メイちゃんたちの戦い……すごすぎだろ!」

「カッコいい……っ!」


 身体がゾワゾワするような戦いに、思わず興奮にわき立つ。

 そんな中でも、忘れていない。


「ぐっ!?」


 突然上がった悲鳴は、真非等のもの。

 いまだ残る敵に対し、メイたちの派手な花火の裏で動いていたアサシン少女。


「まもりさん、お願いします!」

「はひっ! 【シールドバッシュ】!」

「うああああああっ!」


 動きを止めた真非等に叩き込まれる、盾の振り降ろし。

 生まれる衝撃波に吹き飛ばされた真非等は、派手に転がった。


「な、何が起きたんだ?」

「消える【投擲】だ……」


 ツバメの動きを参考にしようと追っていた、忍者プレイヤーがつぶやく。

 何とツバメは燃え上がる武御雷の巨体を壁にして、真非等の視界から自分の姿を一時的に消し、【不可視】による【ブレード】の【投擲】を行っていた。

 あとは突然刺さった一撃に真非等が虚を突かれたところを狙って、まもりが攻撃を入れたという形だ。

 派手なメイたちの影で、しっかりと仕事を全うしていたツバメに、忍者プレイヤーが唖然とする。

 フラフラと立ち上がった真非等のHPは、残り3割を切った。


「……大したものですね。まさか武御雷をもってしても勝ちえないとは」


 傘を地面に突き、「参りました」と降参を宣言。

 武装が解除され、戦いが終了した。


「さすがウカノミタマが認めた者たちだ…………ですが」


 しかし真非等は、敗戦に全く動じていない。


「それでも僕が帝になることに、変わりはありません」


 そう言って笑みを浮かべると、夜空の青い月が煌々と輝き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ奥の手が有るってことかな? それにアサシン組織もまだ姿を見せていないし、ここからさらに一波乱。 でもコイツの悪役としての底はもう見えたような気がしちゃう。
[一言] 超難問論理クイズ「幼女と7枚のカード」が難しいけど面白すぎる 行きますね 問題 1〜7の数字が書かれた7枚のカードがある。 これをよくシャッフルして幼女ABCの3人に以下のように配る。 …
[一言] たまちゃんが九尾の狐にパワーアップとかしたら強いかもね。
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